「あなたもこのマシンを使って作品を作ってみませんか?」
この度YATTEIKI Projectは、思い通りに紙をカットできるマシン「ScanNCut」のモニター企画に参加しました!
カッティング&プリントのユーロポート株式会社さまよりいただいたお題は「ScanNCutを使ってオリジナルの作品をつくる」こと。
紙に描いたイラストをスキャンすると、そのイラストのシルエット通りに紙をカットできるScanNCut。実はこのマシン、USB経由でPCと接続することでIllustratorで作ったベクターデータを使うことが可能。つまりこれを使えばデジタルイラストをアナログ作品に落とし込める…!
ということで今回はデザイナー/イラストレーターのUCKさんをYATTEIKIクルーとしてお招きしました。さっそく作品をご紹介します!
UCKさんの手により完成した作品
※本作品は後日、ユーロポート株式会社さまによる企画サイト「ひらめきソーダ」にも掲載予定です。
今回は作者であるUCKさんにクリエイターインタビューを敢行。彼のアトリエにお邪魔して、ScanNCutの感想やクリエイティブの原点を伺いました!
「ストリート風書初め絵」というコンセプト
―本企画に参加したきっかけは?
UCK:YATTEIKI Projectのitopoidさんからまず話が舞い込んできたところからですね。「これUCK案件じゃね?」って。
itopoid:ユーロポートさんから話を頂いた時点で、真っ先に頭に浮かびました。UCKさんの作品がIllustratorで制作されていることを知っていたので。
UCK:概要を確認したら、ベクターデータから紙をカットできるScanNCutの情報があるわけです。これはもうやりましょうと。新年一発目なにやらかそうか?みたいな。これぞYATTEIKIという感じで心が躍りましたね。
―作品の方向性はどうやって決めたんですか?
UCK:「書初め」ってあるじゃないですか。それを再現したいなというのが最初のアイデアです。この一年身を引き締めてやっていくためにバシッと抱負を書くというアイデアは、年初に制作する絵としても、YATTEIKI Projectにとってもちょうどいいと思ったんですね。
僕は普段スプレーを使って絵を描いているので、その文化の中で書初めに相応しいアーティスティックな文字を書くなら…と考えると、ストリートアートのグラフィティやタギングが出てくるわけで。それならグラフィティを描いてる絵にしようと。結果的に「ストリート風書初め絵」というコンセプトができたわけです。
itopoid:「グラフィティを書き初めに見立てて、年初に抱負としてYATTEIKIと書く」というアイデア!コンセプトの積み上げ方が美しすぎる。
UCK:「企業はみんな書道家に社名を書いてもらってコーポレートロゴにしたらいいのに」と思うくらい、書道やカリグラフィーっていうものはクールで美しいものだと思っています(笑)
デジタルとアナログどちらも同じ構造だからこそできた作品
―気になるのは制作過程ですが、イラストをどうやってアナログに落とし込んでいるんですか?
UCK:僕の描く絵はデジタルとアナログどちらも構造が同じなんです。デジタルではIllustratorを使って描いているのですが、基本的に1枚の絵を「単色で塗られた面の重なり(レイヤー)」で構成しています。
アナログ作品にする場合は、そのレイヤー構造を利用して、まず階層ごとに紙にプリントします。次にその階層にある「塗り」の部分を切り出して、いわゆるステンシルの型を作ります。そしてその型紙を通して何層もスプレーで塗り重ねていくことで、デジタルの絵と同じ構造をアナログで再現しているんです。itopoidさんこれわかる?
itopoid:すごいことをやっているということはわかる。
UCK:説明図描くからちょっと待ってね。
itopoid:なるほど!ソフトウェア上のレイヤー概念を物理で再現すると。
UCK:そうそう。Illustratorとスプレーって親和性が極めて高いんですよ。わかった上でそういう制作手法を選んだので当然なんですけど。デジタルをアナログに落とし込むということは、Illustratorで描き始めたころから、それこそ10年前からやってます。
「ただ道具を使う」先を目指すハッカーのマインド
―ScanNCuTを使ってみた感想は?
UCK:笑えるくらい面白かったです。今まで型紙を作るのに、指を痛めながら手作業で一晩かけてカッターで切り出していたんですけど、その作業が数分で終わってしまって。思わず笑いました。これまでの手間は何だったんだよ!と。
UCK:実は今回、手作業じゃとても切り出せないような細かい意匠も取り入れてみたんですよ。それもScanNCutはちゃんとカットしてくれていて、もう一回笑いました。手作業でやってると、やっぱり失敗したり使えなくなったりするんですよ。また同じもの切り出すってなると二度とこんなことやるか!って思いしかないんですけど、そこから解き放たれた感はあります。機械最高!って叫びたい。
itopod:逆にマシンを使って難しかったところはありますか?
