“ブロックチェーンを用いた知的財産管理” は課題だらけ

要約:

  1. 分散台帳技術を使った知的財産管理には、真正性 (authenticity) と追跡可能性 (traceability)という2つの大きな課題が存在する。
  2. 頑健かつ改ざん困難な形で管理出来るのはあくまで「台帳内」に「登録後」のデータなので、台帳外に独立して価値が存在する知的財産の管理は難しい。
  3. この問題への対処は、知的財産が持つ価値を台帳内部へ移転させるか (内部化) 別のインセンティブ設計を考えるか (外部化) の2種類だろう。

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現在分散台帳技術と知的財産(IP)管理に関するサーベイ論文を書いているので、その過程で感じた現状の課題点を整理して記述します。ブロックチェーンがもの凄い注目を集め、IP管理を含めバラ色の未来予想図が展開されがちな現在、少し落ち着いて存在する課題を認識しておくことは重要であると考えます。

真正性の問題:

どのようなアイデアであれ「分散台帳技術 (含ブロックチェーン) を使って知的財産管理をしよう!」という時に必ず行うであろう作業とは、対象に関する何らかの情報を台帳に記録出来るようハッシュ化して保存することである。

これだけでも、登録データが頑健かつ改ざん困難となる分散台帳においては登録時点でその情報が存在していたことを証明出来る(Proof of Existence)し、台帳に権利所有者も合わせて記録することで著作権や特許ライセンス管理へも応用可能 (Proof of Ownership) だろう。

*これは特にハッシュの採用によって登録内容を非公開にしたまま存在証明が出来る点に新規性がある。

そのため、ブロックチェーンを用いたタイムスタンプ付き証明書発行サービス (e.g. Binded, Ascribe.io, Verisart) や登録用メタデータの共通規格の提案 (e.g. Coala IP) など、既に多くの関連動向が存在している。

しかし、ここで問題となるのは私たちが登録された情報の真正性 (Authenticity) を担保出来ない点だ。

IPから関連情報を抽出する際には、意図せずに不正確な情報が台帳へ記録されてしまう可能性があるし、あるいは意図的に誤った情報が記録されることも分散台帳技術単体では防ぐことが出来ない。

追跡可能性の問題:

仮にAuthenticityの問題が解決されたとして、次に考えうる拡張とは所有権の移転を管理することだろう。先述の証明書あるいはIPへアクセスするための秘密鍵を分散管理することで、特定のプラットフォームに依存することも盗用されることも無いIP取引が実現するのではないかという期待は根強い。

しかしここにおいても、私たちはネットワーク外にあるIPの二重譲渡や複製を防ぐことが出来ないという追跡可能性 (Traceability) の問題に直面する。

例えば絵画などの物理的なコンテンツは台帳にある証明書の記録を変更せずとも他人に売ることが出来てしまうし、デジタルコンテンツであってもアクセス権を持つ者が不正コピーすることは分散台帳技術だけでは防止出来ない。

当然のことながら、ひと度コンテンツがネットワークで捕捉可能な範囲の外へ出てしまえば、そこから先の所有権追跡は最早不可能である。

原因と対処法:

これら2つの問題に共通する根本的な原因とは、IPが台帳外に独立して価値を持つことが出来る資産であることである。

ビットコインのような暗号通貨は台帳の記録のみが価値であるため、取引記録や新規発行量などの記録を全て台帳内に留めることが出来る。しかしIPの場合には、①まず関連するデータを誰かが台帳へ記録し、②次にデータとIP双方の状態変化を重ね合わせねばならず、それぞれに重大な問題が存在する。

*つまりIPに限らず、例えば土地やサプライチェーンの管理も困難なはずである。

つまり分散台帳はあくまで「台帳内」に「登録後」のデータを頑健かつ改ざん困難な状態で管理することが出来る技術であるため、上記の真正性と追跡可能性を解決するためには別途独自の合意形成アルゴリズムやインセンティブ設計がどうしても必要となる。

では、どのような対処法が考えられるのか?

ズバリまだわからない!

ただし少なくとも、考え得るアプローチはIPが持つ価値を台帳内部へ移転させるか (内部化) 、別のインセンティブ設計を考えるか (外部化) の2種類しか無いはずだ。

前者に関して、まず真正性に対する現実的な対処法とはPublicだがPermissionedなネットワーク(及びブロックチェーン)を採用し、権限を持つ者の承認が得られた入力内容のみを台帳へ記録することだろう。例えば学術ジャーナルの Ledger では、内部の編集者が投稿論文のレビュー進捗状況や公開日時などをいわゆるプレプリントサーバの代わりにブロックチェーンに記録しているが、このイメージに近い。

また追跡可能性については、残念ながら現時点の自分には良い対処法が浮かんでいない。ただなんとなくではあるが、オフチェーン取引やトークン化などが鍵になるような気がしている。

最後に後者の外部化アプローチについてだが、現在「こういう対処法が考えられるのでは?」的な論文を書き終えてレビュー中なので、無事に公開され次第改めてその内容を投稿する予定である。

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以上、引き続き先行研究を調査中のためもし何か参考になるであろう動向や良いアイデアがあれば、コメントいただければ幸いです。


Originally published at Kensuke ITO.