第8回ニコ技深セン観察会の感想

Kenzo Nagahisa(永久健三)
11 min readMar 24, 2018

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0.前書き

この記事は、先日参加させて頂いた「第8回ニコ技深セン観察会(以下「観察会」)」の個人印象記録パート1である。
観察会とは、現地集合解散、参加者がみんなネットに感想を公開することを前提にしている形の大人の社会科見学だ。

観察会は毎日が刺激的で訪問させて頂いた場所はどこも印象深かったが、今回はInsta360、KANDAO、DobotやM5Stackなどのスタートアップの話はザクッと割愛しようと思う。これらについては他の参加者のBLOGを僕もすっごく楽しみにしている。
実は僕は、技術系のQIITA以外でBLOGを書くのは10年ぶりで、久しぶりに自分自身のことや自分の気持ちを活字にすることにかなり抵抗がある。
ただ、どうせ書くなら敢えてそこにフォーカスして「自分のこと」「自分の感じたこと」を正直に書こうと思っている。

はてさて、どうなることやら。

1. 観察会参加まで

(1)2017年9月の「裏」観察会

深圳は以前から気になっていて、高須さんの本で知った「観察会」にいつか参加したいと漠然と思っていた。そんな想いを日々口にしていたのだろう、多忙で観察会に応募さえできない回が続いたのち、たまたま僕の愚痴を覚えてくれていた知合いが「裏」観察会に誘ってくれた。
「裏」観察会は茂田さんを中心に観察会OBの方々+アルファが集うミニ観察会で、結果的にここでの体験が「表の観察会にも参加せねば!」という決心につながった。

はじめての深圳経験は主催している社内勉強会の番外編として紹介。[Cloud103]番外編:深圳のススメ

(2)「裏」観察会後

「裏」観察会で何を感じ、なぜあれほど「表に参加したい」と思ったのか今となっては正直よく覚えていない。
ただかなりカルチャーショックを受けたことは確かで、その後日本で関連するmeetupに参加したりするようになった。
高須さん・藤岡さんは覚えていないだろうけど、その中のいくつかではお二人に日本でお会いできて一人興奮していた。

Hacker Farm Maker Pro: Getting To Know You Meetup

ニコ技深セン観察会同窓会 and Meetup with Cytron Choo

深圳IoT界のフロントランナーに学ぶ 「メイカースペースの可能性と、世界最高の分業体制の秘訣

(3)ラッキーだった観察会参加

で、今回の「表」観察会。年度末の繁忙期だったがソッコーで応募。
応募時の自己紹介ブログの要件に年齢記載はなかった😅

僕は今57歳で昨年4月から開発子会社に出向しているが、少し前までは高須さんの嫌う「物を作らない中間管理職」だった。無論そんなことは自己紹介ブログには一切書いてない(書いてたら参加出来なかったような気もする😅)。
申込みアクションが早かったせいか、約2倍の倍率の中、運良く参加させて頂けることになった。
年度末でバタバタしていて準備にかける時間は少なかったが、昨年「裏」観察会に参加していたおかげて悩まなかった。やっぱり経験は超大切。
深圳渡航情報は量が多くて初心者は迷うので、僕のような深圳超初心者向けの簡単な「べき・べからず集」をそのうち書ければと思っている(その前にこの記事を乗り越えないと・・・)。

なお、僕は観察会の行きと帰りの飛行機で3回目の高須さん本を読了し、今藤岡さんの本の2回目を読み始めたところだ。
活字で得た内容を現地で体験し、そしてまた日本で活字で追体験できるってのも、この観察会ならではの楽しみ方だと思う。

では、そろそろ本題に。。。

2.感じたこと3つ(あくまで個人の感想です)

(1)エコシステムってこういうことか・・・

JENESIS藤岡さんの工場は「裏」観察会でも訪問させて頂いたが、今回はそれに加え、藤岡さんにアレンジ頂いた2工場訪問とパーツモール見学と流れが続き、僕はこの一連の体験にグッときてしまった。
ちなみに僕は高専卒で、電気工学科ではあったが旋盤やアルミ鋳造とかの実習もやったし、日本の町工場にも何度か行ってるので、工場自体が珍しかった訳ではない。

JENESIS(藤岡さん案内)

深圳市硕峰科技有限公司(藤岡さん同行)

深圳市欣全鑫五金制品有限公司(藤岡さん同行)

德普沙井电子城

JENESIS

JENESISは藤岡さんの本にあるように、深圳で手に入るパーツやケースをアレンジし、日本向けの組立て・品質管理に特化されている会社だ。
藤岡さん曰く、中国ではホワイトカラーとブルーカラーが明確に分かれていて、組立てを担当している女性たちはブルーカラー。
ブルーカラーの募集は工場ビルへの張り紙だそうだ。ブルーカラーの流動性はかなり高いようだ。
彼女たちは稼ぐために働いている。「ここでは残業を与えない会社がブラック企業なんですよ」という藤岡さんの説明が印象的。

深圳市硕峰科技有限公司と深圳市欣全鑫五金制品有限公司

藤岡さんの案内で行った金型工場・金属加工工場。
日本でもよくある町工場イメージで、騒音、火花、油や金属の焦げた匂いがリアルな「ものづくり」の現場を感じさせる。
日本の町工場と比べて個々の工場が良いとか悪いとかは僕にはわからない。
ただ、雑居ビルの1フロアでやっているこの形態の工場がそこらじゅうにあるこのエリアは、無言の凄みというか迫力があった。

