幸福の輝かしき葬列

1990年代当初のインターネットの創成期にたまたま会津大学の職員として働く中で、インターネットに出会いその無限の可能性を信じて26歳で起業してから20年。習うより慣れろで右も左もわからず、数多くの失敗を繰り返しただがむしゃらに仕事をしてきた。起業志向が強かった訳でもなく、大学にも行っていないのでMBA(経営修士)などの学位は持っておらず、もっぱら周りにはManagement of Business Walking Around(現場を歩き回る経営)なら持ってるけどと言っている。起業当時は、ほとんど給料も無く会社にずっと泊まり込んで1日20時間くらいしていた。もちろんとてもキツくて大変だったが、自分の本当に好きなことに全てを捧げていたので振り返ってみると人生で最もロマンティックだった瞬間でもあった。

起業家は会社の全てをデザインできる唯一無比の存在である。正直に告白すると実は自分はとても人見知りだけれども、もちろん「会社の顔」である以上、常に外交的に振る舞うように心がけている。起業家の頭の中は、休みもなく1日24時間365日、常に仕事のことが霧のように晴れるとがなくずっと頭から離れることはない。よく起業に関しての意見を聞かれることも多いが自分はいつも「起業なんてやめとけ」というのが正直な意見(どうせ成功する奴はそんなアドバイス無視して勝手に起業するだろうし)。周りからはとても成功して幸せに見える起業家でも、ストレスからくる飲酒などの不摂生で体調を崩したり、家庭が崩壊したり、精神のバランスを崩し自殺された方も自分の周りでも何人もいる。起業家は事業を続ける限り「起業家というコスプレ」をたった一人で演じ続けなければならない。ただその一人でいる事を周りに誰も相談できない寂しい存在と思えば「孤独」になるだろうし、たった一人で誰も理解できない極地に達することのできると思えばその存在は「孤高」でもある。

数年前に「イヴ・サンローラン(2010年)」という映画を観た。オートクチュールの天才と呼ばれたイヴ・サンローランの物語というよりも、亡きイブを回顧する、50年間にわたるパートナー、 ピエール・ベルジェによるイヴとの日々の回想録である。この中でベルジェはイヴの栄光を、「名声とは幸福の輝かしき葬列」と形容している。 とても考えさせられる言葉であり、映画を観た後もしばらく心の中にその言葉が残ったままだった。光が強ければ影もより濃くなる。成功というスポットライトは内なる光を見えなくする。イヴは引退会見で、ランボーの「人生で一番大切なことは、自分自身と出会うこと」という一節を引用している。あなたは本当の自分に出会えているだろうか?

これは夢だが、もし自分が今の仕事を引退する時がきたら、世の起業家や経営者だけが入れる「イヴ」というの名の会員制のバーをやってみたい。バーの中では好きなだけ愚痴や弱音を吐いてもらい、大好きなお酒でほんの少しの間現実逃避してもらい、専用のチアリーダーが「大丈夫!あなただったらきっとできる!」と応援してくれる仕組みだ。世の孤高の存在に幸あれ。

*2015年の福島民報の民報サロンに掲載された記事です。