奥能登での市民・行政での開発が進むシビックテックを覗いてみたら(後半)

by Reisiu Sakai, Researcher

前半はこちら

こんにちは!
アイパブリッシング株式会社 研究員(エヴァンジェリスト見習い)の坂井です。皆様いかがお過ごしでしょうか?

シビックテックってなんじゃらほい!?

と、本人自身がそう思っています。

よくわかってないというところを活かしつつ、
「シビックテック」を皆さんにお伝えしていく任務を受けております。
いわばエヴァンジェリスト見習い中として、本稿をお送りしております!

と、すでに訳のわからない呪文を唱えていたらすみません!

坂井の仕事場所はアイパブリッシング本社内にはございません。石川県内のwifiが使えるいろんなところに出没して仕事しています。先日は石川県立図書館のインターネットを使いながらカタカタいたしました。石川県立図書館3Fには2席だけ電源の使える場所があるのです。(撮影不可のため、写真が撮れなくて残念!)

そんな訳で、もし「うちのテーブルと電源使って仕事してもいいよ?」なんて方が、いらっしゃったら割とどこにでも遊びに行きますので、ぜひご連絡を!お待ちしております!

さてさて、

前回は、「いつの間にか」子育て応援サイト「のとノットアローン」のプロジェクトリーダーになってたSさんにご登場いただいて、Sさんがなぜ、子育て情報発信ウェブアプリを作るという、市民が始めるシビックテックに参加したのか、その原点を探りました。

子育て応援サイト「のとノットアローン」トップページ

ごく少数ですが「面白かった!」という声も直接いただき筆者もSさんも、2人とも(って同一人物ですが)大喜びです。

ご感想いただけるのは嬉しいです。どうもありがとうございます。ぜひ今後こんなこと書いて欲しいとか、ご意見寄せてもらえたらと思っています。

今回は、前回に引き続きSさんと一緒に、「のとノットアローン」の開発から正式運営が始まるまでの変遷について詳しく追いながらシビックテックの要素を見ていきたいと考えています。

◎開発初期にあった大きな壁とは?

アーバンデータチャレンジ石川ブロックの初回のアイデアソン

アーバンデータチャレンジ石川ブロックの初回のアイデアソン2016年9月5日。アーバンデータチャレンジ初回のアイデアソンで「子育てグループ」というテーブルで初めて顔を合わせたメンバーらは、孤立してるかもしれない人をつなげる場としてITを利用しようと「のとノットアローン」という初期構想を2時間半で考えました。

最初のアイデアシートより。子育て情報を集約するシステムが明示されています。

このアイデアシートの時点で、エンジニアの多田富喜男さんとシスアド経験のあるSさんはかなり具体的なところがイメージ出来たようです。一方、IT系とは遠いママさんたち2人はそうでもなかったのかもしれません。

この数日後に、多田さんからアイデアソンまとめシートが生まれました。

初回アイデアソンから数日後に作られたまとめシート

ここで思いが文章になり整理されて、課題として見えたとき、Sさん含めママさんたちは「そうか!やっぱり私たち困ってるんだな!」と、ようやく言葉で整理された思いを感じました。また、このように自分たちの課題を別の目線で伝えてくれるメンバーが増えた大きな力に、感動しました。Sさんも「このメンバーなら課題解決につなげるツールを作れる確信が強くなった」といいます。

◎運用体制をデザインする

その後、次のハッカソンが始まるまで2ヶ月の間がありました。その間にSさんは運用体制を具体的に組み込んだデザインについて動き始めました。ミーティングを計3回みらい子育てネット輪島にて開催します。

輪島市の職員やママさんたちに声をかけてくれるのが、初回アイデアソンに参加されたみらい子育てネット輪島の理事の山上幸美さん。山上さんはベテランママさんで長くボランティアを続けられている方です。

2016年10月16日の輪島子育て支援センターのミーティングでGUI画面が描かれました。

1回目となる10月7日のミーティングで、「子育てグループの各主催者が自分たちでデータを入力していくのがいい」というアイデアをSさんは、だしました。その時、子育てグループを行うメンバーが集まっており、コンセプトに同意はするも、見えない負担を感じているようだったと言います。

誰がやるの?」というムードが漂い大きな山場があったとSさんは言います。入力できる画面ができたとして、私たち子育てグループのイベントデータは入力できるかもしれないが、子育て支援センターのデータを持つ行政は本当にデータ入力に協力してくれるのか・・?それにサーバの負担は・・?お金がかかるのでは・・・?

