Polkadot Blog : “Common Good Parachains”和訳

執筆者:Joe Petrowski 発行日:2021年2月25日

KumaGorow
Aug 24, 2022

<出典>

日本語翻訳にあたり一部表現を加筆・修正しています。表現には最大限の配慮を行なっていますが、明かな誤訳、事実と異なる記載があればご連絡ください。なお本記事は投資行為を推奨するものではありません。

Polkadotネットワークにはパラチェーンを開発しているチームが多数あり、それぞれが独自の分野で発展しています。これらのパラチェーンはスマートコントラクト、DiD、DeFi、ロボット工学、ブリッジなど様々な機能に特化しています。Polkadotでは各チェーンが特定の用途にビジネスロジックを最適化し、安全かつ有意義な方法で相互運用できるように設計されています。

ブロックチェーンシステムのデザイン領域は正に無限ともいえる可能性を持っていますが、リレーチェーン(Polkadot/Kusama)は限られた数のパラチェーンしかサポートできず、どのチェーンがリレーチェーンにアクセスできるか選択をする必要があります。そのため一般的にはパラチェーンプロジェクト(あるいはチェーン自体)がパラチェーンスロットのリース期間中にDOTトークンをロックし入札する「オンチェーンオークション」を採用しています。しかし、ネットワーク全体に利益をもたらすプロジェクトに対してはPolkadotのオンチェーンガバナンスシステムを用いる事でトークンのロックをせずに永続的にパラチェーンスロットを割り当てることが可能です。このガバナンスプロセスを経てスロットを割り当てられたパラチェーンの事を「Common Goodパラチェーン」と呼びます。

まず基本的な前提として、パラチェーンオークションはPolkadotネットワークにおいて最も需要の高い基礎的な機能、プロダクト、プロジェクトを発見するメカニズムとして機能しています。あるプロジェクトがオークションを通過すると、落札者のDOTはプロトコルに基づいてプロジェクトのスロットリース期間中ロックされ、その結果、機会費用が発生することになります(DOTを提供したユーザーは本来であれば他の何らかの資産運用、例えばステーキングに使用することができたはずです)。オークションではキャンドルオークションと呼ばれる制度を採用しているため、パラチェーン獲得目指すプロジェクトはスロット獲得のための自身の予算計画はありますが、他のプロジェクトがどれだけ資本を投入するかについて事前に知ることはできないという特徴があります。これにより、オークションは各チェーンのスロットに対する真の評価を明らかにし、最も高い入札者にその資格を与えることを目的としています。

では何故このような正規のパラチェーンオークションという手順を経る事なく、任意のプロジェクトにスロットを割り当てる必要があるのでしょうか?そこにはある問題が潜んでいるからなのです。詳しく見ていきましょう。

フリーライダー問題

Polkadotのオークションメカニズムは必ずしもすべてのパラチェーン、たとえば”Common Goods”(共有財=例えば日常生活におけるインフラのように、大多数の人々にとって有用なもの)とみなされるようなパラチェーンに対して効果的に機能するわけではありません。Common Goodsという概念は何世紀にもわたって政治・経済哲学者によって議論されてきたものであり、社会がそれらをどのように配分するかは常に問題がつきまとっています。

その一つが「フリーライダー問題」と呼ばれるものです。非常に単純化した例をご紹介します。ここに、パラチェーンプロジェクトを目指すA、B、Cの3つのプロジェクトがいたとします。これらのプロジェクトは他のネットワークへのブリッジ(他チェーンへのトークンの移動)機能が必要だと考えており、これは自分たちのチェーンとそのユーザーの利益になる、と信じています。そこに、ちょうど希望していた機能を提供するXプロジェクトが登場しました。もし個々のプロジェクトがブリッジ機能を持つXのオークションに貢献しDOTをロックすれば、将来的にこの機能を使うことはできますが、彼らは自分たちのオークションで使える資金を一定期間手放してしまうことになります。しかし、もし自分が貢献しなくても他のプロジェクトが十分に貢献してスロットを獲得すれば、自身は費用を負担する事なくブリッジ機能を利用することができます。

このような「フリーライダー」はスロットを獲得するためにオークションに身銭を切って参加した人たちの背中に乗って、パラチェーンから利益を得ることになります。また、フリーライド行為にはインセンティブが働くため、パラチェーンでは大半の賛同を集めているにもかかわらずオークションの入札に十分なDOTの支援が得られずに終わることもあります(特にネットワーク全体にとって利益が大きなプロジェクトほどこのようなフリーライダー問題が起きる可能性が高まります)。

Polkadotのパラチェーンオークションにおけるフリーライダー問題

Polkadotのガバナンスプロセスではこのようなフリーライダー問題を回避するために、オークションを行う事なくパラチェーンスロットを提供する機能を搭載しており、ユーザーによるレファレンダム投票の結果に基づいて任意のプロジェクトにスロットを割り当てることができます。Polkadotには評議会と技術委員会という受動的なユーザーを代表する機関があり、技術的な助言を提供するために存在しています。両グループは任意のパラチェーンの直接登録を受け入れるか拒否するかの議論と、オンチェーン上の提案に関与することが期待されていますそして、Common Goodsかどうかを問わず、レファレンダムを通過するすべての提案に対してユーザーは投票による採用・否決の最終的な決定権を持っています。

