インターネット企業の買収の特徴をまとめてみる

最近いまさら気づいたことの一つに、Internet領域の買収と、他の領域の買収の作法が、どうやらずいぶん違うようだ、ということがある。

買収の書籍をかれこれ数十冊は買ったけど、考え方が違くてあまり参考にならない。他の領域の買収を今までやったことがあっても、最初は違いに当惑すると思う。

他の領域の買収が簡単だと言う気はまったくないし思ってもないのだが、色々差し引いても特殊な気がするので、書いてみたい。

なお、日本ではM&A件数が多くなくExit市場も特殊なので、いちおうアメリカのInternet sectorの一般的な事情として書いてみたいと思う。

違いを一言でまとめてみると、ファイナンスの比重がかなり低く、プロダクト/戦略に近くなるといえるかもしれない。

以下、重要そうな特徴をざっと上げてみるとこうなる。

  1. 超ミッションドリブン
  2. 超プロダクトドリブン
  3. 払う価値のほとんどは、存在するかどうかわかっていない
  4. シナジーはない
  5. マルチプル比較はできない
  6. 買う人によって価格が10倍100倍違う不公平なゲーム
  7. 事業計画の緻密さよりProductのセンス
  8. なぜか関係ない他領域を知っていないといけない
  9. 競争環境にあまり国が関係ない
  10. ターンアラウンド案件はほぼない

上のリストを一個一個説明してみよう。


1. 超ミッションドリブン

Internet企業はほぼ100%スタートアップであり、ミッションドリブンな会社が当たり前なので、そのミッションや思想が違う人とは相容れない。買う方も世界を変えている最中だし、買われる方も世界を変えたいと思っているからだ。

もう少しちゃんと言えば、双方ともミッションにひもづいて解きたい問題がはっきりとあり、それぞれ問題解決のスタイルや、設計アプローチが明確に存在する。

これは、ゆずれないものである。

スタートアップにおける企業ミッションは、PRとかマネジメントの一部分とかではなくって、ほとんど存在理由に近いものであって、創業者の思想とパーソナリティが強く影響している。さらにいえば、ビジネスモデルですらミッションが反映されてしまうし、ミッションはプロダクトをみていただければわかります、みたいにプロダクトとイコールだったりする。

これはM&Aでよく言われる「企業文化が近いとかウマが合うのは大事」とかいうトーンとは違う。ミッションを否定するということは、プロダクトも経営陣もビジネスモデルも社風も、一気にまとめて否定するという話なのだ。

また、強いミッションがない会社というのは、Exit(=現金化)がただただ引退のトリガーになってしまいがちだと思う。インターネットの世界では、買収した会社の経営陣がその後やめてしまうのは、一般的に失敗に相当すると考えられていると思うので、強い思想がない会社は、データベースを買いたいとかじゃない限り、少し難しいのかもしれない。

これはファンドとかがM&A時に経営陣を洗い替える、みたいなのとはずいぶん違う話である。

また、買う方も強いミッションと情熱がないといけない。この人が描いている未来の世界は本当にすごい、一緒にやっていきたいとベンチャー側に思ってもらえなければならない。熱い想いなしでは、素晴らしいベンチャーは振り向いてくれない。

でもこれは交渉上の演技の話ではもちろんなくて、双方がいつも考えぬいていることを、その場で表現しているだけである。だから、買収側こそ強いミッションと情熱がなければならない。大企業病の会社がスタートアップを買っても絶対うまくいかない。

2. 超プロダクトドリブン

ほとんどの買収が『シャットダウンしてプロダクト統合するか』『プロダクトを残して独立運営する』のどちらかである。他業界のM&Aのように、もともとのビジネスモデル・プロダクトを残したままで、経営にも介入するのは、あまりうまくいく感じがしない。成功例もなくはないけどそんなに多くない感じがする。

不当に現場介入された会社のたいていは「あそこは◎◎に買われて何もできなくなって人が抜けていっている」と業界で噂されることになり、実際に成長鈍化が数字に現れる。

シャットダウンして統合する場合は、買う側のプロダクトの強化とかのためにジョインしてもらうのであって、双方のプロダクトにとってハッピーだと思われている必要がある。

独立したプロダクトとして存続する場合、いい感じのシナジーが創出されるなんてことは現実的にはほぼないので、殆どの場合が独立運営され、極めて純投資に近い格好になる。イメージとしては『こういう世界を一緒に築いていきたい!でもそれはシナジーとかじゃなくってさ!』みたいな感じになる。