UCK:ScanNCutは専用のシートにカットしたい材料をしっかりと貼り付けてからカットすることが必須になるので、切り出したものをはがす時に引きちぎれないか心配で、すごく慎重にやりました。次は厚手の紙を使っていろいろ試してみようかなと思います。
便利なツールは、導入して終わりじゃないと思っていて。色々試行錯誤して使いこなせるようになれば、同じツールを持っている人同士でも結果に差が出てくるじゃないですか。道具を使いこなすのも、使う人の深い理解と腕次第ってところがある。「ただ使う」よりも上を目指すというのは、ハッカーと同じマインドだと思っています。
「誰でも描ける」を実現するスプレー
―スプレーは仕上がりにインパクトがありますね。画材として選んだ理由を教えてください。
UCK:もともと尊敬するストリートアーティストが居て、シェパード・フェアリー…OBEYって名前の方が知られてるかな。彼の作風を真似たのが始まりです。プリントのポスターを作ったり、ステンシルの型を作ってスプレーでも描くというやり方はほぼ同じですね。スプレーを使うとインパクトが出るというのは、僕も感じている所です。
海外を見れば、彼の真似をするフォロワーみたいなのはたくさん居ます。自分も、リスペクトしつつ巨人の肩の上に乗って、そこから自分らしい作品を作るって気持ちでやってます。でも使ってるスプレーとかは、彼の制作中のYouTubeとかVimeoの映像を一時停止しながら調べ挙げて同じものを探し出して使ったりしています。発色が度肝抜かれるほど良いんですよ!
きっかけはリスペクトからですけど、スプレーを使う他の理由としては「誰でも同じものを作れる」という点に共感したからというのはあります。スプレーは、作ろうと思えばすべての人が同じものを作れるということを体現してくれるいい道具なんです。ストリートの文化で言うところの壁画、いわゆるミューラルも憧れです。大人数を率いてスプレーで描いた何十メートルもある絵なんかはそれこそ迫力が桁違いですしね。
Illustratorの絵はベクターデータで出来ているので、絵のサイズの制約を受けない。だからこれまで描いたどんな絵もデータとスプレーがあればどれだけ巨大にしても描けるし、誰でも描ける。つまり、複数人で協力して描くこともできる。
itopoid:夢がある…。
UCK:そう、要するにひたすら夢を見ていられるのと同じなんですよ。やばくないですか!そういう制作はそれこそ無限の可能性を秘めているし、選ばない理由がないんですよね。スプレーを選ぶこととIllustratorを選ぶことは僕にとっては同じ必然のことで、運命でしたね。
―ストリート的なモチーフを選んだ理由をもう少し聞かせてください。
UCK:僕の作風がすでにストリート寄りだったのというのはあるかもしれません。という割には、実はちゃんとグラフィティ的なものを描いたのは今回が初めてなんですよ。自分が未熟な分、ストリートアートになじみのない方でもわかりやすい仕上がりになったんじゃないかなと思います。
あと今回、ストリート好きの若者からも少しアドバイスをもらったんです。自分一人じゃどうなるかわからないときに、周りに頼りになる人が居るっていうのは心強い。「彼が及第点を与えてくれたら十分な品質になる」という感じで、その人がいることで自分一人では設定できない完了条件を明確に作れるんです。
今回このモチーフは、自分だけで選んだというよりも、そういう周りの人たちが居てくれたから選べた、と言った方が正しいですね。スペシャルサンクスの欄に”みんな”って書いちゃうような制作をしています。
「良さの要因」を紐解いたトータルデザイン
―UCKさんはダークでラグジュアリーな作品を作られる印象があります。制作を通して意識しているテーマはありますか?
