トランプ時代に見直すべき映画『The Dead Zone デッドゾーン』

アメリカ大統領選挙が終わってそろそろ3ヵ月が経とうとしているのに、未だに現実味を持って感じられない。恐ろしい現実が受け入れられない小市民は、自分が過去に体験した似た光景を思い出すことで、咀嚼しようとしてみる。それが架空の話であっても。

kotobato
Jan 25, 2017

トランプが大統領執務室に座る写真を見ても、『Photoshop仕事が丁寧』で片付けられるものなら、どこかでそうしたがっている自分がいる。データや理論を無視して、感情を焚きつけるだけの人物が、世界最強(凶・狂)の権力を握るなど、小説や映画のヒール役設定として雑過ぎる。あり得ない。とはいえ、トランプではなくヒラリーがまだましだったと強弁する気にもなれない。結局、Changeなどしなかった絶望を、今度こそChangeしてくれる希望に賭けるという点で、8年前にオバマを支持していた層と、今回トランプに投票した層が実は重なっていた、という答え合わせの指摘も今なら納得できる。

彼は世界を破滅へと導くボタンを押すのだった

トランプが勢いを増しつつあった2016年の初夏頃から、どうしても思い出さずにいられない映画があった。それが「The Dead Zone(デッド・ゾーン)」*。原作はスリラーの巨匠スティーヴン・キング、監督は人間と暴力を描く奇才デイヴィッド・クローネンバーグという贅沢すぎるコンビ。この作品はサイキックスリラーであると同時に、ラヴストーリーだ。映画は、原作に完全に忠実というわけではなく、適度にアレンジされているところもある。
* 後に作られた同名の連続テレビドラマは別物

主人公は、若きクリストファー・ウォーケン演じる高校教師。はにかむような儚い笑顔が、実に切ない。彼は、不慮の事故で特殊な能力を手にする。そして彼と対峙することになるのが、マーティン・シーン演じる共和党のアメリカ大統領候補グレッグ・スティルスン議員だ。そして、このスティルスン議員が見せる人なつっこさや狡猾さ、激高する態度、そして世界の破滅へと突き進む姿が、どうしてもトランプに重なって仕方ないのだ。

この映画が公開されたのは1983年で、俳優崩れのレーガンがまさかの大統領になり、レーガノミクスでパックスアメリカーナをぶち上げていた時代。確かに、今が30年前頃に似ている雰囲気もちらほら感じる。手の平の小さな箱で、嘘の垂れ流しや罵り合う未来など、想像もしなかったけれど。

トランプの姿を、映画「The Dark Knight Rises(ダークナイト ライジング)」のバットマンの敵役ベインに重ねる人もいるが、誰しも考えることは似たようなものなのだろう、ヒール役をトランプに置き換えたビデオや写真は多数アップロードされている。

クローネンバーグは最初から「現実」を撮っていた

今回、このテキストを書くにあたって、『The Dead Zone』公開当時のトレーラーをYouTubeで探していたところ、偶然、クローネンバーグ監督を始めとする関係者のインタビューを見つけた。しかも、なぜか日本語字幕付き。この中で監督は、実に印象的なことを語っている。

多くの人が身近に感じ、現実だと考えている世界こそが実は幻想なのだ。映画を作るということは、世界をそのまま再構築すること。映画は、その作品世界の中で、人物をリアルに描く。観客が超能力を信じなくても、そんなことは関係ない。作品の中で起こったことは、全部が現実なのだ。

クローネンバーグ監督が、今もこう考えているかどうかは分からない。しかし、現実が映画や小説をある意味超えたことで、急に活き活きと感じられるようになったのではなく、元々「現実として」作られていた作品に、「もう一つの現実」が追いついて来たのだと考えると、相変わらず暗い気分のままであっても、妙に納得した自分がいる。どちらも、リアルなのだ。

2016年から地続きの現実の方も、急に希望溢れるシナリオになるとも思えない。ここはサブキャラクターとしてペンス副大統領あたりにさらに重要な役を演じてもらうか、まだ見ぬ別のキャラクターが登場するのか、誰かが入れ替わっていくのかもしれない。

とにかく、どんなに酷いストーリーだろうと、エンドロールが終わるまでは席を立つことなく、きちっと見届けていたい。折角、チケット代を払っているのだから。

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Written by kotobato

書く描くしかじか…コピー/プランニング/デザイン/インストラクションなどやっております。誰かの素晴らしい考えや大切な思いを形にするってことは広い意味での『翻訳』かもと思う日々。信条は”cool head with warm heart, network+footwork”。

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