UXデザインに活用できるメンタルモデル10例(前編)

Code Republic
9 min readMay 21, 2019

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YJキャピタルの蒋永傑です。

中国語に記事を中心に翻訳していきたいと思います。今回はUXデザインに関するこちらの記事を紹介します。

デザイナーがどのように製品を構想しているかに関係なく、エンドユーザーのユーザー体験は常に個々の偏りや世界観に基づく、ユーザーのメンタルモデルに影響されています。

―――「The Design of Everyday Things」 ドナルド・ノーマン(認知科学者、元アップルVP役員)。

メンタルモデル(英: mental model)とは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したもので、今のプロダクトデザインに大きな影響を与えています。この記事では、製品設計に影響を与える、特に相互に関連して機能するメンタルモデル、さらには行動経済学についてお話します。

心理価値と固有価値

  1. Endowment Effect 授かり効果

授かり効果とは、合理的な交渉を妨げる心理バイアスの1つ。自分の持っているものを高く評価し、手放したくないと考えること。自分がすでに持っているものを高く評価してしまうのは、それを失うことによる損失を強く意識しすぎてしまうのが一因とされる。―――MBAのグロービス経営大学院

アイスクリームを例としましょう。

「売る側である時は、5ドルで売りたい。しかし、買い手である時では、同じアイスに3ドルしかお金出したくない。」

この心理バイアスを、どのようにUXデザインに活用するのでしょうか?

ある研究結果によると、ユーザーは自分の個人情報に関して、代価を支払って個人情報を守るより、わずかな利益でその情報を譲渡してしまう傾向があります。このような現象に対して、アプリ会社は「デフォルト設定」という工夫をしました。「デフォルト設定」で「情報を公開する」と設定することでユーザーは便利な機能が使えます。ユーザーから見ると、その個人情報は最初から自分のものではありません。この場合、ユーザーにとって個人情報に対する評価額も低いのです。一方で、今使っている機能は自分の権利であるため、評価額は高いです。逆に「情報を公開しない」と設定すると、ユーザーは個人情報が自分のものだと強く認識し評価額が高くなります。つまり企業にとっては、ユーザーに個人情報を公開してもらうために、同じ便利な機能を提供するだけでは足りなくなってしまうのです。アメリカの電子マネーアプリ「Venmo」はまさにそのような例の一つでした。

そして、これは次のメンタルモデルにも繋がっています。

2.Status Quo Bias 現状維持バイアス

いわゆる「デフォルト」「慣性」の意味です。「物理学では、「慣性」とはある物体が外力を受けないとき、その物体の運動状態は慣性系に対して変わらないという性質を表します。静止している物体に力が働かないとき、その物体は慣性系に対し静止を続けます。運動する物体に力が働かないとき、その物体は慣性系に対し運動状態を変えず、等速直線運動を続けます。」人間も同じく、現状維持の傾向があります。

この傾向を、どのようにUXデザインに活用するのでしょうか?

先ほど紹介した個人情報の「デフォルト設定」と似たような仕組みが、Google Chromeの「自動ログイン」にも見られています。「自動ログイン」とは、「Gmail」や「Googleマップ」といったGoogleサービスにWebサイト上でログインすると、Chrome自体も同じアカウントで自動的にログインするという連携機能です。Chrome自体のログインは、好むと好まざるとにかかわらず、Googleとの間で閲覧データをおのずと共有する第一歩になります。「Chrome 70」から、自動ログイン機能は「デフォルト設定」になっています。しかし、現状維持バイアスがあるため、個人情報の漏洩が心配でも「デフォルト設定」から変更するユーザーは少ないです。よって、GoogleのG-suiteエコシステムは大量のデータを手に入レルことができました。Spotify、Netflixまたはアマゾンprimeなど、定期購読モデルのサービスはこういう仕組みを活用しています。アマゾンprimeを例とすると、最初はお得な30日分の無料体験で、「購読しない」という慣性を打ち破ります。その後、「購読する」という慣性が働くと、ユーザーは購読を継続する可能性が高くなります。