なんでシナジーがないかというと、乱暴に言えば、Internetの世界ではWinner-takes-allで、勝者が周辺を焼き尽くしてしまうので、シナジーを生むような近場の会社が残っていないのだ。

なお、どちらのパターンであっても、買収担当は極めて事業とプロダクトに見識がないとできない。

統合の場合は、めちゃくちゃ現場改善の話なので、ほとんどProduct Managerみたいな素養が必要になる。Product manager + 経営者の思考をエミュレートしなきゃいけない。外部からはかなり買収意図がわかりにくい。

純投資の場合は、どう考えても大きくなるのに見出されてない。明らかに評価額が低い。という感じになる。その目利きの仕方は、プロダクトのセンス、ビジネスモデルのセンス、以外に言いようがない。もちろん極めて経営者の良し悪しが重要になるから、エグゼクティブ人事のセンスもなきゃだめだ。

ちなみに、プロダクトとビジネスのセンスを両方持っている人はすごく少ない。資質と訓練の両方がものを言う。

3. 払う価値のほとんどは、存在するかどうかわかっていない

市場規模と、払い込む買収価額の話。

ビールの市場規模が3年で10倍になることはありえない。でもインターネットでは市場規模が10倍, 50倍になることは普通にある。

Total Adressable Market(TAM)といわれるけど、TAMの変遷グラフというのがそもそも存在していることに最初は驚く。企業評価は市場規模を反映することが多いので、掛け算で評価額が変わる、といっても過言ではない。

ほとんどのインターネット企業の場合、企業の成長とともに、市場自体が並行してできあがっていく。母数が並行して成長していくということ。

だからできあがった市場に新商品を投入する、という概念とは完全に違う。勝負がついたあとに市場ができあがるのだ。できあがった市場で勝負がつくわけじゃない。だからシェアとかいう概念なんかない。

だから、こういう業界で買収を行うときは、市場の予測とビジネスモデルの正しさ両方にdouble-down(倍賭け)するかっこうになる。

買収というのは仕組み上、将来の計画を書いてみて、その計画が達成できると信じて、それ計画相当の企業価値を、全額前払いするシステムになっている。そして実現できなければ減損することになっている。

だから、こういう市場の会社を買収するのは計算上、企業価値のほとんどを「多分存在するはずの市場」で「たぶん覇権を握るはず」の計画を当てにした数字になるので、2重の不確実性を飲み込む作業になる。

だから、将来の市場を妄想する力がものすごく大事になる。

よその未来を予想するには何が必要か?

それは自分自身が何を作りたいか死ぬ気で考えることだったりする。禅問答みたいだが、それが一番近かったりする。

4. シナジーはない

けっこう衝撃的な話かもしれないが、シナジーとか存在しない、と思っていたほうがよい。つまり、2つの事業が組み合わせったらもっと強くなりますみたいなケースは、ほんとうに少ない。

もちろん財務は作るのでこういう理論には当てはめるけど、とてもシナジーを計算するという感覚とはかけ離れている。プロダクト開発の手段としての買収か、純投資(新”市場開発”)だったりするので、シナジーという言葉自体すごくセンスが悪い。

表現をするなら『買収したことによって、もっと素晴らしいProductが開発でき、それがさらに市場を切り開くので、結果的に価値増えます』てきな感覚がより実際に近いと思う。

5. マルチプル比較はできない

普通マルチプルといったら、企業価値/EBITDAのマルチプルを指すが、そもそも赤字の会社しかない上、成長中の会社にEBITDAを見るなんて不可解なので、意味がない。

Profitableって聞くと逆に疑問が増える。広宣費販促費をいじっただけで成長を犠牲にして黒字にできちゃったりするからだ。世の中の会社には「良い赤字と悪い赤字がある」そうだが、インターネットの企業は「良い黒字と悪い黒字がある」と言ったほうが正しい

またマルチプルは売上等で取られることもあるけど、各社あまりにもビジネスモデルが違っていて、説得力に欠ける。近い企業をまともに絞ろうとすると公開企業で1,2社くらいしかないので、意味がない。うまく比較できているのは唯一SaaS系やSubscription系くらいじゃないだろうか。

KPI等ですら、そこまで共通のものが多くないので、結果的にフルスクラッチで企業を見に行く必要がある。だからハンドメイドでKPIや財務を作れる必要があり、結果的にプロダクトの知識や技術的な知識がめぐりめぐって必要になってしまう。

