What is e-Estonia?

電子国家と呼ばれるエストニア。その歴史的背景やテクノロジー、e-ResidencyというデジタルIDプログラムについて紹介しています。

Kanta Shimada
Think Identity
11 min readMar 8, 2020

--

Source: https://e-estonia.com/

先日、エストニア政府による「e-Residency Official Meetup 〜起業家・経営者のためのエストニア法人活用セミナー〜」に参加してきました。

この記事では、電子国家・エストニアの概要や、e-Residencyとは何か、Official Meetupでの学びについて紹介します。

エストニアの概要

エストニアは、ロシアとラトビアに接するヨーロッパの一国で、リトアニアとラトビアとともにバルト三国と呼ばれています。

人口:約132万人(日本でいう青森県と同じ程度の人口)
面積:日本の約9分の1(九州と同じくらい)
公用語:エストニア語(多くの人が英語を話せる)
宗教:国民の半数以上が無宗教
通貨:ユーロ

日本との関わりですが、大相撲の把瑠都関はエストニア出身というのは有名です。あとは、長野県佐久市と姉妹都市関係を結んでいるらしいです。

電子国家と言われる所以

行政サービスの電子化

エストニアでは行政サービスの99%が電子化されており、オンラインで手続きを完結させることができます。

学校の85%がID情報にアクセスできる電子プラットフォームを活用しており、確定申告の95%、法人設立手続きの98%、薬の処方の99%がオンラインで行われています。

国民の身分証明書、eIDカード

eIDカードは、エストニアで2002年から始まった、国民一人ひとりに番号を割り振るID制度です。15歳以上の国民にeIDカードの保持を義務付けており、日本でいうところのマイナンバー制度です。

特筆すべきは、このカードを使って日常のほとんどの公共サービスを受けられるということ。EU内のパスポート、国民健康保険証、銀行口座にログインする際の身分証明書、電子投票、医療記録の確認、税務申告、公共交通機関の無料利用までを、このeIDカードが担っています。

結婚・離婚・不動産取引以外の全てがオンラインで完結できるのです。

なぜ電子国家になったのか?

エストニアが電子国家になったのは、その歴史的背景が大きく影響しています。エストニアは旧ソ連の崩壊によって1991年に独立しましたが、それ以前はデンマーク、ドイツ騎士団、スウェーデン、ロシア帝国、そしてソ連へと次々に支配者が変わっていった歴史がありました。そのため、「いつ領土を失うか」という懸念が国民性として広がっていたと言います。

また、独立前からソ連のサイバネティックス(人工頭脳学)研究所が首都のタリンにあって、そのノウハウやITに強い人材が残っていました。

このような歴史的背景から、

物理的に国土が占領されても消えない国を作る

という決意が、電子国家・エストニアを作り上げたのです。

電子国家を支えるテクノロジー

このような電子国家を可能にしたのは、大きく3つのテクノロジーでした。それらが、X-Road・ブロックチェーン・電子署名です。

X-Road

X-Roadとは、1997年に設立されたエストニア発のテクノロジー企業・Cybernetica社が開発した、分散されたデータベースをセキュアに連携させるプラットフォームです。各行政機関、医療機関、研究機関などを連携させることで、通常なら大量のペーパーワークが発生するような作業をワンストップで完了させることができます。

Source: https://e-estonia.com/solutions/interoperability-services/x-road/

Cybernetica社は2001年に政府の要請を受け第1弾となるX-Roadをローンチ、それ以来バージョンアップを重ね、プラットフォームに連携する機関・組織を増やしながら電子国家の骨組みを構築しました。

現在、エストニアの900以上の行政機関や企業が活用、1400以上のサービスが提供されています。また、X-Roadのテクノロジーは、フィンランドやアゼルバイジャン、ナミビアなどでも導入されています。

ブロックチェーン

エストニアは、2007年に起こったロシアから大規模なサイバー攻撃を受けセキュリティ強化を図り、国家レベルとしては世界初のブロックチェーン導入国となりました。2012年からエストニアの各種登録に関するオペレーションの一部として、国民の健康や司法、立法、セキュリティや商用コードシステムに活用しています。

そしてこれを可能にしたのが、サイバーセキュリティ企業・Guardtime社の「KSI ブロックチェーン」です。

Source: https://guardtime.com/

KSI とは、“Keyless Signature Infrastructure” の略です。これは、PKI(公開鍵基盤)といった従来のアプローチとは異なり、ハッシュ関数による暗号のみを使用したものです。

また、ブロックチェーンは「取引の数」に対して増大するのに対し、KSI ブロックチェーンは「時間」に対して増大するため、スケーラビリティに優れているということになります。

さらに、コンセンサス・プロトコルへの参加人数が制限されており、通常のブロックチェーンにおける Proof of Work の必要性が排除され、検証にかかる時間が1秒以内になることも、KSI ブロックチェーンの特徴です。

電子署名

電子署名については後ほど詳しく紹介しますが、この欧州初のクロスボーダー電子署名・認証サービスは、エストニアだけでなくラトビア、リトアニア、フィンランド、スイス、ベルギー、アゼルバイジャン、ポルトガルで利用されています。

Source: https://e-resident.gov.ee/

これを可能にしたのは、2012年に設立されたエストニア発のスタートアップ・SignWise社です。SignWise社が提供するポータルサイト内に署名したいPDFをアップロードし、そこにデジタル署名を貼り付け、IDに付与されているPINコードを入力するだけで電子署名ができるのです。

後述のe-residencyにとっても必要不可欠な要素になってきますが、これまでにIDカードがハッキングや、電子署名の偽造などの事例は起こっていないようです。

e-Residency とは何か?

