ハンバーガーのレタスの位置

「ハンバーガー馬鹿なんですよ、彼」と紹介されたKさんは、あるハンバーガーショップのシェフだ。チェーン店と呼ぶほど数はなく、一店でほそぼそとやっているにしては野心が大きすぎる彼のお店を、これから一緒に盛り上げていく最初のミーティングでのことだ。

場所は名古屋駅から徒歩5分。店内を見渡せば、クリエイター然とした若者と、OL風の女性が数名。お昼のタイミングを過ぎた時間だったからか、ずいぶんのんびりとした空気の中、僕らは打ち合わせをしていた。Kさんは、ラグビー経験者のようながっちりとした体躯。短髪で鋭い眼光。一見、近寄りがたいが、ことハンバーガーの話になれば止まらない。

「ハンバーガーって、パンとパンの間、このわずかな隙間しか工夫の余地がないんです。それまでといったらそれまでですよ。でも、このひと口に収まる空間には、僕のすべてを費やす価値がある」

本気の人間には放射エネルギーがある、と思う。彼らの言葉は周囲の温度を上げる。この熱を感じたくて、僕はひとに会うのかもしれない。興奮を抑えつつ、様々な角度から質問をぶつけていく。その中で、ふと思い出したようにKさんが『レタスの位置』について話し出した。

「モスバーガーとかの大手ハンバーガーチェーンがあるでしょ。味では決して負けないけれど、やっぱり、彼らは本気で研究してる。たとえば、レタスの位置が違う。僕はずっと不思議だったんです。大手チェーンはパティ(肉)の上にレタスを置く。僕らは下がほとんど。下で肉汁を受け止めるから。でも、彼らは上に置 く。なんでだろうなとずっと思っていた。あの手のお店はレシピがマニュアルで決まっているから、無駄なことはしないはずなんだ。そして、ついに最近判明し たんです。ヒントは女性、それも若い女性の食べる姿に答えはありました」

彼は、ひと呼吸おいて、僕らの興味津々な顔をみて、少し微笑んで話を続けた。

「彼女たち、ハンバーガーを下から食べるんですよ。一口で上下のパンを一緒に頬張れないから、順番なのはわかる。それが下からなんですよ。上からだと具や汁がこぼれるからなんでしょうね。で、下から食べた一口目で、肉が口の中に広がる。美味しい、となる。なるほどなと思いました。お腹が減って食べる最初の一口がやっぱり一番印象に残るじゃないですか。そこに肉を持ってくる。このとき僕は大手チェーンの研究熱心さに心打たれましたよ。伊達じゃないなと」

負けてられないよね、と締めくくったKさんは全然悔しそうに見えなかった。むしろ、好敵手に出会った格闘家のように、目をキラキラさせていた。

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