中国「知識経済」、広告で勝負しないメディアモデルの徹底的解説

邱 開洲
Code Republic Blog
Published in
16 min readNov 6, 2017

中国のインターネット企業はよく「人口红利」(人口ボーナス)があると呼ばれている。人口規模があるからこそ成り立つビジネスモデルがある。確かに、トラフィックを誘導して広告収益モデル等は人口の多い方が圧倒的に強い。しかし、知識経済という有料コンテンツのビジネスモデルも近年進んでいる。知識経済は長年で同じことを続けられる職人文化がある日本だからこそ、勝っていけるモデルだと考えているため、長時間をかけて本ブログをまとめた。

目次

1.はじめに

2."知識経済"の概要

3.定義、分類およびポジショニング

4.資金調達状況

5.実績

6.成功背景 ※供給、需要

7.日本での展開可能性

8.懸念および今後の課題

9.個別サービス紹介

はじめに

VCの仕事を始めて以来、最初に直面したのは、調査時間確保の大変さだった。世界中の資金調達動向や注目される事業モデル、業界構造、技術発展、財務データなど様々な情報を整理しなければいけない。インターネットのおかげで情報を収集しやすくなっているが、情報が溢れすぎている今、精度の高い取捨選択がますます重要となっている。情報の洪水に溺れていた自分は、半年前に初めて友人の紹介で「Ximalaya」(http://www.ximalaya.com/)と出会った。電車中にイヤホンをつけて経験豊富な方々から貴重なお話を頂き、大変勉強となった。

近年、インターネットは情報のギャップ埋めに威力を発揮しているが、体系化されない情報を見るだけでは物足りない。やはり経験して初めて断片的な情報が整理され活用できるようになる。昔は、そのような経験やスキルのギャップを埋めるためには、学校と資格の授業で十分だった。しかし、人々のニーズが多様となり、従来の勉強方法ではすべてのニーズに応えられなくなった。例えば、“AとBの職種をどちらに先にやるべき?”“このようなデータはこの会社にどれぐらいの価値がある?”“この工程はなぜこのプロセスとなっている?”等々、教科書に載っていない、特定な経験をもつ方に聞きたいというニーズがある。そこで今回は、最近話題のEdTechに関連する「知識経済」の領域について調査してみた。一部のアプリをDLするだけで、通信制限を心配するほど、多くのプレヤーが存在していることがわかった。

各種有償知識APP

“知識経済”の概要

「知識経済」は2017年中国での市場規模が8000億円だ(オンライン教育を除く)と言われており、サービスリリースからの期間が短く、資金調達が頻繁で行われ、関連市場が多く、プレイヤーが多く存在しているというのが市場の概要である。

定義、分類およびポジショニング

定義

では、まず知識経済とは何かから説明したい。知識経済は言葉の通り、知識を商品もしくはサービスとして、マネタイズをすること。 最初にあったコンセプトは、得到(DEDAO)を立ち上げた羅氏の言葉を借りると、"子供は飯を食べられないと親が飯を噛んで食べさせるように、今の皆様は本を読む時間がなければ、僕が代わりに読んで一冊を3分でエッセンスをまとめてあげる。"その知識をシェアしたい初心によるものだった。そのようなコンテンツは本からドラマ、映画、論文、旅など様々なコンテンツまで発展し、時間を節約できる知識のファストフード化が進んでいた。現在、流行るコンテンツはUGC(ユーザーが生成)、PGC(企業が生成)、第三者によって生成されるものに分けられる。

分類

一部のサービスをコンテンツの幅と深さでマッピングすると、このようになる。

参考:驰心資本

また、コンテンツの形式をカテゴライズすると、

有償知識プラットフォームの形式カテゴリ

そして、課金方法からカテゴライズすると、能動型と受動型 がある。

前者は特定問題の回答に課金、特定能力を有する人によるコンサル行為に課金、そして自分が文章を読んでごほうびとして任意で課金。

後者は一回当たりのコンテンツに課金、シリーズコンテンツにまとめて課金、そしてコンテンツを転載するために都度課金。

こういった課金方式、コンテンツの提供方法、形式、会社(既存大手の参入が多い)の特性によって組み合わせし、大量なプレイヤーが参加してきた。

ポジションニング

知識経済はざっと見て教育Techではないかと思われるが、若干ズレがある。新しいビジネスは必ずどこかの従来市場をリプレースしていくものになるため、ポジションニング分析より理解していただきたい。