あまりに困難の道のりなのではないか、という不安ムードが漂ったときが一番厳しい局面だったとSさんは感じていたそうです。そこでオンライン上でコードフォーカナザワの福島健一郎さんにそのまま状況報告します。すると、即答が帰ってきました。

◎「やるしかない」の言葉が持つ力

アイデア段階のウェブアプリには共感しつつも、もし本当にあったとしても、本当に行政がどれだけ地図のデータを出してくれるかわからない、誰が運用できるのだろうか?そういう疑問で、会議が思考ストップみたいな感じになった・・・その時でした。

「やるしかない」というキーワードがチームに流れた瞬間がここ。

サーバーについて「コードフォーカナザワがやるしかないと思います」と福島さんがチャットで返し、その言葉を会議で伝えたとたん、周りの人たちの目つきが変わった気がした、とSさんが言います。自分たちの課題に、これだけ真剣に伴走してくれる存在があるんだ、と感じたことで、同じように「やるしかないよね」という意識が生まれたようでした。

ウェブアプリ開発なんて、やったことのないあまりにも初めてのこと、自分たちには予期しづらい不安、そこを乗り越えたのが、外側からの、コメントだったというところが興味深いです。

そして、10日後のミーティングで、具体的なGUIの設計にはいっていきます。「ふわっとこんな感じのものがほしい、ではエンジニアに伝わらないので、とにかく自分たちが使うのを前提に、具体的に書いてほしい」とSさんは色鉛筆と紙を渡しました。

「あれも、これもできるといいな」というアイデアはいっぱい出るのですが、どうしても必要なものをよりわける作業をしておかないと、使わない機能のいっぱいついたアプリができてしまった後で、使う側も使いにくいと言い出すという悲しいことを避けるために、本人たちが書くのが重要でした。

「イベント」ページ画面案。ほぼこの通り実装されました。

こうして、この最初の画面をほとんどメインで書き上げたのが、山上さんと輪島市社会福祉協議会のスタッフ竹背美穂さんでした。ここで「のとノットアローン」の主要な項目が「イベント情報」と「遊び場(地図)情報」と「相談先リスト」の3項目であること、スワイプしてカレンダーが表示されること、など大まかな必須機能が確定されました。

トップページ画面案。写真機能も”裏技”として実装されています。

無理なく開発に関わるスタイルも確立していく

3回目(11月5日)のミーティングが始まる頃からは、データ入力やデータ提供の具体的な協力者を増やしていきます。県や行政へのアプローチも行い、オープンデータではないが、すでにあるPDFの使用許諾を得ることが進んでいきます。

画面デザインに関わった竹背さんは、所属する社会福祉協議会で「のとノットアローン」の電話窓口を引き受けてくださることになり、輪島市のイベント情報のデータメンテナー(毎月のデータ入力者)としてその後も尽力されることになります。

一方で、この時点で、ママさんたちからは「本当にできるの?」という気持ちがさらに大きくなる方もおられ、普段の生活への影響を心配し「大変そう」という理由で取り組みから離れたいと告げられる方も出てきます

しかし「去る者は追わずでOK。関われる人が関われる時間だけ関わっていくスタイルがいいよね」と、いう共通意識がもともとみらいネット輪島の山上さんを中心とする皆さんの雰囲気にありました。彼女らはすでに関わる人たちが出入りするスタイルで、いろんな活動を何年も続けておられたのです。

関われる人が関われる時間だけ関わっていくスタイルがいい」というこの感覚こそが、この後の開発を後押ししていきます。

◎アイデアソンからハッカソンへ

アイデアソンから2ヶ月が経った11月14日、いよいよ金沢市内で、ハッカソンが行われます。この時Sさんは、先日のGUIのアイデアをもって、エンジニア方面の開発メンバーを募集することになります。

Sさんは大変緊張しながらプレゼンしたそうです。

「ここが第2の山場というか、プレゼンはすごく楽しみながらも緊張しました。他にもいろんな課題がプレゼンされる中、私たちの課題に、真剣に付き合ってくれる人が本当に集まってくれるんだろうか・・・?という思いでした。」