イノベーション

3. Functional Fixedness 機能的固着

機能的固着とは、人はある機能をある物体に付着する傾向です。本来のある機能を認識すると、その他の作用を考えなくなります。機能的固着の発生原因は、心理的要素と行動習慣の2つが含まれます。機能的固着は、我々が創造的な問題解決にネガティブな影響があり、そのため、あらゆる方法でこのネガティブな影響をなくさなければなりません。

――Baidu百科

これは一種の認知バイアスであり、人は新しい視点から製品と体験を想像できなくなります。イノベーションは、いわゆる「知識の呪い」に阻害されます。人は見慣れたものに対して、その固有の属性を無視して全く新しい目線から見ることができなくなりました。Daniel Kahnemanはこのような認知方式を「早い思考(fast thinking)」と呼びます。(注:詳細はDaniel Kahneman著、『Thinking, Fast and Slow』)習慣化した認知方式は、無意識的に認知バイアスを形成させ、イノベーションを阻害しています。

adam grantは、彼の著書『Originals : How Non-Conformists Move the World』の中でも、この点について言及しています。

「イノベーションの出発点は好奇心です。親しみのあるものごとに直面する時に、試しで全く新しい視点から見てみてください。それは古い問題から新たな見解を獲得させてくれます。」

学習経験の豊富な人も、固着から免れることができません。そのため、アメリカの訓練兵は、全く新しい環境にいる時に、右から左へという順番で観察去るように強制されています。この順番は、彼らの言語認識する時の順番と真逆で、このような訓練は、彼らを新しい視点から観察できるようにさせ、異常を発見しやすいといいます。

これはUXデザインにおいてどう現れるのか

時間の流れとともに、機能的固着はだんだん強化され、従来の思考方式を「正しい」思考方式だと思い込ませてしまいます。UXデザインにおいて、大事なのはいつ伝統的かつ効率的なやり方を守るべきか、いつ常識を破りイノベーションの機会を求めるかを認識することです。そしてその思考方式を新たな習慣として定着させることです。

Wechatを例として見てみると、中国モバイルインターネット業界における成功を支えているのは、Wechatの主導的イノベーション戦略です。Wechatの開発初期では、既読機能はすでにiMessage、Whats app及びLineで定着しています。しかしWechatの開発クルーは、あえてその機能をWechatから外しています。なぜなら、それがユーザーのプライバシーを侵す恐れがあり、またメッセージの送信者は既読無視されたと感じると考えたからです。

4.First Principles Thinking 第一原理思考

「物事の本質をゼロから考える」という意味です。物事を最も基本的な要素に分解して、問題点と解決策を見つけることで、機能的固着を避けるための手段です。第一原理思考を駆使すれば、ノイズから問題を練り出して抜本的な革新を思いつくことができます。

テスラ社のイーロン・マスク氏のSpaceXを例とします。

「私には、物理学的な枠組みでものごとにアプローチする傾向がある」とマスクは『ワイアード』のインタビューのなかで語っていました。

「物理学が教えてくれるのは、類推ではなく第一原理をもとに理屈を考えることだ。だから私は、こんなふうに考えた。よし、第一原理を見てみよう。ロケットは何でできているのか。航空宇宙グレードのアルミ合金と、若干のチタン、銅、炭素繊維だ。それから、こう考えた。これらの材料の商品市場での価値はどれくらいか。その結果、ロケットの材料費は、一般的な価格の2%ほどだということがわかった」もちろん、労働力の問題もあるし、部品の組み立て方を知る必要もあります。だが、マスクはそうした複雑な問題にも怯みませんでした。そして数年のうちに、利益を維持したまま、ロケット1台の打ち上げ費用を10分の1近くまで削減しました。マスクは第一原理思考を駆使して、ロケット製造を基本的な部品──絶対に確実だとわかっている要素──に分解し、そこからどうすればより効率的にロケットを製造できるかを検証したのです。

(後編に続く)

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