結論を先に出しておくと、下記の表となる。

引用:Wechat公式アカウント[圈外]

最初は従来市場のデジタルシフト状況を見てみよう。

媒体:未知の情報を配信してくれる役割であり、新鮮な情報を知れることが重要。デジタルシフトにより、オフラインの新聞雑誌の情報を整理してカテゴライズするニュースとなった。さらに進化版として自分の趣味嗜好に合わせて情報選択してくれる中国のユニコーンTouTiao(日本ではスマートニュース)が現れた。

教育:学校の授業とテストのように、繰り返して実験し、何かを習得したい。できないことをできるようになる効果が大事。デジタルシフトにより物理的な距離をなくした通信教育・オンライン指導が現れた。

コンサル:お金を払ってもプロフェッショナルに頼みたい。結果が大事な時に、コンサルタントにソリューションを求めている。ソリューションで導く結果が重要。デジタルシフトにより、高額なコンサルフィーを抑え、リソースがあまる各領域のプロフェッショナルとマッチングするスポットコンサル、中国の在行(日本ではピザスク)が現れていた。

しかし、情報が多すぎる今は、新鮮でなくても自分にとって重要な情報を知りたい、自己啓発したいニーズに答えられるのは、従来の出版業界である。デジタルシフトにより、専門家のブログはある程度このような役割を果たしたものの、質の担保と収益性など不足していた。

知識経済の発展はまさにこの領域を補うのではないかと思われる。

資金調達状況

続いて主要プレヤーの資金調達一覧を以下にまとめる。

主要な有償知識プラットフォームの資金調達(Crunchbase、XinniuDataデータによる整理)

ここまでの発展にいくつかのマイルストーンがあり、特に、有名人の参加によることが報道され、世間の注目を浴びるようになった。

時間軸で見ると、下図となる。

実績

これほど資金調達され、短期間で注目が集まった企業の実績は以下にまとめた。

・喜马拉雅(Ximalaya)

2016年の123知識祭りに(アリババの独身の日のように割引を行う)24時間だけで5088万RMB(8.1億円)の売上が作られた。喜马拉雅は2017年以来、月間ARPU(average revenue per user)が90元(1440円)を超え、Facebookの7月決算で一番強い北米でのARPU(19ドル)と比較し、媒体価値がかなり高いとはいえる。

・知乎(ZHIHU)

2016年5月リリースして(2017年4月時点実績)、2900回Liveを開催し、累積参加者数は300万人を超え、ユーザーの課金リピート率は34%に達し、特に“穿正装:先穿对,再穿贵”というLiveが、単発で19万RMB(300万円)の収入を超えた。(中に60万円はLive後に課金)講演者の平均時給は1.1万RMB(17.6万円)に達した。

・分答(FENDA)

公開データ(2017年6月時点)によると、分答(FENDA)は1000万ユーザーに登録され、課金ユーザーは100万、33万人が回答者ページ作成し、回答数が50万以上、取扱総額1800万RMB(2.9億円)、リピート率が43%といった実績が作られていた。著名人王思聪氏が“KOL”“投資家”“哲学学者”というタブ付けて分答(FENDA)のアカウントを登録した後に、分答(FENDA)で32問を回答し、12.5万人が聞き、26万RMB(416万円)の収入を得た。

・得到(DEDAO)

2016年間では累積206万件のコラムを販売し、売上3億RMB(48億円)を超え、値段はおおよそ年間200RMB(3200円)として、コラムの稼動率は63.1%、DAU/DLが29.3%といった実績が公開されている。

・千聊(QIANLIAO)

