ボトムアップ組織のマネジメントとは何なのか

いま所属している会社は、ボトムアップな会社ということになっている。正確にはボトムアップとトップダウンが混在していてたまにミスリーディングなのだが、だいたいはボトムアップな会社といえるだろう。

それで、たまに、学生と会ってくれといわれて、うちの会社がボトムアップの会社なんですよ〜、と話すことがある。だがこのボトムアップというやつ、採用活動では『いかに若いうちから活躍できるか』をぐいぐいアピールするための文句ではあるのだが、実際、現場でどういうコミュニケーションになっているのか、あまり説明されない。どういう会社が「良い」ボトムアップの会社なのか、わりとみんな意識していない。

とりあえず適当に若いのに丸投げてみたら、いつの間にかイケてる提案を持ってきた、なんてことは、ありえない。それを実現するためには、上司側の見えない努力がたくさん必要なのだ。

こんなマニアックな話をしている人は多くないと思うので、そういったボトムアップのマネジメントで必要なことは何なのか、書き下してみた。

1. 目的を落とす・目的を引き出す

当たり前だが、ボトムアップのマネジメントだからといって、上司から何も指示がないわけではまったくない。ただ、ボトムアップで上司が部下に与えるのは「作業」や「指示」ではなく、「ミッション」や「役割」である。

どういうことかというと、『君にこの企画をやってほしい』とは言ってはいけない。言うなら『会員申込が思うように伸びてないから、考えてほしい』的なコミュニケーションになる。そろそろ立ち上がりそうな企画にアサインする人がいるなら、早めに議論に巻き込む必要がある。どうしてもやるもの自体が先に決まって降りてきてしまっている場合には、部下の説得が必要になる。なぜこの企画をやることになったのか、なぜやる意義があるのか、どういうトーンなのか、君に期待することは何か。懇切丁寧な説明が必要になる。

与えられた「ミッション」にたいして、どういうソリューションを出すかは、部下次第なのだから、少なくともその問題・お題には共感してもらわなければならない。なぜやる意義がないと思っているのにやらなければならないのか。ボトムアップとは、(お題, アウトプット)のペアに責任を持つのが部下だ、と言っているので、お題が正しく理解できなければ、よいアウトプットは出せない。トップダウンでは、お題を理解している上司が作業・仕事をふるので、特に問題はない。

だから、思ってもないのに強制的にやらされるのは、ルール違反である。ボトムアップのマネジメントでは、『明確なミッションに対して、部下に意志を持って何かを出してもらう』しか、部下に仕事をお願いする方法がない。意外かもしれないが、背景共有もない丸投げはボトムアップでもないし、ワークもしないのだ。

だから、『とりあえずこの分野で何できるかちょっと洗ってみて。君のセンスでいいから』というのは、完全に間違ったボトムアップということだ。その分野に意志もないし、背景もわからないから、自分の思いついたもん以外は出せない。権限委譲した風で、何もふっていない、出てくるアウトプットも文脈を踏まえていないから、刺さらない。センス悪いなあ、こいつもまだまだだなぁ、みたいな感じになる。

なお、上司すら内容がわかってないものを振らなければならないときもある。上のような発言は、だいたいそういった文脈で出てくる。その場合は、『うちの会社の将来の中核事業を、中長期で作っていきたい、というお題が上からふって来ていて、この分野が例であがってるんだが、お前ならどうするか考えてみてくれないか。来月の役員会に出す』とちゃんと背景をいえばいい。これだけでアウトプットが130度くらい変わる。恐ろしい話である。

さらに、できるならもっとアウトプットがイメージできるように話した方がいい。『5年10年でみたときには、今の広告商品だと成長に限界がある、なんとか今のユーザーエンゲージメントの強みを活かしてなんかできないか』といえば、目指す規模も、ターゲット層も、既存事業との関係も、財務の潜り方も見える。すくなくとも、ここまで言うだけでも、でかい市場規模だからといって、すーぱード新規事業を提案してくることはないだろう。

(ちなみにこれは、自分が門外漢の専門部署とやり取りする場合でも役に立つ。とにかく背景と文脈を共有しまくると、大体の場合、論点とゴールを勝手に洗い出してくれる。専門部署との仕事が苦手な人は、アウトプットだけ要求する傾向が強い。法務に「契約書チェックしてください」ってだけ言っちゃうみたいな。)

