『STAR WARS』として見る『この世界の片隅に』

宇宙を駆け巡るスペースオペラと、戦前戦後の広島の片隅に通じていたのは、エンターテインメントの定番「三幕物」という黄金比。すず=ルーク?まさか!

kotobato
4 min readFeb 17, 2017

マイもやもや映画『この世界の片隅に』は、まだいろいろと気になることがある。そのひとつがシナリオ。気がついてしまったので、これも吐き出しておく。

実は、このシナリオは、エンターテインメントの定番である「三幕物」と呼ばれる黄金のストーリー展開なのだ。最初に映画を見たときには自分でも意識していなかったが、あまりにもキレイな構成になっていることに、後になって気付いた。黒澤からG.ルーカスを経て現代まで脈々と受け継がれている、ハリウッド映画やヒーロー物のストーリーテリングとして知られる構成だ。

『隠し砦の三悪人』から脈々と受け継がれるゴールデンルール

そこで思い出したのが、脚本分析家の田中靖彦さんの本と、ハリウッド流シナリオ執筆のトーク。人気ラジオ番組『SUNTORY SATURDAY WAITING BAR AVANTI』の6年前の放送vol.257で、『STAR WARS』を例にして実に分かりやすく語られている。TOKYO FMさん、Podcast番組を今でも残して公開していただいて、本当にありがとうございます!

その、三幕物のゴールデンルールとは、『日常生活を過ごしていた主人公が、あるきっかけから非日常へ放り込まれ、葛藤を乗り越えた末に新たな力を得て、また日常へと戻っていく』という構成。まさに、この通りじゃないか!ある議題(プレミス premise)に沿って、主人公や周囲のキャラクターたちが、台詞という形で討論(ディベート)を繰り返し、それぞれが立場の違いを主張しながら話が進んでいく。
以下、ネタバレしないように、自分なりに振り返ってみた。

まず第一幕 アクト1は、日常。
『子供のころから、うちはぼーっとした子じゃったけぇ』という、主人公(プロタゴニスト Protagonist)である少女すずの日常と成長が描かれる。子供の頃の不思議な体験と、淡い恋。この伏線は、後できっちり回収される。
次の第二幕との境であるプロットポイント1は、周作の求婚か。『はよ家に帰り!あんたぁ嫁に欲しいん人が来とりんさる!』でストーリーが進む。ルーク・スカイウォーカーと同じように、主人公は旅に出ることになる。

第二幕 アクト2は、葛藤の非日常。
嫁ぎ先で新しい生活が始まり、いろいろな失敗を繰り返して過ごしていく。同時に、戦況が徐々に悪化し、生活が大変に。葛藤の非日常だった日々が、どんどん日常になっていく辛さが描かれる。『あん頃は、大変じゃぁ思ぅとったのが懐かしいねぇ』。まさにお母さんの台詞。
プロットポイント2は、晴美さんと一緒にXXXする場面だとはっきりわかる。主人公に大きな転換点が訪れるのは、つまりオビワン・ケノービの喪失。

そして第三幕 アクト3が、新しい日常。
それまで、ぼーっとほんわかしていて周囲に流されるままだったすずが、新しい自我に目覚める(そうならざるを得ず)。初めて感情を爆発させる。
何もかも失った戦後の焼け野原の中で、それでも残った希望を胸に、また新しい日常生活を過ごしていく。まさに『STAR WARS』エピソード4の副題『新たなる希望』!

映画の脚本は、片渕須直監督自身が手がけているので、この辺りは意識したのかもしれない。元々、こうの史代さんの原作が、そうしやすい作りだったのかも。1:2:1といわれるそれぞれのアクトの比率なども、いずれ機会があれば映画の時間やマンガのページ数で確かめてみたい。

こうして振り返ると改めて、ドキュメンタリーとしての視点ながら、ヒロインの成長と自立の物語として、個人的には今さらとてもしっくり来た。だからこそ、 そのあまりにも定番のはまり具合に、最初、違和感のようなものを覚えたんだろうか。皆さんの見方はどうだろう?ご指摘やツッコミ、反論どうぞお気軽に。

--

--

kotobato

書く描くしかじか…コピー/プランニング/デザイン/インストラクションなどやっております。誰かの素晴らしい考えや大切な思いを形にするってことは広い意味での『翻訳』かもと思う日々。信条は”cool head with warm heart, network+footwork”。