「宅配クライシス」に思うこと

たまたま玄関前で遭遇したクロネコさん

Diamond Onlineさんの「宅配クライシス」シリーズの記事を読んで少し思ったことがあったので久し振りに書き物をしてみます。なお、最初のお断りしておくと著者の方を批判したりするつもりはないし、むしろ普段漫然と考えていたことを整理できたのでとても良かった。

興味の有る方は元記事を読んでいただきたいのですが、私の解釈でコラムの著者の主張をまとめてみるとこうなります。

  • EC(ネットショッピング)が広まったことで宅配便の性格が変わった。昔は価値のある物を運んでいたのに今は価値が薄いものも運んでいる。
  • それ自体は悪くないが、受取方法がこれまで通りコストが高い方法なのが問題。そのため配送側も受け取り側も時間や労力を無駄にしていて、これが宅配クライシスの元凶。
  • 解決するには、航空会社がLCCで低コストオペレーションの選択肢を示したように宅配のLCC版を作るべき。つまりコストが安い分、サービスが低下しているオプションで、例えば受取人は自宅ではない場所に設定されている「宅配ボックス」に取りに行くようになる。そしてそういった宅配ボックスネットワークを作った企業が覇権を握る。

主張は一貫性があるし、受け渡しの「同時性」(サービス提供者と受け取り側が同じ場所・時間にいなければならない)点を指摘しそれを解消すべきという点も良い所を付いていると思います。

一方で、ゲームのルールをちょっと誤解されているのかなと思うところがあります。まず初めに宅配の「コスト負担」に関して。ECの宅配便は基本的に受け取り側はコスト負担していません。それはAmazonならばプライム会員の年会費に入っていたり、幾ら以上買った人は無料という形で必要以上のものを買わされているという点はあるにしても、ユーザの意識としては「送料はタダ」が定着してしまってる。

そのような中で「宅配のLCCを」と言ってもユーザには響かないんじゃないかなと思う。つまり、配送は元々タダなわけでコストが下がって喜ぶのはEC業者。送り主のコストを下げるためにユーザがセルフサービスで取りに行くというのは成り立たないでしょう。利益を享受する人とそのために労力を費やす人が異なっている。

ここが航空会社のLCCと根本的に違う所。航空会社の場合は元々自分で費用を払っているので「サービスの質を下げる代りに費用を安くします」というのが選択肢になる。元々機内食を食べないとかネットでチェックインする人にとってはこれまでのサービスは過剰なサービスでしかなく、それをカットする代わりにコストもカットしてくれるのは魅力的に映る。ところがECの宅配の場合はどこを使おうが自分には関係なく、「タダで家まで持ってきてくれる」ことを諦める理由がない。

しかもECの場合、ユーザは通常配送業者を指定しないしできない。人によっては意識もしていない。最近、Amazon の「デリバリープロバイダ」の遅配が問題になっているけど、送る側も配送業者の名前をユーザから見えないようにしている。だから、ある配送業者が「取りに来て貰う代りに安くします」と言ったところでそれはユーザにはアピールしない。だって選べないんだもん。

ではどうすればよいか。増え続ける荷物を捌くためには、まずは再配達を何とかしなきゃならない。そのためには、

  1. 再配達を何度してもへこたれないシステムを作る
  2. 再配達を止める

のどちらかしかないのかなと思います。で、実際Amazonとかは1)を目指して配送用のドローンとかロボットとかを真剣に検討している。それらはきっと来るでしょう。今はあまり想像できないけど、10年後、20年後には街の中で働くロボットが当たり前になるんだろうなと思っている。

一方でそういう技術が来るまでにはまだ時間がかかりそう。だったら 2)の再配達を止めることを考えてみる。実際そのために宅配ボックスという選択肢が出てくるんだけど、個人的にはあまり機能しないかなと思っている。使おうが使うまいがそれ専用の場所を専有し、設置にコストも掛かる。集合住宅などで最初からそれを考慮して設計されていれば良いけど、場所効率は悪い気がする。しかも運用上のトラブルも多く、例えば暗証番号方式だと、不在票の番号を盗まれる、番号が記載されていない、間違っているなどなど。