必ずしも深い知識が必要になるわけではないが、実務は理解している必要がある。表層的な「基本知識」では計画がかけない。ほとんどの場合、少人数のチームで案件が進めることが一般的なので、実務の論点は代替できていなければいけない。

6. 買う人によって価格が10倍100倍違う不公平なゲーム

そもそも買収というのは誰が買うかによって価値が変わるものなのだが、Internetでは異次元な価格差が生まれる。

Googleが人工知能スタートアップのDeepMindを最終的に$500M?で買収したとのことだが、Googleにとっての内部計算はそんなものではないと思う。仮に$1Bと言われても別に納得はできる範囲である。(※獲得した技術がそれだけスゴいのだ、とかいう意味ではなくて)

なのに、例えばOpentableだったら$20Mかもしれない。それくらいにむちゃくちゃな価格差がある。こういった類の買収は、ほとんど誰が買うかが価値を決めていて、ものすごくいびつな世界になっている。

7. 事業計画の緻密さよりProductのセンス

上記で説明してきたとおり、細かい事業計画の作り込みの優先度があまり高くない。それより次に覇権を握るクールなやつ教えてよ。そっちのが大事だからさ、ってなる。

Androidはたった$50Mで買収された(今はいくらだろうか) 。Booking.comもたった$135Mだ(今は$50Bくらいにはなってるだろう)。こんな無茶苦茶な世界では、エクセルの鬼が3%のコストシナジーを見つけ出すよりも、圧倒的にProductセンスがいい人のほうが機能する。

8. なぜか関係ない他領域を知っていないといけない

インターネットは、各領域のビジネスが成長するのと同時に、ベストプラクティス、ライブラリ、開発環境、基礎技術、基礎理論まで全部同時に成長している。そして、領域をまたいで相互作用がめちゃくちゃある。隣の領域に引っ張られて競争環境も変わる。他の分野は教養として知っておかないと長期の見通しが正しくできない。良いプラクティスは一瞬で他の分野に応用される。その業界しか見えてないようでは遅れを取っているに等しい。ゴテゴテに回る。

あと、何か(Deep LearningとかVRとか)が突然やってきた、と感じたならたぶん勉強不足のサインである。絶対5年前には徴候がある。論文とか。全ては自分が知らないせいなのだ。

他業界の事例が参考になる、という単なるケーススタディではなく、インターネット全領域を一つの繋がった領域と認識して取り組む必要がある

9. 競争環境にあまり国が関係ない

当たり前だけど、国が関係ない。

難しい点は、ワンプラットフォームで全世界制覇するサービスはすごくすごく少ないのに、新しいビジネスモデルというのは、一瞬の間に世界中に広がるのだ。世界中が互いに学習しあっていて、盗めるなら一瞬で盗む、という感じである。みんなナチュラルに他国を見ている。UberとかWeChatとかがいい例。

10. ターンアラウンド案件はほぼない

どうしてもこの世界は、1位になって覇権を握るか死ぬかのWinner takes allの世界になりがちなので、下降する会社は非常に買収されにくい。これは他の領域とは少し違うところである。

『選択と集中→Operation改善→利益創出!!』みたいな正統派のターンアラウンドが行われる、といった状況はほとんど観測されない。第一これを手間暇かけてやってもたかだかリターン2倍である。SoftbankのAlibaba投資は$20Mが$50Bである。シンプルに、投資家にとっては未来に投資する方の誘惑が大きすぎる。

だから負けていく会社はただ人が抜けていき、為す術もなくdeadpoolに行くか、profitableであればliving deadになる世界をみることになる事が多い。著名な会社が清算したり少額で買収されると、本当に一時代が終わった感じがして、業界みんながショックを受け、様々な思いに浸る。

負けていくだいたいの理由は『Productやビジネスモデルが時代に合わなくなった』、『ユーザーに受け入れられなくなった』のようである。

Operation等で何とかなる問題でないことは誰もがわかっており、再生請負人とかもでてきにくい。窮地に立った企業に助っ人として入るCEOもいるが、その人がやるべきことは、新しくイケてるProductを作り、優秀な人材を惹きつけることだったりする。

だが、負けている局面でこれをやるのは相当厳しい。選択と集中をするどころか、逆に広げてNext big thingを掴み取らなきゃいけないのだ。どんどん人が抜けていくので時間も少ない。マリッサ・メイヤーのYahoo CEO就任は勇気ある就任といわれたが、そういうことだと思う。たくさん買収をして外部から新しい血を入れようとしたけど、うまくいかなかった。批判はされているが、それ以外に手はなかったんじゃないだろうかと思う。

おわり。