德普沙井电子城

工場見学の後に行ったパーツモール(適当な造語)。パーツモールでは日本人団体が珍しいようで逆に人が集まって来て写真を撮られた。
工場で使う工作機械用のパーツ、ケーブル、計測器、モーター・・・

こ、こんな場所って日本にないよなぁ・・・

で、つながった。

サプライチェーンとかエコシステムって言葉は何度も聞いていて、深圳は車で1時間でなんでもそろうことがすごいってことは何度も読んで理解していたつもりだけど、工場の騒音と火花とパーツモールで遊んでいる子供を短時間で見たことで、頭の中でカチッと音がして「生態系」という単語が頭の上の方から胸のあたりにスーッと落ちてきた。
「ああ、そういうことなんだ」
まさに「腑に落ちる」というのを体感した瞬間だった。
活字にすると、高須さんや藤岡さんの本、観察会OBのBLOGで書かれている内容そのままなんだけど、自分の目で見て音で聞いて鼻で嗅いで、そうやって「腑に落ち」た。
ここは、いろんな生物が弱肉強食・進化淘汰を繰り返しながら共存共栄している「生態系」なんだ。

技術系での理論的な感動は今でも年に1–2度経験するけど、肌で感じる肉感的な感動は久しぶりだった。高須さん藤岡さんのコーディネートに心から感謝したい。

(2)HAX、欧米からみた深圳、ほぉ〜

HAX in Japan

最終日に行ったHAXはY Cominatorのようなハードウェア版アクセラレータらしい。
ちなみに、Y Combinatorは 2015 TechCrunch JapanにCOO Qasar Younisが来日して感動もんのスピーチを行ってくれたのが印象深い。

Y CombinatorパートナーがTechCrunch Tokyoに登壇、シリコンバレーの今を語る

HAXのプログラムは2つに分かれていて、Stage.1が深圳でのPrototype開発(4–8ケ月)、Stage.2がSan FranciscoでのSales開発(2–3ケ月)。製品開発を深圳で行うのは、深圳では1ケ月で1年分のハードウェアR&D(試行錯誤)が可能だからだそうだ。
写真禁止のワークショップエリアは、作業者が欧米人中心ということもあり、ここが中国だということを完全に忘れそうな空間だった。
彼ら欧米人はハードウェアR&Dサイトとして、ここ深圳のエコシステムを活用しているんだ。ほぉ〜。

Insta360, KANDAO, Dobot, M5Stackなど訪問したスタートアップはどれも面白かったけど、面白いスタートアップは日本にもだいぶ出てきてる。
ただ、日本にはHAXのような視点でここ深圳をシステマチックに活用する取組みはまだ無いんではないだろうか?
日本版HAX(製品開発は深圳で、セールス開発は日本で)ってどうなんだろう?と一瞬頭をよぎったが、わざわざセールス開発を今の日本でやる意味がなぁ・・・

(3)一帯一路の匂い

一帯一路の地図

山形浩生さんが高須さんの本の解説「3.中国の産業政策と深圳〜」に書かれていたように、ここまで自由で活発な深圳の現状は、中国政府の「相乗り感」をすごく感じる。スタートアップ企業たちの露出メディアが堂々とYouTube, Facebook, Instagramだなんて😆
中国政府が主導してこんな状況になった訳ではないが、予期せず発達した「生態系」の価値を政府はしっかり認めて支援しているようだ。
で、そのターゲットは一帯一路構想の西アジアやアフリカのような場所なんではないかと。
我々モンゴロイド系のアジア人や西欧系外国人以外の顔つきの外国人が、数人組で華強北エリアを真剣に物色してるのを見ると、今の深圳は僕たちが注目しているハードウェアスタートアップのメッカとは全然別の顔をもっているんじゃないか?ここのビジネスの中心はそちらにシフトしているんじゃないか?って感じる。

Huawei/ZTEなどが通信網を提供し、無数のMVNOが設立され、ここ深圳エコシステムでそこそこの品質のスマホやタブレットなどを安価に短納期でバンバン提供する。そのスマホにQR決済アプリなんかが入れば・・・この市場は無茶苦茶でかいぞぉ。

「おいそこの日本人、お前は何もしないのかい?」って言われているような気がした。

3.最後に

念願かなって参加できた観察会は、いろんな事を見て感じただけでなく、いろんな人に会えて話せたのも貴重な体験だった。
大企業に勤めている人、自分で会社をやっている人、大学生・・・いつも会ってるソフトウェア系の人たちとは違った感性を持った方も多く、単純に楽しかった。観察会は参加している人たちを観察するだけでも十分面白い😄

本当は最後に僕自身の中国への想いを書いて終わるつもりだったけど、ちょっと想いが「重い」ので別の記事に回すことにした。
そうすることで、このBLOGが続くかも知れないしね。

代わりに、僕の読んだ範囲で気にいっている中国関連の本(高須さん・藤岡さん本以外のもの)を少しだけ紹介して終わりにしたいと思う。
誰かの何かの参考になれば嬉しい。

China 2049 by マイケル・ピルズベリー

現代中国の父 鄧小平(上) by エズラ・F・ヴォーゲル

現代中国の父 鄧小平(下) by エズラ・F・ヴォーゲル

チャイナセブン by 遠藤 誉

上海 by 田島英一

再見!

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Kenzo Nagahisa(永久健三)

I’m interested in Cloud Computing and Edge Computing. Let’s change the world together !