Common Goodsチェーンとして認定されるブロックチェーンには、「システムレベルチェーン」と「パブリックユーティリティチェーン」と呼ばれる2つのカテゴリーが存在します。それぞれ特筆すべき機能を備えていますので、順に見ていきましょう。

システムレベルチェーン

このチェーンはリレーチェーンからパラチェーンに機能を移動させ、リレーチェーンの管理機能を最小限に抑える事が出来ます。例えばガバナンスのシステムレベルパラチェーンではリレーチェーンからすべてのPolkadotガバナンスプロセスを移動させることができます。ここでシステムレベルのパラチェーンを追加することの是非について、議論が起きる事はないでしょう。なぜならシステムレベルのチェーンはユーザー間ですでに有用であると合意した機能をある場所(リレーチェーン)から別の場所(パラチェーン)に移動させるだけだからです。

リレーチェーンからパラチェーンに機能を移動することはネットワーク全体をより効率的にするための最適化処理であると言えます。Polkadotではすべてのバリデーターはリレーチェーンの全トランザクションを処理する必要がありますが、パラチェーンのトランザクション検証は小グループに分かれて並行して行っています。システムレベルの機能をパラチェーンに移し、処理をバリデーターの小グループに任せることにより、リレーチェーンの容量を本来の機能であるパラチェーンの検証のために解放することができるのです。そして、システムレベルのチェーンを追加することでネットワークはさらに多くのパラチェーンを処理することができるようになります。パイに置き換えて考えると、システムレベルチェーンは100個のパラチェーンパイから一切れを取るのではなく、一切れを取ってより大きなパイを焼くのです。

システムレベルチェーンの例としては、残高確認、選出機能(ステーキングと評議会の両方)、ガバナンス、アイデンティティのためのパラチェーンなどがあります。このような機能の移行を行う事で最終的にはリレーチェーンはパラチェーンの状態遷移を検証する機能だけを持つようになり、現在のトランザクションを処理する機能はすべてパラチェーン内に存在し、トランザクションレスになる可能性があります。

パブリックユーティリティチェーン

パブリックユーティリティチェーンは執筆時点(2021年5月)ではまだ存在しませんが、ネットワーク全体に対して付加価値をもたらす機能を持つチェーンです。このチェーンはネットワークに新しい機能を追加するので、その追加には主観的な要素があります。ユーザーはオークションの勝者のみに与えらえるはずのスロットをこのプロジェクトに割り当てるだけの価値があると信じていなければならず、したがって、その支持者からの客観的な確信の表明が必要となります。上述のガバナンスプロセスを経ることでパラチェーンスロットの価値を内部化し、ネットワークの全メンバーに分配する手段を提供します。

このチェーンは常にリレーチェーンのステークホルダーと完全に連携しています。リレーチェーンのネイティブトークン(DOTやKSMなど)をネイティブトークンとして採用し、リレーチェーンやシステムレベルのパラチェーンから入ってくる情報をそのまま受け入れます。

パブリックユーティリティチェーンの具体的な活用例としてはブリッジ、共通アセット、DOT建てのスマートコントラクトプラットフォームなどが挙げられます。これらはすべて新たなトークンを発行する事なく運用することができます。

<ブリッジ>
手数料として独自のネイティブトークンを追加することも可能ですが、DOTやブリッジ先のトークンを使用することも可能です。

<共通アセットチェーン>
誰でもDOTを預ける事でアセットをオンチェーンに展開することができます。このチェーン上の資産は美術品、不動産、金などの物理的な商品、または企業の株式や信頼できる機関が発行する紙幣などにより裏付けられ、安定したローンチパッドとしてステーブルコインや中央銀行デジタル通貨を発行することができるようになります。

<DOT建てのスマートコントラクト>
ガス代に支払うネイティブアセットとしてDOTを使用したL1ブロックチェーン上のWasmスマートコントラクトの実行が可能になります。

このチェーンではPolkadotのガバナンスに特権的なビジネスロジックを付与することになります。Polkadotリレーチェーンがバリデーター数の設定や TreasuryからのDOTの割り当てなど、いくつかの特権的な機能を持っているように、これらのパラチェーンもシステムパラメータの変更や資産の登録など特権的な機能を持つことができます。

このチェーンはリレーチェーンが取り扱う範囲を超える機能を追加するため、ユーザーが承認するのはまれなケースに限られると予想され、大多数のCommon Goodパラチェーンはシステムレベルチェーンになると思われます。

Common Goodパラチェーンについてのまとめ

PolkadotとKusamaにとって、Common Goodパラチェーンのコンセプトは必要不可欠です。パラチェーン枠の一部をCommon Goodパラチェーンに割り当てることで、フリーライダー問題により資金が不足してしまいかねないような貴重なパラチェーンの恩恵をネットワーク全体で享受することができます。Polkadotのガバナンスシステムは社会的調整の最先端を行くものであり、このシステムがネットワークを構成するパラチェーンやユーザーのニーズを満たすために進化する様子を見届けるのは、とてもエキサイティングなことでしょう。

<参考資料:初学者のためのPolkadot入門(PDF版)>

https://github.com/KumaGorow/Polkadot-for-Beginners-jp/raw/main/%E5%88%9D%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AEPolkadot%E5%85%A5%E9%96%80.pdf

非技術者向けに書かれたPolkadotの入門書です

--

--