ヘイトスピーチ。在日コリアンには、”在日特権”があるのか。

isana
6 min readOct 26, 2016

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今年6月3日、「ヘイトスピーチ」の対策法が衆議院で施行した。

ヘイトスピーチとは、人種や出身国、宗教などに基づいて個人または集団を攻撃、脅迫、侮辱する発言や言動をさす。同法案成立の背景には、2000年代初頭より在日コリアンに対するヘイトスピーチが深刻化したという実態があった。

特定の人種や民族に対する差別的言動を街頭で繰り返すヘイトスピーチの実態をまとめた法務省による調査結果では、ヘイトスピーチをしているとされる複数の団体が2012年4月から15年9月にかけて、計1152件のデモを実施していたことを確認されている。

ヘイトスピーチが盛んな東京都新大久保では「良い韓国人も悪い韓国人も死ね」といったパネルを持ったデモ隊の様子が撮影されている。

在日コリアンに対するヘイトスピーチを行う市民系右派グループは、「在日コリアンには”在日特権”がある」ことを不公平であるとし、その活動を肯定化している。さて、この「在日特権」とは何なのだろうか。今回は、ヘイトスピーチの拡散を下支えしていたこの概念について再検討を試みる。

特別者永住制度とは何か?

在日コリアンへのヘイトスピーチをする市民系右派グループは、在日特権とは日本への在住資格や年金、社会保障を優先的に受けられる「特別者永住制度」としている。

「特別者永住制度」とは、戦前から日本に在留している在日韓国人・朝鮮人・台湾人の法的地位の安定化を図る為に、入管法によって定められた在留資格をさす。簡単に言えば、外国人が日本に滞在する場合に必要になるビザの一種である。

特別者在住制度の他のビザとの大きな違いは、退去強制事由である。

入管法では日本に在住している外国人が犯罪を犯した場合、日本からの退去を強制することができると定められている。一方、特別永住者については、別に入管特例法が適用され、退去強制事由が重大な国益を侵害する行為のみに限定されている。

特別者永住制度が生まれた背景

1910年から1945年の間、日本は朝鮮半島を植民地として支配していたが、第二次世界大戦における敗北を契機に朝鮮半島の独立が成った。 これと同時に、それまで日本国籍を有していた旧植民地地域(主に朝鮮と台湾)の人々は、その国籍を失い、法的に「外国人」となった。そこで登場したのが「特別者永住制度」である。戦争後の処理において日本国籍を失った旧国民に配慮すべく、終戦後に日本国籍を失った韓国人や朝鮮人、台湾人とその子孫に特例が適用されたのだ。

要するに、特別永住者に該当する在日コリアンは、1952年までは法的に日本国籍を所有し、日本人として生活していたため、他の外国人とは異なった待遇を受けているのである。

特別者永住制度に特権はあるのか?

たしかに、前述のとおり、特別永住者は、それ以外の外国人と比べ、退去強制事由の点で優遇されている。ただこれを表立って批判する者は多くない。多くのヘイトスピーチでは、社会保障制度や年金について、特別永住者が優遇されているという主張がなされている。

①生活保護を優先的に受給できる?

特別者永住制度によれば、特別永住者は日本国民と同様に生活保護を受けることができる。日本での永住または定住などの在留資格を持っている外国人に関しては、国際道義上また、人道上という意味で、生活保護法を準用することになっている。

1946年に日本で生活保護法が施行された当初、生活保護は日本人も外国人をうけることができた。しかし、1950年に法改正が行われ、対象が日本国民とされた。この時点では特別永住者は日本国籍を有していたのだが、その2年後の平和条約により在日コリアンは日本国籍を失ったため、その救済処置として特別永住者は社会保障制度を受給できるように定めているのだ。

すべての生活保護受給者のなかで、在日コリアンが占める割合が相当に大きいのは事実である。しかし、生活保護受給の審査において外国人が優先するべきだとされる規定はない。特別在住者は日本人よりも優先して生活保護を受給できる等が主張されているが、これは誤りである。

実際のところ、特別永住者が優遇されているのではなく、法律の変わり目に適切な権利が保障されなかった高齢の特別永住者が貧困状態にあるために、在日コリアンが占める割合が相当に大きくなっているだけなのである。

②保険料を払ってないのに年金受け取っている?

日本の国民年金制度には、国籍は関係なく、外国人であっても「日本国内に住所を有している」と、年金についての権利・義務が発生することになる。在日コリアンで年金を受け取っている人の多くは、国民年金が外国籍の人にも開放されてから年金保険料を払った結果、年金を受給している。特別者永住制度には、保険料を一円も支払わずに年金を受け取れる制度はない。

また、年金が外国人にも開放されたのは年金制度が始まってから20年以上たってからで、その間在日韓国・朝鮮人は掛け金を払いたくても、それを払う資格がなかった。さらに、年金制度では、60歳まで最低25年間保険料を支払うという規定を満たすことが条件であるため、年金制度の解放時に36歳以上であった在日コリアンの多くがその支払い期間を満たすことができないという問題が発生した。

つまり、保険料を払っていないにも関わらず、年金を受け取る事ができるというような事実はどこにもないのである。

歴史的経緯を無視したヘイトスピーチ

以上、ヘイトスピーチの論拠として使われていた「在日特権」についての再検討を進めてきた。そこにあったのは特権的待遇ではなく、戦争後の処理に振り回された旧日本国民に対する配慮だった。

これほどまでにヘイトスピーチが拡散した理由には、国民一般に、このような歴史的経緯の理解が不足していることがあるのではないだろうか。この度成立したヘイトスピーチ規制法では、ヘイトスピーチ防止に向けた啓発・教育活動や、被害者向けの相談体制の拡充などが目的とされている。各自治体において、十分な努力がされることを期待したい。

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