今回のOfficial Meetupの主題は、e-ResidencyというデジタルIDでした。

e-Residencyとは、元々エストニア人のeIDカードに次ぐ2枚目のデジタル専用カードとして発案され、その電子プラットフォームを自国民のみならず外国人向けに開放したプログラムです。

2014年12月にローンチして以来、現在(2020年3月5日時点)65,955人が登録しています。日本にも3,000人以上のe-Resident(電子国民)がおり、259社が法人設立をしています。

ちなみに安倍首相もe-Residentの1人らしいです。

e-Residencyで出来ること

法人設立

エストニアの現地法人を国外にいながら設立することができます。e-Residencyの法人設立を手助けしてくれるサービスを利用することで、最短10分で法人登記することが可能です。

口座開設

EU市場にアクセス可能なビジネス口座を開設することができます。エストニア国内の銀行など、一部の金融機関ではFace to Faceの面談を要求されることがあり、必ずしも遠隔で開設できるとは限りません。

電子署名

電子国家を支えるテクノロジーの1つである電子署名。契約書の締結に際 して国際郵便等で書類をやり取りする必要が無くなり、ビジネスのスピードが増します。

e-Residencyで出来ないこと

移住・ビザ取得

e-Residencyは、あくまでもエストニア政府の電子プラットフォームの一部を利用できるサービスです。e-Residencyを取得したからといって、実際に移住権やビザを取得できる訳では ありません。

電子投票

エストニアではe-IDカードで電子投票が可能ですが、e-Residentにはこの権利はありません。エストニアの選挙で投票するためには、現地での永住許可を取得する必要があります。

公共機関の無料利用

現在エストニア国民は公共交通機関を基本的に無料で利用できますが、e-Residentは利用できません。ただ、今後プログラムのアップデートで使用できる可能性もあるようです。

e-Residencyを活用したビジネス

前述のように、e-Residencyに身分証明書の要素は少なく、企業に特化した行政サービスを提供するのが主な目的となっています。そのため、e-Residencyを活用したビジネスは大きな注目を集めています。

エストニアでのビジネス

エストニアで法人設立する理由は人によって様々ですが、以下のような目的で選ぶ人が多いようです。

・ヨーロッパでの事業展開のハブとして
・EU市場への輸出入のため
・税制が競争的で整備されているため
・ロケーションインデペンデントな法人を設立するため

このような理由から、傾向としてマーケティングやコンサルティング、IT開発、貿易業などの業種が多くなっています。

エストニア法人の形態

エストニアで法人を設立する場合には、OÜ(有限会社)が設立されます。ちなみに、「Ü」は「Alt+u → Shift+u」で入力できます(Macの場合)。

資本金の最低金額は2,500ユーロですが、10年の猶予期間があるので最小限のコストで登記できます。また、e-Residencyで登記する場合は、法人設立時の渡航の必要がないのも魅力です。

法人に課される税金

エストニアはOECD加盟国の税制度競争力ランキングで1位です。さらに、2018年には日本・エストニア間で租税条約が締結され、より明確な基準のもと税務申告ができるようになりました。

・法人税:20%
・社会税:33%
・付加価値税(日本でいう消費税):20%

注目すべきは法人税です。日本の税制では収益と配当に対して実質二度の課税がありますが、エストニアの場合、配当に対してのみの課税になります。これはつまり、「キャピタルゲインに対する課税がない」ということになるので、法人にとってかなり魅力的と言えるでしょう。

まとめ

電子国家を支える技術

X-Road、ブロックチェーン、電子署名

e-Residencyで出来ること

法人設立、口座開設、電子署名

e-Residencyで出来ないこと

移住・ビザ取得、電子投票、公共交通機関の無料利用

今回の記事では、電子国家・エストニアの概要と、e-Residencyによるビジネスについて紹介しました。

改めて、e-Residencyには身分証明書的な要素は少なく、エストニア政府の電子プラットフォームの一部を利用できるサービスです。

エストニアでは、Skypeに代表されるようなIT系のスタートアップ企業への期待が大きいことから、 外国人を誰でも受け入れますよ、というよりは「自国の経済を発展させるような企業を作ってくれる人は受け入れたい」というスタンスだそうです。

目的との一致感や事業の向き不向きを考慮した上で、十分に活用できるか見極めることが大切だと思いました。

--

--