ママさんたちが書いた図を元に、エンジニアを募集することになった最初のハッカソン開発テーブルには多田さんふくめ5人の方が集まり、”UDC子育てチーム”が発足します。facebookのグループページでオンライン上で話をしながら設計の具体的な相談になっていきます。

11月14日アーバンデータチャレンジ石川 ハッカソン「のとノットアローン」のテーブル

◎デモ画面を見て、人とデータが集まってくる

多田さんがあっという間に開発を進めて、ハッカソンから2週間後の12月頭に、初期の開発画面が、スマホで見られるようになったのです!
Sさんは早速、これを輪島に見せにいきます。

2015年12月3日、能登子育て支援センターで初めて試作版を見ました

「その時のみなさんの喜んだ声や顔は印象的でした。

えぇ〜〜〜!!本当に、描いた通りのものが、う、動いてる〜〜!

と他の部屋にいる人たちにも声をかけて大騒ぎでした(笑)。その様子を写真にとってエンジニアの多田さんに報告すると、多田さんがまた、とっても喜んでくださるんですよね。

課題解決をしたい人たちの集まりには、こういう需要と供給の循環があるんだなと感じました。解決に近づくということで喜ばれることがエンジニアさんのモチベーションにつながる、お母さんたちの喜びによって、エンジニアさんにモチベーションが供給されるというか。

そして一旦は離れるといったお母さんが開発画面が動いているのを見て、「やっぱり私がデータを集めてきます!」と再び戻ってきてくれました。その方は輪島親子昆虫クラブの本口夏美さん。

本口さんは瞬く間に公園のデータを持っている部署と交渉して公園や公民館の位置データを行政から集めてくださったのです。これで公園のマップが充実し、また開発に拍車がかかっていきます。

そして、糸作家のとねさんが動作確認などに積極的に関わるようになり、輪島在住の鈴木翔太さんが定期的なデータの入力などを受け持ってくださるようになり、神奈川県在住のアーティストの石崎奈緒子さんがデザインの協力をするようになり、他にもデータの整備に動き始める方が次々と増えていききました。

エンジニアさんなら、設計図をみただけで脳内で動作のイメージができますが、データを集めて運用していくママさんたちは当初イメージできませんでした。システム図より踏み込んだ試作版のプレゼンを丁寧にすること、具体的な動作状態を見せながら開発を進めていくというのが市民の開発では大事だとこの時とっても感じました。」

ここから、能登方面のチームと、金沢チームとのいわば通訳役となり、Sさんは正式運用開始を始める3月までの間にハッカソンやミーティングを数回。能登と金沢を往復します。

「金沢から能登まで3時間弱という距離が考え事をするのに最適でした。プレスリリースの内容を考えたりしていました。記事になると行政の方たちは必ず目を通してくれるので、説明しにいくのが楽になりました。」

開発メンバーや行政からの色々な反応を受けながら開発が続いていきます。

この時点では、最小単位の「輪島市版」の子育て情報の運用ということで進んでいました。Sさんはじめ開発に関わったメンバーは能登町、穴水町、珠洲市へ説明に行き、積極的な反応があったこともあり、年明け1月末ごろには2市2町の「奥能登版」の子育て情報サイトとなる方針が決まります。

Sさん「その後のハッカソンでのエンジニア系メンバーとのやりとりもスピードもとっても刺激的で面白かったです。子育て情報として公民館や公園、学校などの位置情報データを集めていくのは結構な作業量になるだろうなぁと思いましたが、ハッカソンごとに まる1日かけていろんな人が手分けしてデータをどんどん集めていってくれました。」

幼児をつれてあちこち通ったSさん、育児ストレスを発散する目的もあり、開発ミーティングは本当に楽しかったようです。

積み木する子どもがいたり、授乳中のお母さんがいたり、データを開発したり。

◎コミュニティを連動させていくタイミング

Sさんがネット上で敢えて二つのチャットグループをつくって開発を進め、金沢方面の開発グループと輪島の開発グループの通訳役として往復の日々を続けていた理由とは。オンラインで一緒に制作をすすめるメンバーが一つのチームになるためのタイミングを探るべきだと思ったからだそうです。

