RITTOR BASEと私について、あるいは耳を開くことへの誘い
文:lucky-y
皆さんは「サンレコ」という単語をご存知でしょうか。
サウンド&レコーディングマガジン。「音楽制作と音響のすべてを届けるメディア」を自負する、リットーミュージックが誇る雑誌の愛称です。
雑誌の世界ではいち早くiPad版(正確にはiOS版)を制作、しかも単にPDF化というレベルではなく完璧にwebコンテンツとリンクした状態で、紙版と並行して販売。現在ではiPad版ではなくブラウザ版が展開されていますが、最新号から80年代のバックナンバーまでが公開されており、アーカイヴとしての価値を考えると偉業と言って差し支えないレベル。
その時代における「良い音」を追求する人々の営みが、証言が、技術が、ひたすら積み重なっている。
リットーミュージックが定期的に出版している雑誌の中で最もマニアックに思われがちで、実は音楽に関わる全ての人に密接に関係している内容です。
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さて、話は2010年に遡る。
自分が敬愛しているミュージシャンの一人である大友良英氏が、サンレコ主催のイベントに参加されるということで、応募したら運良く当選しました。なんと会場は都内の某レコーディングスタジオで、オーディエンスを入れた状態で大友良英氏と高田漣氏が演奏し、超高音質のDSDというフォーマットで録音してミックスまで完了するというイベント。
文字で書くと凄さが伝わらないんですが、レコーディングスタジオに一般客が入るだけでも有り得ないんですよ。ましてミックスまで立ち会えるとか。
全部終わったのは確か終電過ぎてたと思います。ほんと有り得ない。狂ってる。
この ”Premium Studio Live” と名付けられたイベントが2回3回と継続的に開催されたので、可能な限り応募して行くようにしていました。大野由美子+zAk+飴屋法水とか、マイア・バルー+アート・リンゼイとか、本当にとんでもない体験でした。
繰り返しこの現場に顔を出しているうちに、主催者の國崎晋さんと仲良くなったのです。仲良くなったと言うか面白がられるようになったと言うか。一旦面識が出来たら色々な所でお会いするようになってどんどん打ち解けて、何故か歌舞伎町のロボットレストランへ行ったりもした。これはさすがに頭おかしい。
その國崎さんが新しいスペースを作っているという話を聞いたのが、2018年の11 月頃。早速遊びに行ったら、予想以上に凄い。スピーカーの数や配置といった技術的な話は敢えて書きませんが、レコーディングスタジオともライヴハウスとも全く異なる、本当に独特な場所。オープン後に様々なイベントを観たところ、音の響きも空間の質もとても心地よい。ワンオペが過ぎるのではという気もしており、あまりにも属人性が高いのはまずいのではとも思いつつ、それであればこそのスペース。
それがRITTOR BASE。
國崎さんからは「音」について色々と教えていただきました。直接教えていただいたことも多いけど、世間話の延長あるいは主催されているイベントの中に、無数のヒントが有る感じ。ふとした拍子にうっすらとした手掛かりが掴めて、そこから連なる音を紐解いていくと、自分の耳が少し開く。
「目の前がぱっと開ける」みたいな表現があるじゃないですか。それと近い感じで、耳は開きます。ただ、ぱっと開くのではなく、少しずつ少しずつ。
いつかこの場で何かやりたいとずっと考えていましたが、この度こういう形でのイベントを開催することとなりました。せっかくなので、ここでしか出来ないことをしようと考えています。
この場所でしか出来ないこと。この場所でしか感じられない音。
その場所にいる貴方。
耳を、開け。