ツァルフストラだっけ誰だっけでもそいつはそこに居た

あの夏はツァラトゥストラが居た。僕は九歳になったばかりで、夏休みを持て余していたんだ。

夏休みが始まる直前にとある事件を起こしてクラスから浮いてしまった「僕」。一人きりで過ごす息子を不憫に思った親が、息抜きにと祖父母の家での夏休みを提案する。遊びに出かけるでもなく、宿題も全て終えてしまっていた僕はその提案に乗り、祖父母の居るH県T市のK村で夏休みを過ごす事にする。

明るくなったら起きて、暗くなったら寝る。テレビはローカル番組ばかりで、コンビニは無い。祖父母の家の回りにあるのは、畑と用水路と廃校になったままの小学校。何をするでもなく過ごしていた僕は、退屈に耐えかねて、入ってはいけないといわれていた小学校に行き、ツァラトゥストラと出会う。

獣の耳をつけて、時計柄のお面をつけた不審人物ツァラトゥストラ。時にタキシード、時にタンクトップとハーフパンツ、会う度に体系も声も変わるが、毎回必ず僕に人生にとって大切な何かを教えてくれ、こちらの愚痴を聞いてくれた。

ツァラトゥストラはいつも図書室だった場所に居て、クーラーボックスにラムネを詰め込んで、毎回違う本を読みながら僕を待っていてくれた。暑いから、会うのはいつも30分程度だったけれど、僕は出会ってからは毎日ツァラトゥストラに会うために小学校へ通った。出会ってからの数週間、僕はそうやってツァラトゥストラと過ごした。

夏休みの終わりが近づき、家に帰る事になったことを告げると、ツァラトゥストラは僕にお面をくれた、獣耳と一緒に。そしていつも読んでいた本に、栞を刺したまま僕に手渡し、「このページに書いてあることが分かる日が来る。君にも。その日はきっと、いい日になる」

それが僕とツァラトゥストラの別れだった。

これが「ツァラトゥストラはかく語りき」の大筋だ。友達、学校、自分、いつも「そこ」にあったけれど改めて考えた事もないことを、ツァラトゥストラは僕に問いかける。それは君にとってどんなものだい。僕に語っておくれよと。

僕とツァラトゥストラ。主だった登場人物は二人しか居ないが、この物語が綴る世界はとても広い。図書館から一歩も出ずに世界を語る。その背伸びの青さと真摯さが心地よい。

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