むかない安藤を知っているか

「むかない安藤」を知っているだろうか。

「むかない安藤」とは、デイリーポータルZというなんだかよく分からない面白いウェブサイトでライターをしている安藤昌教氏が、ひたすら食べ物を”むかずに”食べるという企画である。

今日はこの「むかない安藤」の魅力について語りたい。

最初にこの動画を見た感想は、くらだないをやっているな、というくらいのものだと思う。「むかない安藤」は、1本の動画として見れば、ただ食べ物をむかずに食べてみた、というだけの短い動画である。「◯◯してみた」というフォーマットはYouTubeやニコニコ動画などでありふれたものとなっていて、目新しさはない。

しかし、これまでに公開された動画をプレイリストにしてひたすら見続けると、1本の動画を見るのとはまったく異なる体験になる。「むかない安藤」は、2012年2月に最初の動画が公開されて以来、2017年2月までの5年間で約250点にも及ぶシリーズとなっているのである。

人間は学習する生き物だ。人間に限らず、動物は学習をする。たとえば、マウスを飼っているカゴの中に青いボタンと赤いボタンを用意する。マウスが青いボタンを押すと餌が出てきて、赤いボタンを押すと電流が流れるようにしておくと、マウスは青いボタンしか押さないようになる。多分。赤いボタンを押すと電流が流れて痛いということを学習するからだ。

一方、「むかない安藤」はこの5年間、本来むいて食べるはずのものひたすらむかずに食べている。「むかない安藤」は学習しない。包装ごと食べては体を震わせ、アクの強い野菜を食べてはえずき続きている。もう一回赤いボタンを押したら、もしかしたら餌が出て来るかもしれない、と信じ続けている。狂気だ。

この狂気をひたすら見続けると、動画冒頭の太鼓の音と、むかずに食べたリアクションの反復から生まれるグルーヴにやられ、笑いが止まらないというある種のトランス状態におちいる。むかずに食べたらだめだと分かっているのに、なぜ彼はむかないのか。理解を超えたものに対して、人は笑うしかないのだ。そしてついに、むかずに食べられる食べ物を見つけたときカタルシスが訪れる!

この動画を見た人は思うかもしれない。一度味わってしまった「むかずに食べれるもの」への期待が彼を駆り立てているのではないかと。しかし、そうではない。この「バナップル」の動画の公開は2015年、「むかない安藤」を始めてから3年、ようやく見つけたのだ。そして、この「バナップル」以上にむかずに食べられる感動があった食べ物は後にも先にもない。

彼がひたすらむかずに食べる理由はなんなのか。それは次のふたつの動画からうかがい知ることができる。

でも”むけ”ってどこにも書いていない
”外はさっくり中はしっとり”って言ってるけど、もう一層あるだろうと。(包装の)がっさりがあるじゃん

彼は疑っているのだ。なぜ人はむいて食べるのか。むかなくてもいいのではないか。

彼は正しい。私達は、なんとなくのイメージから食べ物はむいて食べるものだと学習していた。冒頭のマウスの実験で例えるなら、赤いボタンは電流が流れそうだ、というイメージで赤いボタンを押さずにいたのだ。

「むかない安藤」は、赤いボタンを押し、電流を受け続けている。しかし、赤いボタンを押すことはやめない。次に押したときにまた電流が流れるかどうかは分からないからだ。もしかしたら電流が流れない時間があるかもしれないし、押し方で変わるかもしれない。単純なマウスは、赤いボタンを押すと電流が流れる、という単純な論理しか持ち合わせていないが、人間はもっと複雑な世界のルールを見つけることができる。

「むかない安藤」は研究だ。むいて食べるという常識を疑い、ひたすらむかずに食べるという実験を繰り返す。そして新たな発見をする。これまで、銀紙の包装は噛むと変な信号が伝わるのでむいたほうがよいが、魚肉ソーセージなどはむかなくてよい、などのことを明らかにしてきた。これらの一部は英語で世界に公開されている。

日本の科学教育に必要なのは「むかない安藤」ではないか。

そんなことはどうでもよくて、とりあえず本当に面白いので、たくさんの人に見てほしいです。以上です。

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