背景を共有し尽くしたうえで、部下がヘンな提案を持ってくるのであれば、ロジカルに詰めて前に進むことができる。ただ、背景がきちんと共有されてないと、フィードバックができない。もはや違う問題を解いているからだ。

結局のところ、ボトムアップのマネジメントとは、ずーっと、上司と部下の認識合わせとミッション共有なのだ。

2. 交通整理

そして交通整理。これも極めて重要である。他のメンバーのミッションはこれで、君はこれ、範囲はそれぞれこう、という陣地を明確にする。何を部下がやり、上司は何をやらないのかが明確になっている。上下左右の持ち場所が明確になっている。

トップダウンでは、常にアタマ(=プロジェクトマネジメント)が上司側にあり、作業や指示ベースでやることがおりてくるので、部下は横メンバーをみる必要があまりなく、チーム作業も意外とシームレスにいくのだが、ボトムアップでは、自分でミッションを持ち、自分のプロジェクト管理するので、自分自身のタイムラインと工数優先度を持ってしまっている。

そして、それが故に他メンバーとの調整ごとが自然と増える。なのに、残念ながら横の人に指示できる権限を持っているわけではないので、全て上司を通して、交通整理が必要になる。これはトップダウンではあまり起こらないことだったりする。

この交通整理をすっ飛ばして、「君たちに任せるからなんかやってみて」というのは、まあ最悪の振り方の一つである。大体、誰かしらが、OBゾーンを認識せずに勝手に突っ走ってしまって、チーム内の雰囲気がけっこう悪くなるし、逆に、お見合いも頻発する。

また、部下が自分の時間を管理しているので、上司が追加で何か重いものをお願いしようと思ったら、部下なのに調整が必要になる。優先度を明らかにして、ミッションの組み換えをする。この作法を無視すると、部下が自分で時間を管理していることにならず、その後、自然と部下が上司に工数相談するようになってしまって、いつのまにかボトムアップにならなくなる。アタマはあっち(=上司)なのだと認識して、作業まで待つようになってしまう(=トップダウン)。

なお、チーム内でショバが整理しきれておらず、部下がせっかくミッションを持ってやろうと思ったのに、他の人にも似たようなミッションを与えてしまっていたら、完全にバチバチになる。チーム内のコミュニケーションが非常に緊張した感じになるし、双方とも解決する手段を持ってないので、上司が気づくまで緊張関係が続く(ミッションふるのは上司だから)

この辺の交通整理をサボってしまう上司は、ボトムアップなスタイルは向いていない。ただの無政府状態になっちゃうだけで、いいアウトプットは望めないだろう。正しいボトムアップは牧場経営に近い。プロアクティブな牧場管理が必要になる。ほっとけば勝手に秩序ができるサル山ではないのだ。

交通整理は、ボトムアップにおいて、上司のメインの業務の一つと言って間違いない。これももちろん、トップダウンでは起きない問題だ。トップダウンではチームに作業の分担だけすればだいたいの事が済む。部下とのコミュニケーションは、作業の品質が主である。

3. 権限の委譲

当然ながら、ボトムアップなら、権限移譲がセットである。一番大事なのは、プロジェクトマネジメントする権限を与えること、つまりタイムラインを設計する権利を与えること。アタマは部下側にある。それにともなって、必要な予算設計・チーム編成・他部署の調整などを、部下側で仮組みして自主的に上司に『要求』をしてもらうような感じである。(機能にもよって必要なことは違うが)

タイムラインを奪ってしまう上司は、ボトムアップではない。あくまでタイムラインの設計は、部下の仕事であって、上司はレビューする方の立場である。アサインされた人の実力がなくてボコボコにされてしまい、ほぼ上司が設計しているような状態になったとしても、こういった形式だけは死守しなければならない。

他に、必要が他部署とのコミュニケーションの整理(こいつが担当なんでよろしくね的整理)だったり、具体的に必要な会議にでる権限を与える必要がある。情報は階層によって制限されていることが多いので、必要な情報を、正しく与える。文脈を踏まえるために多めに与える人もいる。また、年次や能力で出る会議を制限してはいけない。立場として必要な会議参加を与えること。プロジェクト内のコミュニケーションの設計はプロジェクトマネージャー(部下)の仕事だが、外部とのコミュニケーションの整備は上司の仕事だ。

権限委譲は、実際に中身が伴っている必要がある。レビュー以外はしてはいけない。権限の委譲は、体感的には、部下に責任感も与えるので、勝手にやっていいとしたものについては、勝手にやらせたほうがいい。おかしなところがあったときは、半期のレビューで、アウトプットの品質・プロセスの品質として叩いたほうがいい。その時点で介入してしまうと、委譲したことにはならない。

