SaaSアナリティクス — 今さら聞けないサブスクリプション・ビジネス最重要指標 — Vol. 8- CLV(顧客生涯価値)の計算方法

Ikuya
8 min readJun 30, 2019

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どうも!シリコンバレー発、データサイエンスの民主化を行なうためのツールを作っているExploratoryという会社で働いているIkuyaです。前回はCLV(Customer Life Time Value / 顧客生涯価値)とは何か、なぜSaaSやサブスクリプションビジネスにとって最重要な指標の1つなのかについて、簡単に説明しました。

今回はそこから一歩さらに踏み込んで、CLVの計算方法について具体的に話します。

CLV(顧客生涯価値)の計算方法

CLVはSaaSなどのサブスクリプションビジネスにおいて1人の顧客がサービスを購読を開始してから、解約するまで通算で見込むことができる収益のことでした。

ではCLVをどのように計算するかというと、実はいくつかの方法があり、今回は二つの方法を紹介していきます。

平均継続期間と平均収益から計算する

よくある計算方法として紹介されるやり方は、まず平均的なサービス継続期間を算出するという方法で、これは1をチャーン率で割ることで求められます。

仮に月次チャーン率が10%の月額サービスの場合、平均継続期間は下記の計算より10ヶ月として計算できるわけです。

平均継続期間を求めることができれば、一人あたりの平均収益を掛けることでCLVの計算が可能となります。

例えば上述のサービスが仮にアップグレードもダウングレードもない月額1万円のサービスだった場合、月額1万円のサービスを平均して10ヶ月間利用するのでCLVは10万円となります。

ところで、そもそも1をチャーン率で割ると、なぜ平均継続期間が計算できるのか、という疑問があるかと思います。これは計算していくと証明することができるのですが、その話をはじめると読者の皆さまが眠ってしまう可能性があるので別の機会に話をさせていただきます。(笑)

ただ一つだけ注意が必要なポイントがあります。それはこの計算方法が毎月毎月のチャーン率が変わらない想定を元にした計算になっているということです。

チャーン率の罠

コホート分析の回でも触れましたが、そもそもチャーン率は全体に占める新規顧客の割合が高い場合はチャーン率は高めになり、逆に既存顧客の割合が高い場合であれば低めになるというカラクリがありました。

つまり月次チャーン率など、ある瞬間を切り取ったチャーン率は顧客のサービス継続期間の分布の変化を受けやすいと言え、顧客のチャーンや継続状況を正しく把握したいのであれば生存曲線を利用したコホート分析をすべきという話をしました。

そこでCLVを計算する二つ目の方法として、コホート分析で利用した生存曲線を使って計算する方法を紹介していきます。

生存曲線を利用して CLVを見積る

生存曲線についてはこちらで詳しく触れていますが以下のようなチャートでした。

この生存曲線では顧客全体の購読開始タイミングからの生存率が経過時間ごとに表現されていました。

例えばサービスの購読開始から1ヶ月目の顧客全体の生存率(サービスを継続している割合)は85% 、2ヶ月目は80%といった具合です。

ではどのようにして生存曲線からCLVを求めるかという話をしていきたいのですが、その前に今一度、CLVがどういったコンセプトであったかを振り返ると、CLVは顧客を獲得してからチャーン(解約)するまでに得られる収益の見込みのことでした。

言い換えればCLVは一人の顧客を獲得した時に通算で得られる収益の期待値と言うことができるのです。

期待値

例えば、とある当たりくじがあったとして、1回くじを引くごとに1万円の当たりが出る確率が1%で、100円の当たりが出る確率が10%だとします。この時、一回くじを引いた時に期待できるリターン、つまり期待値は下記の通り20円ということができます。

10,000円 × 0.01 + 100円 × 0.1 = 20円

つまり期待値は、ある事象が発生する確率に、その事象が起きた時の成果を掛けたものを足すことで求められます。実はCLVもこの期待値を使って計算することができるのです。

月毎に得られる収益の期待値

よりイメージがしやすいように、ここからは生存曲線を下記のようにバーチャート(棒グラフ)に置き換えたもので説明します。

まずは購読開始1ヶ月目の収益の期待値を見ていきましょう。仮に1ヶ月目にチャーンするユーザーがいたとしても、初月の収益は得られるので、生存している確率は100%となります。そして月額1万円のサービスであった場合、下記のように1ヶ月目の収益の期待値は1万円になるわけです。

次に2ヶ月目の期待値を見ていきます。仮に2ヶ月目の生存率が85%だとすると、2ヶ月目の収益の期待値は下記のように8,500円になるわけです。

同じように3ヶ月目の期待値を見ていきます。仮に3ヶ月目の生存率が80%だとすると、3ヶ月目の収益の期待値は下記のように8,000円になるわけです。

SaaSの場合、時間が経過すればするほど生存率は減っていくので、同じように4ヶ月目、5ヶ月目、…ヶ月目と計算を繰り返していくと、期待値は減り、やがて生存率は限りなく0%に近くなり、得られる収益の期待値も同じように0円に近づいていきます。

逆に言うと、期待値が限りなく0円になるまでは顧客からの収益が期待されると言え、期待値が0円になるまでの収益の期待値を足し上げたものがCLVとなるわけです。

生存曲線を使った見積方法における注意点

この計算方法のいいところは、顧客全体の状況をより正確に反映した形でCLVを見積ことができる点です。

一方で例えばサービスのローンチから日が浅く、多くのユーザーが購読開始から継続し続けている場合は、将来的に期待できる収益が含まれないので注意が必要と言えます。

例えばサービス提供から10ヶ月しか経過していないサービスがあったとして、初月に購読を開始した顧客の半数近くが購読を継続していた場合、10ヶ月目以降も収益が得られる期待ができるにも関わらず、それを考慮せずにCLVを計算してはCLVが正確に計算できないということです。

上記のような場合は、将来の生存率の推移を予測することでCLVを計算することもできますし、上記のようにサービスが始まってから間もない頃は将来の状況が読めないことも多く、CLVを追うフェーズではないと言うこともできます。

どちらの方法で計算するべきか

顧客全体の状況をより正確に反映した形でCLVを算出することができる点において生存曲線を使って算出する方法がいいと言えます。

あとがき

今回はCLVの算出方法についての話をしました。Exploratoryを使うと、顧客の利用状況のデータなどをラングリング(加工・整形)して簡単にコホート分析ができます。さらにコホート分析で使う生存曲線を利用しCLVを計算することも簡単にできるのですが、これらの方法については今後開催するセミナーや、別の機会で話していきたいと思います。

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