UCK:実は、そういうイメージとは裏腹にポップでありたいと思っています。ただ流行の影響は受けたくないので「スタンダード」ということばがイメージに近いかな。千年前でも千年後でも通用するような普遍的なものを作りたいです。
本来ネガティヴなイメージを持っているものを、ラグジュアリーさの力とかを借りてスタンダードに持っていこうとしているのかもしれないです。基本的に暗いものを描いちゃうんで、そういうものを描きつつ普通の人にウケてほしいっていう。欲張りなんですけど、両立できなくはない。デザイナーとしてそこはやれなきゃなって。
itopoid:ネガティヴなイメージをラグジュアリーさで払拭してスタンダードを目指すと。
UCK:そのラグジュアリーも、なにがラグジュアリーをラグジュアリーたらしめているか、明確に答えられるかって言われたら難しいと思うんですよ。たとえば僕は基本的に全身ユニクロなんですけど、全身ディオールかと思った〜とか言われたりしたことがあって。
itopoid:えっほんとですか!?ずっとそういうイメージありました。
UCK:いやいや違いますよ!ただやっぱり、そう見せかけることは可能なんだっていうことですよね。高級な物を使えば高級にはなりますけど、ラグジュアリーさって必ずしもその「物の高級さ」だけというわけではないじゃないですか。そういう意味で、良い物というのには必ず隠れた本質がある。何がそれを「良い」としているかは場合によって違うんです。
だから、物の良さの要因になっているものはなんなのかを一度紐解けば、その実現に向かってトータルでデザインすることができる。その上で、印刷なのか紙なのか構成なのか…「どこに重きを置くべきか」というのを見つけ出して注力する。こういう点には常に気を遣ってますね。神は細部に宿るけど、的確にやらないと、神は簡単に悪魔になって宿るので。
プロのデザイナーの仕事をするっていうのはそういうことかもしれないですね。そういう背景とメンタリティが作品の随所に埋め込まれてるのは確かだと思います。
itopoid:どこが本質なのか、それを表現するにはどうすればいいのかをデザインするというのは、まさにデザイナーの有るべき姿ですね。
「みんなのがんばりを全部見守ってるよ」という気持ち
―ちなみに、女の子にモデルはいるんですか?
UCK:指さしてこれって言えるモデルは居ないんですよね。名前はひとめちゃんといいます。体形やスタイルはいわゆる二次元キャラ的な頭身ではなく、ハイブランドのファッションモデルのような、居そうで居ない、でも居る感じの非現実感のある体形を意識して描いてたりしてます。ただ手は完全に僕の手で、勝手に似てくるんです。絵は作者に似るって言うじゃないですか、それを体現するタイプかなと。
キャラクターとしては目のロゴアイコンをパパとした想像上の娘、愛娘で看板娘だと思っています。言ってて気持ち悪いな。
itopoid:文字通り「うちの子」ですね。愛だなぁ。
―”一つ目”モチーフが生まれたきっかけは?
UCK:ひとめちゃんというキャラクターが生まれたきっかけに関しては、本当にただの偶然で天啓です。9年前、寝る前に描いた落書きをもとに翌日には完成して、それから幾度かデザインの変遷を経て今に至ります。美人に育ちましたね。
以前からずっと目をシンボルとして作品を作っているのですが、アイデアのもととしては、「プロビデンスの目」があります。フリーメイソンとかでおなじみの全視の目。1ドル札の裏に描いてある、ピラミッドの上に浮いてる目ですね。
若いころに患う、世の中間違ってる!って言いたがる病ってあるじゃないですか。僕もその病に冒されてて、「間違いを正す」というものをシンボルにしたかった。そのシンボルに目というものがちょうど良かったんですよね。
itopoid:畏怖の象徴みたいな。
UCK:そうそう。ただ、始まりはそんな感じですが、今はどっちかというと「みんなのがんばりを全部見守ってるよ」という気持ちの方が強いです。丸くなったというやつですね。
抽象度の高いものを形にする、絵にするというのは、絵描きの本懐の一つだと思うし、なによりも作品を生み出すもとになっていると思います。
「退屈な日々の対極に位置」するYATTEIKI
―これからYATTEIKI Projectでやりたいことはありますか?
UCK:合宿みたいなことやりたいですね。いろんな人を巻き込んで。テクノロジー畑の人間ですけど、実家が農家で土に触れないとわからないことも山ほどあるのは知っているので、今年は文字通り泥臭いことをしてみたいなと思ってます。
YATTEIKIって退屈な日々の中の対極に位置しているものだと思うので、これは皮肉ですけどインターネットにはないことをしたいですね。
itopoid:合宿たのしそう!誰か旅館持ってたりしないですかね。
UCK:そこは自分たちでYATTEIKI旅館を建てましょう。もしくは潰れかけの旅館を継いだりして。itopoidさんがんばってください。僕旅館の表札描きますよ。
itopoid:都会から流れてきた主人公が再建に奔走するやつ、アニメでよくあるやつだ…現実にやろうとするとヘビーなタスクですね…。
UCK:是非主人公になってやっていきましょう。(笑)
CREATOR INFO
UCK
デザイナー/イラストレーター。人工知能開発のベンチャー企業のデザイナーとして、アプリデザインやディレクションを手がける。2006年頃からイラスト制作活動開始。デジタルイラストやスプレーを用いた作品の制作・発表を行い、海外に熱狂的なファンも多い。イラストレーターが集う配信番組「イラストレーターズカフェ」 主催。作品はBOOTHより購入可能。
モニター企画大募集!
以上、UCKさんのインタビューをお送りいたしました。お楽しみいただけましたでしょうか?
YATTEIKI Projectでは、モニター企画をいつでも募集しています!
ご依頼・ご相談は yatteikifm@gmail.comまで。
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機材提供:ユーロポート株式会社