Sさん「チームの一体感を私自身が感じるまでは離すのがいい、と思っていました。3〜4人の積極的に活動できるメンバーが揃ったら持続するようになるだろうから、コアメンバーが固まるまでは、コミュニティを無理にくっつけたり、名付けたりしないでおく、という気持ちでした。

お母さんたちは言葉のやりとりが多く雑談と開発の話題が突然入り込みながら話すのが自然で、エンジニアさんがその話を追うのは手間がかかるかもしれません。エンジニアさんの話はお母さんたちからみれば専門用語が多いからなんの話題なのかついていけない、と感じることがプレッシャーになるかもしれない。そのあたりで、コアとなる為にはもう1ステップが必要でした。

開発が始まって7ヶ月後の3月末、コアメンバーが初めて能登に一同に集まって夕ご飯を食べることができました。この時から本当にチームがスタートしたと思います。」

アーバンデータチャレンジ2015最終回ハッカソン「のとノットアローン」のテーブルメンバー

◎開発〜運用開始までの7ヶ月間のタイムライン

チームアップから運営開始までの流れを書き出してみました。

2015年
9月
・ UDCアイデアソンで構想が決まる

10月
・輪島のママさん、福祉関係の職員さんとUI開発
・輪島市のデータメンテナー担当者が決まる

11月
・UDCハッカッソンでエンジニアのチームアップ

12月
・頭に試作版が動いて大喜び!早速プレスリリース配信
・ハッカソンでUI周りの向上と データ開発。
・デザイナー探しちょっと難航(遠隔での協力者が見つかる)
・4市町とのデータを出してもらう交渉始まる
・辞退したママさんが戻ってきて役所からデータ取得

2016年
1月
・UIのデザインが決まる
・UDCハッカソン 2組のお母さんが子連れで開発
・穴水町、能登町のデータメンテナー担当者が決まる
・データ登録でみんなからのエラーが続出したり!
NPOこらぼるさんからドメイン、サーバの支援決定
・珠洲市からのデータ提供が決まる
・試験運用開始(1月29日)

2月
・コミュニケーション用のFaceBookページ たちあげ
・UDCコンテストに落選。
・正式にCode for Kanazawaのプロジェクトとして開発・運用していくことになる

3月
・ 初めて一同にミーティングと打ち上げ

以上の7ヶ月の間、開発に携わった人は30人以上いたようです。

4月以降も「開発デー」と称して、各地の子育て支援センターなどで、ヒアリングやデータ収集などを行い、運用を進めています。また、2016年度もアーバンデータチャレンジを通して、新たなエンジニアや、デザイナーの参加も増えてきているようです。

現在は毎月のデータ更新など運用に関わるメンバーが10人ぐらい、オンラインでつながって意見交換に関わっているメンバーが20人ぐらい、Facebookページのフォロワーが200人以上です。

穴水町子育て支援センターでの「開発デー」

◎まとめ

できる時にできる人が参加して、つなげていく開発をしていった「のとノットアローン」。これからもこのチームはこんなシビックテックの精神で開発に取り組んでいくようです。

もちろん、シビックテックは全てこういう流れだ、という訳ではありません。数あるシビックテックのやり方のうちの一例なんだなーと思っていただけたら幸いです。

◎「のとノットアローン」は今後どうなるのでしょうか?

のとノットアローンは運用をとおして見えてきた別の視点や、新たな課題にも取り組もうとしています。プロジェクトメンバーのSさんこと私、坂井自身も、やれる範囲で関わっていきたいと思います。今はのとノットアローンを通してのいろんな方との出会いが本当に楽しいと感じています。奥能登のこれからも楽しみにしています。

◎終わりに

ご覧いただきありがとうございました。
今回も、自分語り満開で「のとノットアローン」の開発過程を思い出しながらお送りいたしましたが、次回は他のシビックテックの事例を取材していけたらと思っております。今回のご感想とか、こんなこと聞きたいとか、コメントいただけたら嬉しいです。

遠方の皆様、来年2017年には奥能登国際芸術祭なども企画されているようですから、これを機に能登に遊びに行かれてもよろしいかと思いますよ!坂井もお待ちしておりますのでぜひご連絡くださいね。

今年も宜しくお願いいたします!

writer:
坂井理笑
アイパブリッシング株式会社 研究員
(エヴァンジェリスト見習い中)

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