UUは9800万人に達し、登録講師は80万人、授業収入500RMB(8000円)を超えた講師数でも5万人に、プラットフォームの累積取扱高はTOTALで4億RMB、月商3500万RMB(5.6億円)だという。

・微博问答

上場したWEIBO(中国版Twitter)の財務データから見ると、2016年12月リリースした微博问答は少しでも急成長の牽引になっているのではないかと思う。

(単位:千ドル、緑が広告収入、金色が付加サービス収入)

成功背景

このように急速に人気が集まれるようなサービスは投資家に注目されるので、中国以外の可能性について検討するために、ここまで発展してきた背景について深堀していこう。

知識の供給意欲

従来、優質なコンテンツ(知識)を提供する者がオフラインでは学校の先生、コンサルタント、作者、オンラインではメディアの編集者、ブロガー、知恵袋の回答者などが存在していた。

最近、Cloud計算技術の発展により、動画と音声の処理速度が莫大に増加し、Live配信まで余裕で対応できるようになった。そのため、オフラインでしか行われていなかった知識の提供がオンラインでも実施できるようになり、通信教育、電話コンサルなどが次々と現れてきた。

また、中国において第三者による決済手段がこの2–3年間で浸透され、オンラインでの決済が容易になった。

さらに、知識でマネタイズしてきた知識保有者は、伝統出版業界で本を出版するのに待たされる時間が大変長く、一方、オンラインで自分の知識をマネタイズした方がすぐ指標を反映され、PDCAを回しやすくなった。このような背景を基に、オンラインの有償知識シェアリングに参加したいというモチベーションが生まれた。

知識への需要

従来、勉強会等に参加する場合は、移動時間と交通費等のコストが大変掛かっていた。オンラインコンテンツは現場に足を運ぶよりは遥かに安いし、通勤時間中にある隅々な時間を利用して勉強できることが便利である。

また、冒頭に述べたように、自分で何かを調査するときに、ネット上の情報が溢れているため、情報の取捨選択に無駄な時間が掛かり、ネットより専門的な人に聞ければ信頼できる。

さらに、中国人の購買力が倍増し、物質欲求を満たした後に、精神欲求にお金を使ってもいいようになり、知的財産の保護意欲が高まった。

メンツ文化の一番強い中国人は飲み会の場で交流する際に、相手が言うことは自分が何も知らないと恥ずかしいという焦りがあり、親の世代はスマホの利用ができないように、人々が知識不足を自覚し始め、時代に遅れている恐怖感の牽引で知識への需要が高まった。

そのため、何とか勉強したい、でも読書はなかなか続けられないと方々は、たくさん潜在している。

知識経済では、5分くらいの解説を聞ければ、ある本について議論できるようになり、3分間のドラマのまとめを聞ければ、ドラマの面白さを語れ、社交的なネタとして使える。このように権威のある方から情報を仕入れして、自分が努力したように感じて満足感が生まれる。

購買力は急激的に増え、安易に負担できるコンテンツで、時間とお金の節約、そして精神的な欲求に満足できるのに人気が集まる理屈がいっぱいあった。

日本での展開可能性

日本での展開可能性について、個人的な観点を少し述べたいと思う。

まずは、日本でこの領域に踏み込んだプレイヤーは、実は別の形で存在していた。

・ヤフー知恵袋は、問題回答型知識メディアであり、国民的なサービスになっているため、ニーズは言うまでもなく、オーディオ化に対応し、そして回答者とコンテンツの質を絞って有料化すると、FENDAとなる。

・ビザスクは、スポットコンサル型であり、よりSNS的な要素を入れると、ビジネスサービスよりは、メディアに近いような「在行」(ZAIXING)となる。

・Schooは、オンライン動画教育プラットフォームであり、PGCの形で授業コンテンツだけでなく、幅広く活躍されるUGCの形でコンテンツをより充実させると、Ximalayaとなる。