4. コミュニケーション

上記のルールに、一貫性をもたせるのがコミュニケーションである。上司は上司なので、気になることがあっても黙っておかなければならない。あくまでレビュアーである。プロジェクト進行運営は部下だから、そのプロセスに致命的なところがなければ文句はつけない。失敗させるときはさせる。

非常に難しいことだが、少しでもコミュニケーションのルールを破ると、トップダウンと認識してしまって、作業を求められているのか、マネジメントを求めらているのか、わからなくなってしまう。役割の曖昧さがアウトプットの弱さにつながってしまい、よい成果が得られなくなる。

実際には、部下は上司より仕事ができないことがもちろん多いので、我慢強くなる必要があるのだが、こういった我慢の上手い人は実際いる。

ボトムアップでは、上司と部下は「ミッション」と「ミッションのマネジメント」で契約しているようなものだ。トップダウンでは「依頼」と「納品」で契約している。

5. 例外処理

自由に設計をさせると、良くないこともたくさん起きてくる。サボっちゃうとか、コストを多めに使い込んじゃうとか、勘違いしちゃうとか、会社に来ないとか、色々ある。そういうものについても、明らかにまずいものについては、予め予期して柵を作って置く必要があるかもしれないけど、そこまで問題にならないものは見て見ぬふりをするくらいでいいのかもしれない。ほとんどが個人の問題でなく、プロジェクト進行の問題(プロジェクトマネージャーとしての問題)として落とせるので、その文脈で話し合うほうがよい方向に行く感じがする。たいして問題にならないものについては、あまり事細かに突っ込むのはあまり得策じゃない。

前提として、良くないことをたっくさんやっちゃう人は、アウトプットもよくない。逆にアウトプットが劇的によいなら、特に些細なことには突っ込む必要もない。いずれにしても、しつけのような事を言ったって、特に何も改善しない。

余談: ボトムアップの効能

余談だが、ボトムアップのマネジメントをして何かいいことはあるのか?効能として、よく言われているとおり、早く経験するので早く成長するってことだ。特にマネジメント業務については。採用の謳い文句のとおりである。

ただ、早く成長ってどういうことなのか。マネージャーという、メンバーでない仕事の仕方ができるようになるとか、仕事自体の回し方がそつなくなるとか色々あるけど、個人的には、意思決定の訓練、というのが欠かせない点の一つだと思う。

トップダウンの組織では、部下に『考えさせる』ことが非常に難しい。

べつに部下が機械のようだといっているわけではない。こういった会社でも、実際には、社員は自律的に仕事をしている。様々な事例を引っ張り出し、良いプラン・悪いプランを評価し、コレが良いと思う、という意見も自分で持っている。

しかしながら、これでは足りない。それは、責任をもっていないからだ。責任を持っていないということは、自分が決めたら決まってしまうという感覚がないということだが、自分が最後のボタンを押すとなると、検討する内容や、気になるポイントが全然変わってきてしまう。結論も180度変わる可能性もある。

よくあるのは、「これを作ると20億円の売りが見込めます」という新規事業について、発表者はなぜやるべきかしか言わないのだが、5億円の開発決裁権を持っている人なら、自分がOKしてしまえば本当にやらなきゃいけなくなるので、否が応でも「実現できなくなっちゃう想定外のリスクは何なのか」「その中で致命的なものは何か」とか考える。明らかにリスクがあるものは飲み込まないし、やってみないとわからないことは、やる意志と勇気を持つ。

慎重になってリスク取らないといっているわけではない。無数にあるリスクの中から、やばいものは避け、取らなければいけないリスクを明らかにする、ということ。

こういうリスクのバランス感を持ちながら、意思決定をするというのは、どうしても自分で責任を持ってやってみないとイメージがわかないのだ。実際に責任をもってやってみても、最初のうちは過度に慎重になってしまったり、近視眼的にデキると思い込んでみたりして、難しい。いい塩梅になるためには、責任のある立場で意思決定を繰り返して、重要なポイントを認識・把握していくしかないのだ。

こうしたことを経験していくと、チームによって責任をもっていないときでも、持っているときと同じ視点のワークプランが書け、似たような提案を出せるようになる。これが提案の質・意思決定の質につながる。

こういった場を作っていくのがトップダウンの組織では難しい。

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