2017年のトレンドをまとめた記事がポツポツ出始めており、個人的にも仮想通貨をはじめとした各種トレンドには同意しつつ、メディアという観点で言うと、The Information大先生の記事が面白かったです。
ペイド・メディアって何を読むか悩むと思いますが、メディア関係者なら間違いなくThe Infromationです。
で、それはさておき、ちょっと違った視点として今年の後半から注目された大きなトレンドとして、FacebokやGoogleの「隠れたリスク」というのがあるなーって思っています。
これは別に俺が、昨日今日で思いついたことじゃなくて、ここ数ヶ月のメディアで微妙に取り上げられ始めている話題なんですが、要は
FacebookやGoogleはユーザーのリテンションをあげるため、めっちゃデータ取りまくって、とにかく彼らを長時間滞在させるため頑張ってるけど、それって倫理的にどーなん
って話です。
この手の話は、Facebookの初期投資家ショーン・パーカー氏が発言したり、同じくFBの初期メンバーでソーシャル・キャピタル社のチャマス・パリハピティア氏が次々と語っています。
わりとシリコンバレーのインサイダーから指摘が出ていて、メディアも少しずつ取り上げ、ワシントンからも似たような話が出てきている、という雰囲気です。
テック企業にもナッジを?
テック業界にいると、「政府が規制するなんて!全体主義だ!けしからん!」みたいな声が聞こえてきそうですし、
アルゴリズミック・フィードの帝王であるToutiaoがこれだけ絶賛されている昨今なので、「人々を惹き付ける素晴らしいプロダクトに水を差すなんて!」って言われそうですが、個人的には批判者の言うこともわからなくないです。
というのが、「全世界の叡智を結集した結果が、綺麗なねーちゃんの動画を集めたフィードかい」みたいなツッコミもそうなんですが、やはり倫理とかナッジの問題なわけです。
ざっくりいうと、
人は黙ってたらスナック菓子ばかり食べるので、それを規制すべきとまではいかないが、せめてサラダを棚の目立つところにおいて、健康的な選択を後押しするような制度設計をするべき
という話です。
察しの良い人はわかると思うのですが、今年のノーベル経済学賞をとったリチャード・セイラー氏をはじめ、“ナッジ”の概念でよく使われる例えです。
個人の「スナック菓子を食べたい」という意思を尊重する自由放任と、人々に健康的な生活を送らせたい(=医療費を抑制したい)という政府による規制の間を取ったもので、「規制はかけないものの、人を肘でつつくように(=ナッジ)して、自然な形で人々に望ましい行動・選択を促す」概念です。
FacebookやGoogle、Toutiaoのようなテック企業は、人々を長時間フィードに滞在させるようなユーザー行動やコンテンツを評価しますが、これが行き過ぎると、暇さえあればアプリを立ち上げ、友人からのいいねやコメントを気にするような人々が増えすぎてしまう、というわけです。
ショーン・パーカー氏は、これを「人間心理の脆弱性につけ込んだもの」とまで言っています。
倫理性が問われる規模に
FacebookやGoogleは、すでに小さなスタートアップではなく、世界中の人々の影響を与えるプラットフォームを運営する大企業です。
タバコやアルコールが規制を受け、スナック菓子やマクドナルドの存在が議論を呼ぶならば、テック企業だけを例外とする理由はありません。
テック業界の一員としては、Facebookらの行動はあくまでユーザーのリテンションを高め、広告ビジネスをする上での正しすぎるアプローチに感じます。
しかし同時に、道徳哲学に関心を持つ政治学徒の端くれとしては、これは倫理を問われる重大なトピックであるとも思います。
私たちは日々忙しい生活を送っているからこそ、巨大テック企業のサービスを享受することと引き換えに、知識や思考を奪われる少なからずの時間を彼らに献上するように“動機づけられている”とすれば、それはナッジの対象になる気がしなくもありません。
そのナッジが、どんなものになるかは分かりませんが、こうした議論を避けては通れないほど、FacebookやGoogleは巨大企業になりすぎました。
FacebookやGoogleの隠れたリスク
マーケット視点に立ち返ると、こうした問題はFacebookやGoogleにとって隠れたリスクになるでしょう。
思えば2017年のFacebookは、ロシアゲートやライブ配信での不適切な動画への対応など、絶好調な決算とは対象的に、政治的・社会的な問題に大きく巻き込まれた1年でした。
また租税回避の問題や、政治的な理由でFacebookへのアクセスが禁止される国が出てくるなど、グローバルな政治的リスクも高まっています。
こうした中で、特にEUなどで巨大テック企業への風当たりが強くなり、その逆風がワシントンまで到達すれば、FacebookやGoogleは大きな規制を受けるはずです。
オバマ政権時代のシリコンバレーは、ワシントンとの距離が近く、オバマケアや移民政策によって多くの恩恵を受けてきました。それがトランプ政権によって不透明な状況へ一変したことは周知のとおりですし、ここ数ヶ月は特に、アンチ巨大テック企業とも取れるニュースが目立ったような気がします。
FANGなど大企業が規制を受ければ、テック業界どころか、彼らが牽引するマーケット全体も冷え込むことになり、(投資環境の風向きが変わりつつあることは、皆うすうす気づいているものの)経済全体に少なからず影響が出るでしょう。
幸い、現在のところ巨大テック企業へのアメリカ国内における好感度は、それほど低くないため、すぐに大きな規制が入るとは限りませんが、支持率の下がるトランプ政権が、予想外の行動に出る可能性もあります。
2018年は、(来るぞくるぞと言われていて、そろそろ本当に)チャイナ・リスクに注視する必要があるとともに、巨大テック企業とワシントンの関係に目を光らせておく必要がありそうです。