上記のどちらも知識経済の事業を実現できる証拠となっている。

そして、歴史的な経緯から推測してみよう。

前述のように、中国はCloud計算技術の発展とオンライン決済手段の普及、そして出版業界の課題により、UGCでコンテンツ供給ができている。また、時間、お金の節約動機、時代遅れへの恐怖、購買力の向上により需要が現れた。

日本では、時間、金銭および知的財産の意識や、従来市場の課題、国民購買力など基本的にすべての条件が揃えられている。唯一、中国より遅れているオンライン決済が、近年日本におけるFintechの盛り上がりを見ると勢いとしては遜色ないと思う。

市場規模から見ても、日本の出版業界はネット・スマホの普及が影響により11年連続で出版販売額が減少した結果、まだ1.1兆円以上はある。日本の出版業界と教育業界(9000億円規模)のデジタルシフト分に、かなり大きな市場のパイが残る。

中国のインターネット企業はよく「人口福利」があると呼ばれて、トラフィックを誘導して広告勝負のビジネスモデルは人口の多い方が圧倒的に強い。しかし、知識経済というコンテンツ勝負のビジネスモデルは、職人精神があり、終身雇用制度に慣れていた日本だからこそ、相応しいものだと僕は考えている。

懸念および今後の課題

知識経済が注目されてから一年以上経ち、批判的な意見も当然あった。例えば、半年でたくさんのコンテンツを視聴したが何も役に立たなかったという声。実はこういった課題を既に検証されている。

科学的な検証により、読書行為については、断片的な時間を利用して情報収集することは時間集中的な勉強方法を代替ができないという。やはり自分で本を読んで情報をまとめないと覚えられず、自分の見解にはならない。あくまでも「知っている」状態であり、「理解している」状態には至らない。

ただし、断片的な時間を利用して体系的に勉強すると、繰り返して脳に刺激を与えられ、長期記憶に役に立つという。イメージは以下となる。

断片的学習と体系的学習イメージ

また、自分が努力したよという満足感そのものが生まれて役に立つとはいえる。

これとは別に、二次利用の課題もあがってきた。ID転売などビジネスモデルのつきをついた事例が発生している。これから多くのPlayerの参入によって公的な注目が集まり、法的規制が来るタイミングが近いかもしれないと思う。

今後の課題としては、長期利用を促す仕組み作り、Headユーザーの利用だけでなく、ロングテール効果の形成、継続的な質の高いコンテンツの確保、不法行為への規制健全化などが挙げられる。これらを課題を解決することで、ビジネスモデルの確立ができ、近いうちに、人々の学習習慣を変革させる新しいユニコーンが誕生するのではないかと私は考える。

個別のサービス紹介

今回は非常に理論的な話が多かったが、個別のサービスに関しては、

2017年11月24日(金)19時に実施する起業家向け勉強会にてご紹介したいと思いますので、ご都合が宜しければ、ぜひお越しくださいませ。

勉強会詳細

Code Repubulic 勉強会Vol.1

ーーーーーーーーー参考・引用ーーーーーーーーーー

大家都在说知识付费,究竟它是个什么鬼

https://zhuanlan.zhihu.com/p/26624653

知识付费时代来临:内容生产如何成为新的互联网生意?

http://tech.qq.com/a/20170119/002609.htm

知识付费产品盘点,哪款治好了你的焦虑? | 挖 App

http://news.91.com/all/s593f93c8cf6f.html

知识付费行业,目前做的都是错的

https://zhuanlan.zhihu.com/p/28982661

罗辑思维的商业变现无可厚非,但知识付费却是个伪命题

http://mini.eastday.com/mobile/170311051953355.html

知识付费,是不是伪命题?

ー微信公众号“圈外”

得到、知乎和喜马拉雅抢占风口,知识付费还有什么机会?

http://36kr.com/p/5085611.html?from=related

为知识埋单,用才华变现 — — 知识付费研究报告(完整版)

http://36kr.com/p/5083625.html?from=related

知识付费成互联网新风口 垂直细分领域正在崛起

http://news.cnfol.com/it/20171026/25525958.shtml

烯牛数据

http://www.xiniudata.com

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