で代わりに提案したいのが以下の3つ。

  1. ただ置いていく
  2. 置いていく。そしてセキュリティカメラで監視。
  3. スマートロックで玄関を開けられるようにして家の中に入れてもらう。

一つ目の「ただ置いていく」というのは文字通り玄関の前に置いていく。受取主は帰宅すると箱がぽつんと置いてあるからそれを持って家に入る。それだけ。無くなったらどうするか?再度送ってもらえば良い。コストはEC業者が持つ。つまりこういうことだ。宅配のLCCは荷物はきちんと運ぶ。ただし受取主が留守でも持ち帰らずに玄関に置いていく。あるいは在宅していたとしてもただ置いていくかもしれない。ピンポンくらいはしてお知らせするかも知れないが、サイン貰ったりはしない。配送業者が責任をもつのはその住所に運ぶまでで受取までは保証しない。これで配送の手間は相当減らせるしコストも下げられるはず。

元の記事の最初に出てくる「宅配は価値の薄いものも運ぶようになった、なのに運び方は変えていない」だがまさにその通りだと思う。昔は自分の持ち物を一つの場所から別の場所に移動させるのに使っていた。その中には失くしたら二度と手に入らない写真とかの思い出の品も含まれる。あるいは一人暮らしをする息子への仕送り。それは無くなったら買える品かもしれないけど一生懸命選んだ親の愛情が詰まっている。それを簡単に失くす訳にはいかない。

ところが、今物流量を大幅に増加させているECの荷物は基本的に代替が利くものだ。そしてそれが、EC業者にとってのオプションになる。高コストで今のように受取までキチンと保証するサービスと、受取までは保証しないが低コストのサービス。後者で物が失くなった時には品物代+送料が再度かかるが、そのリスクを取るかどうかはEC業者次第。それほど盗まれる事はないだろうと踏んで低コスト業者を選んだって良い。

実際、アメリカでは荷物は玄関に何も言わずに置いていく。全米でそうなのかは判らないけど、私が住んでいたカリフォルニア州の街ではそうだった。そして、結構ECを利用したが一度も紛失したことがなかった。さすがに高額な商品は直接受け渡し+サインを求められることもあったが、ほとんどの場合はそのまま置いていく。それで問題置きないならそれでいいじゃないかということ。

そして、実は私は日本でもこれを実践していたりする。飲料の水をネットショップで買っているが、例えば 2L x 12本とかのパックなので単純計算で24kg。これを、真夏の暑い時に宅配便のお兄さんやおじさまがヒーコラ言いながら運んでくる。在宅していて受け取れた時は良いが、不在だったらあれを一旦配送用のクルマまで持ち帰り、そして再度いそうな時間帯に来て受け渡す。そんな惨状が想像され、まぁ実際にあったわけだけど、それはあんまりなのである日「不在でも玄関前に置いていって下さい」とお願いしてみた。向こうもハッピーだったようで、今ではキチンと置いていってくれている。失くなったことは今のところ無い。

そしで二つ目のオプション。基本は一つ目と一緒だが、監視カメラをつける。それって高いんじゃないの?今は多分そう。でもEC業者が「何もしないで持って行かれるよりも多少固定費かけても安全に受け渡ししたい」と思えば彼等のコストで付けることもできる。あるいはセキュリティ面でのアピールもしつつ、通常ユーザは有償、プライム会員は無料みたいなオファーでも良い。流行りのIOTでデータは常にサーバ側にアップロード、画像解析して配達物が盗まれたらその場で警告し、カメラのネットワークでその犯人を追いかけても良い。プライバシーの問題もあるのでそこはクリアする必要があるが、宅配ボックスのネットワークを作りよりも使い勝手が有るし場所も取らないし汎用かなと思う。これはロボットやドローン配達と違って技術的には充分に実現可能だと思う。

そして三つ目のスマートロック。ご存じない方はここを読むと少しわかると思うけど、要は電子的な鍵で一時的に鍵を他人に渡したりできる。これを使って荷物を運び入れて貰う。これは部屋の中に入られたりするリスクを利用者側が取らなければならないので、利用者側の選択であるべきだけど、外の置かれるよりもこちらの方が良いと思う人もいるだろう。これも例えばプライム会員にはお安くしておきますよ的なオファーがあっても良い。実際自分はとても興味があるのできっとノッてしまうと思う。

一つ目のオプションは何もせずに直ぐに実行できるので別に良いし、二つ目も三つ目も技術的な障害は少ないと思うので、ユースケースを洗い出してMVPを定義してサクッとシステム構築すれば良い。で、改善を繰り返しながらブラッシュアップしていく。まぁ大手のEC業者さんは既に同じようなことを考えて実際にやっているだろうけど、中小な方々は自分たちだけでシステムを抱えるにはコストが掛かりすぎるのでそういったサービスがあれば使うんじゃないかな。というか、そういうサービスを誰か一緒に作りませんか? :-)