テキストエディタ『Stone』は、インタラクションまで美しく、縦書きをアップデートする

小山和之
6 min readAug 14, 2017

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日本デザインセンターが開発するテキストエディタ『Stone』。

“書くことに集中する”ことだけを考え抜いてつくられた、「書く気分を高める」macOS用テキストエディタだ。同社はリリースに先んじて、8月にSNSを通してモニターユーザの募集を実施。β版を試用させていただいている。

日本デザインセンター初の自社プロダクト

プロダクトの使い心地などに触れる前に、開発背景について言及しておきたい。

Stoneは、日本デザインセンター“初”の自社プロダクトである。

日本デザインセンター(以下・NDC)」は、業界で知らない人はいないであろう“超”がつく有名デザインファームだ。亀倉雄策、原弘、田中一光、山城隆一といった現在の広告クリエイティブの礎を作った人物たちが創業し現代表は原研哉が務めている。

開発を担当する日本デザインセンター・北本 浩之氏(写真左)、横田泰斗氏(写真右)

開発背景やプロダクトの狙いなどについて、同社ウェブサイト上にインタビューコンテンツが掲載されている。記事内で開発を担当するWebデザイナーの横田泰斗氏はプロダクトの目標を以下のように語る。

目標は書き手を増やすことです。読むのは好きだけど、書くことはちょっと敬遠してしまう。そんな人たちに書く楽しみを知ってもらえたら。snoteがそのきっかけになれたら。そんなことを考えています。サイトも作りますが、アプリの機能説明だけでなく、文学系のイベント紹介や、筆が進む場所の提案とか、ゲストに物書きを呼んでワークショップをしたりとか、サイトそのものが書くための手引きになれればと。

ここ数年収益構造の安定化を狙い、デザインファームが自社プロダクトの開発へ手を広げる流れは強まっている。ただ、日本デザインセンターが手がける自社プロダクトが「テキストエディタ」というのは少々意外だった。

テキストエディタはPC黎明期からさまざまなプロダクトが登場してきた。時代の変遷とともに、常に新しいプロダクトが世に現れは消えていく。その分UIなどデザイン面でも洗練されているプロダクトも多く、日本デザインセンターの強みで差別化を図ることは他のアプリと比べて容易ではないはずだ。

なぜ、テキストエディタだったか。その視点も加味しつつ試用してみている。

計算され尽くしたUI

アプリケーションを起動し真っ先に受ける印象はUI(ユーザインタフェース)の綺麗さに違いない。NDCが得意とするところでもあり、Stoneの強みの1つである。

要素を最小限に抑えたシンプルな画面構成。ほんのりと薄灰色の背景に、行数などを示す薄灰色の補助文字。入力する文字色は濃い灰色と、不満のないコントラスト比は保ちつつも、目が痛くない程度の優しい色味にそろえている。PCの画面で目が疲れやすい自分にとって、この配色は嬉しいポイントだ。

フォントを明朝とゴシックで選べるのは、日本発のプロダクトならではだろう。

デザイン面の優秀さでいえばインタラクションについても言及したい。

薄灰色で表示される補助文字はポインタを動かすと表示されるが、テキストが入力され始めるとフェードアウトしていく。テキストの入力中は必要最低限の要素しか表示せず、“書くことに集中させる”ことだけを考えたというデザイナーの意図が垣間見える。

最初の1行を入力する時、画面中央から入力がなされるのも特徴的だ。文字入力は紙とペンのメタファーが用いられることが多い。一番上の行、ないしは右端から文字を入力することもそのメタファーによるものだ。デジタルのテキストエディタであれば中央から入力がはじまっても何らおかしくない。

「考え抜いた、最初の一文を刻む」行為が少しだけ特別になる。

差別化要素は“縦書き”

もう1つ、Stoneの大きな特徴と言えるのが「縦書き」への対応だ。

Macにおいて縦書きに対応するテキストエディタは意外なほど選択肢がない。思いつく限りでも「Hagoromo」「Jedit」「Word」くらい。少なくともこの3つにおいて、UI面が美しく整っているものはない。

この縦書きエディタというニーズに対しStoneは1つの解となり得る。

無論、現状では縦書きエディタとして十分とは言えない。βということもあってか、行間や文字サイズ、文字数といった視覚的な調整以外は検索と置換のみと、機能面はかなりシンプルに抑えられている。縦書きであれば求められるであろう、ルビや縦中横といった機能は現状実装されていない。

ただ縦書きにおいて、ここまで美しくテキストへ集中できるUIが実装されたテキストエディタは存在しない。縦書きの場合、特に「原稿用紙」のメタファーが強く、そのメタファーにUIも寄せられる傾向が強い。

前述したところだが、StoneではデジタルネイティブなテキストエディターとしてのUIが実現されている。

僕は普段Ulyssesというテキストエディタで原稿を書いている。UlyssesもStone同様シンプルなUIで書くことに集中することを重要視しているテキストエディタだ。加えてStoneよりも多機能で、Markdownへ対応し、アウトライナー機能も搭載、iCloud経由でのマルチデバイス対応も実装されている。

Ulyssesと比べてStoneが“便利”とは現状まだまだ言えない。ただ、ビジュアル面で言えば、インタラクションなど細かな積み重ねの意味ではStoneの方が上をいく。さらに縦書き対応は今後既存製品を含め圧倒的な差別化を狙える可能性を有している。

多機能化したときにこのUIの美しさを果たして担保できるのかという不安はあるが、今後の機能拡張がStone導入の鍵になりそうだ。

なお、リリース時の価格は3,000円を予定。リリース時期は9月末頃を目指して動いている。

(※追記2017年11月30日に発売:http://stone-type.jp)

source/img: Nippon Design Center

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小山和之

weaving inc. 代表取締役/ designing編集長。 Apple Retail、建築設計事務所、デザインコンサル会社を経て独立。デザイン領域のメディア運営・情報発信支援・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける仕事をしています。