『はじめての編集』から学ぶ、いまの時代の編集者・ライターに求められる編集力

小山和之
8 min readOct 4, 2016

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先日、私が参加しているライティングを学び合うための会員制コミュニティ『sentence』が主催する、読書会イベントに参加してきました。

今回は本イベントで学んだことを整理し、自分自身のメモを兼ね残しておきたいと思います。

読書会は、毎回取り扱う書籍を決め、事前に読んだうえで議論するという趣旨のもの。第1回目となった今回の書籍は、菅付雅信著『はじめての編集』です。

菅付氏は『エスクァイア日本版』『コンポジット』『インビテーション』などの編集者や編集長を歴任。さまざまな書籍、広告、ウェブ、イベントなどの編集も行い、『中身化する社会』『物欲な世界』といった書籍の執筆活動も行う著名編集者です。

同士が主宰する『菅付雅信の編集スパルタ塾』も有名ですね。

『はじめての編集』は、菅付氏が2011年に記した現代の編集者のバイブル的著書。歴史やさまざまな著者の言葉を引用しつつ、”編集という行為”を体系的にまとめているものです。

『編集』は広義になってきている

読書会は、各々が特に印象に残った内容・センテンスを共有し、議論を重ねるスタイルで進められました。私が本書籍を読み印象に残ったのは、”編集の定義そのもの”でした。

菅付氏は、編集という行為を以下のように定義しています。

『企画を立て、人を集めて、モノをつくる』

また編集の3大要素を「言葉、イメージ、デザイン」と考えており、メディアや書籍、記事の編集だけではない、広義の編集という考え方をを提示していました。編集者というよりもクリエイティブディレクターに近く、この言葉は、単純な言葉の編集だけの時代ではないと示唆していると考えました。

後半で詳しくは述べますが、紙の編集者とウェブ編集者では求められるスキルが全く異なります。つまり編集者の職務内容も数十年前といまとではかなり異なるはず。言葉を扱うプロとしての価値はあるものの、それ以外の分野の理解や知識が求められる時代になってきているのではないでしょうか。

つまり、菅付氏が定義した編集は時代に応じ業務内容が変化していくなかでも変わらない、根源的定義なのでしょう。目の前の業務や、自分が想像する範疇だけで編集を捕らえがちですが、編集に軸足を置いて仕事をしていこうと考えている人であれば、この菅付氏の定義は覚えておいた方がよさそうです。

インプットの重要性

書籍のなかで菅付氏は、文章力について以下のように記しています。

いいライターや作家、コピーライターを見ていて思うのは、文章力は読書量に比例すると言うことです。彼らは例外なく読書家です。良い文章を書こうと思うなら、読書の質を保つことが肝心だと思います 。

料理人がレストランを食べ歩くように。デザイナーが優れたデザインを日々リサーチするように。文章を生業にする編集者・ライターはさまざまな書籍、つまり文章・言葉をインプットしなければいけません。それが血となり肉となるからです。

主催のモリジュンヤさん、西山武志さんのお二方は『はじめての編集』以外にもさまざまな本を話題にあげ、話を進めていました。話題に上がる書籍を次に読んでみようと思うのと同時に、お二方がいかに本を読んでいるかも感じ、改めて読書量の重要性を感じました。

というのも、私はほとんど本を読まないからです。大学までは部屋のあちこちに本を積む程度には読んでいたのですが、社会人になると共にあまり読まなくなるように…。それでも、当初は月数冊程度買っていたのですが、読めないまま積まれた本が増え、部屋の容積を逼迫。

一念発起し全ての本を裁断・スキャンして片付けたところで、私のなかで本を読みたい欲が一気に薄れていったのでした。いまは、どうしても気になる本だけ買う程度で、おそらく年10冊も読んでいません。(雑誌は読むのですが…)

今回の読書会を通して一番学んだことは、『圧倒的読書量不足』という現状に対する危機感でした。良質なインプットこそが良質なアウトプットを生む。改めて原点に立ち返るきっかけとなりました。

ライター目線の読書法

読書会では「ライターとして、この本から学べたことは?」という問いが投げかけられました。

『はじめての編集』という書籍でいえば、学び取れる内容は数多あるでしょう。ただ、この問いは『本を読む姿勢』について考えることを意図されていました。

つまり、『編集者・ライター視点で本を読む』ということ。

本を情報源として読むのではなく、優れた文章の集まりとして読む視点をもつことで、自分の文章に活かすという意味です。

言われてみれば確かに!と思う一方、今まで自分ができていたかといえば全くで、これからの本の読み方として新たな視点を持つきっかけとなりました。

校閲者は、文字に集中するため、原稿を面白いと感じてはいけないそうです。ライター視点の本の読み方はこれに近い、別視点からの文字の見方があると思いました。(ライターは面白いと感じてもいいと思いますが)

私は実用書・ビジネス書ばかり読み、小説などはほぼ読みません。たださまざまな言葉と触れるために、小説やエッセイなども含め幅広いジャンルの本を読むべきだろうと漠然と考えたりしています。

いまの時代の編集力

『はじめての編集』は2012年に出版された書籍です。

「今年2016年時点で、この書籍をアップデートするとすれば、どのような内容が加筆されるべきか」という議論が行われました。

この4年間、編集者・ライターを取り巻く環境で一番変わったものが、ウェブをはじめとした媒体の変化です。

『MERY』をはじめとしたキュレーションメディアの台頭や、『BuzzFeed』『Huffington Post』といった新興海外メディアの日本上陸も続いています。他にもVRやIoTといった新たなテクノロジーによる”媒体の変化”は、編集者・ライターが”コンテンツ”を作るうえでも、影響を与えるでしょう。

菅付氏は書籍だけではない広範な編集に携わっていますが、彼の考える編集の定義では、いままで以上に携わるべき分野が増えたことになるはずです。

いち編集者・ライターとして考えても、ウェブメディアで担うべき業務範囲は多岐にわたります。記事の執筆・編集業務は勿論、KPI・KGI設計、UIの最適化、ソーシャル対策、広告戦略、マネタイズまで…。挙げ出すときりがありません。

『The Verge』や『Vox』、『Recode』などを擁するアメリカのメディア企業『Vox Media』は独自CMSを用いたコンテンツ改善や広告戦略を展開しており、ウェブならではの戦い方で劇的な成長を遂げています。

ウェブメディアに携わる人間であれば、少なくともウェブがどう作られ、成長するかという仕組みを理解しておくことは必要になるでしょう。目指すべき方向と、手にできる武器を知った上で戦いにいくか否かは、戦い方は変わってくるのではないでしょうか。

端的にまとめると、今回の読書会での個人的な学びは以下の3つ。

  • 圧倒的読書量不足
  • 編集者・ライター視点で本を読む
  • 時代にあった編集者・ライター像を考える

今回参加した読書会は、今後2週間〜1ヶ月に1回程度の間隔で引きつづき開催していくとのことです。事前に課題図書を読んで参加するスタイルなので、当日までに読むことを余儀なくされるのは、私にとってはいい刺激となりそうです。

今回感じた大きな課題、『圧倒的読書量の不足』を解消するためにも、今後も参加していければと考えています。

無論、自分でも本を読む習慣づけをしなければ…と思いつつ。

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小山和之

weaving inc. 代表取締役/ designing編集長。 Apple Retail、建築設計事務所、デザインコンサル会社を経て独立。デザイン領域のメディア運営・情報発信支援・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける仕事をしています。