公平な投票制度を目指して(和訳)

中央集権化を緩和するための多様な投票モデル

KumaGorow
Nov 14, 2022

<出典>
StableNode Governance Series #7 “How to Achieve Fair Voting”
執筆者:Ann Brody
発行日:2022年7月19日

本記事は著者承諾のもと、日本語翻訳を行いました。翻訳にあたり、より文意が理解できるよう一部意訳をしています。原著内容には最大限の配慮を行なっていますが、明かな誤訳、事実と異なる記載があればご連絡ください。なお本記事はいかなる投資行為をも推奨するものではありません。

前回のガバナンスシリーズのブログではトークン投票の欠点と、Curve Warsに代表されるような投票権の貸し借りが結果的に賄賂を増加させる可能性について述べました。

現代の民主主義国家では一般的に、立法過程において一人一票の原則を採用しており、この潮流はブロックチェーンにも受け継がれつつあります。例えば、DAOでは”Tyranny of the majority”(多数派が少数派を犠牲にして目的を達成しようとする「数の暴力」のこと)が頻繁に発生しており、大口トークン保有者(クジラ)がコミュニティの意見よりも自分たちの目的を達成するためにその大きな議決権を行使する、という横暴への解決策が求められています。

あなたが所属するDAOにとって、どのようなタイプの投票メカニズムが「正しい」のかプロジェクトの開始時点から見定めることは決して容易ではありませんが、DAOにおける意思決定に関して言えば単純多数決のトークン投票だけが唯一の選択肢ではないことを理解しておきましょう。
本記事ではトークン投票に代わる投票メカニズムを検討し、その長所と短所を考察します。

Rage Quitting

Rage Quittingは投票にまつわる大方の問題に対処することができる、有用なメカニズムです。このモデルでは起案された提案はコミュニティから支持されなければならず、多数の承認を得た後に「投票者が投票から支持を撤回することができる」猶予期間に入ります。この段階で十分な支持を得られなかった場合、その提案は破棄されることになります。

Rage QuittingはMoloch DAOが最初に実装したモデルで、DAOhausを含む多くのMolochフレームワークのDAOが積極的に利用しています。

Time Wonderlandもこのモデルを実装しており、トークン保有者がRage Quittingすることで資産を回復できるようにしています。

長所 :多数派が少数派より優位に立つリスクに対処できる

短所:投票プロセスが長く、すべてのDAOで実行可能な手段ではない

Quadratic Voting

Quadratic Voting(二次投票)とはMicrosoftの研究者であるグレン・ウェイルが考案した造語で、VCG理論と呼ばれる従来の概念を再定義したものです。簡単に言えば、選択の場面において自分の好みの度合いを表すために票を割り当てることができる仕組みと言えます。その仕組みはあらかじめ投票者に投票権が割り当てられ、投票者はその票を好きなように配分し、さらに自分の選択した提案に対する追加票を支払うことができるというものです。

二次投票ではメンバーは同じ選択肢に繰り返し投票することができ、それ以降の投票の限界コストは前回よりもその平方根だけ増加します(例:1票のコストが1トークンなら、2票は4トークン、3票は9トークンが必要)。このモデルはトークンの大口保有者が票を独占しないようにするためのもので、少数派が追加の票を購入することで競争の場を均等にし、関心の低い提案や問題に投票することを抑制する方法の一つと言えます。

二次投票モデルはいくつかの形態がありますが、Gitcoinで実装されており、エコシステムで資金を提供するプロジェクトを決定するために利用されています。もし、この投票メカニズムの詳細に興味がある場合は、こちらへどうぞ。

長所:メンバーが提案に対してどれだけ強い信念を持っているか示すことができ、特定の問題に関心を持つ少数派の利益を保護することができる。

短所:シビルアタックに弱い。つまり、悪意のある行為者が偽の、あるいは重複したアカウントを利用して結果に影響を与えることができる。このモデルが効果的に機能するためには、本人確認システムが必要である。

*翻訳者追記:Gitcoinと二次投票についての簡単な紹介ツリー

Conviction Voting

Common StackのJeff Emmetは、Conviction Votingを次のように定義しています。

“継続的に表明されるコミュニティメンバーの好みの集約に基づいて提案に資金を提供する、新しい意思決定プロセスである “

これはどういうことかというと、通常、投票者は自分が最も気に入った提案に票を投じることで、自分の好みを示すことができます。このモデルでは投票者はある提案に長期間の票を投じるほど(つまりトークンを長期間ロックすればするほど)、その「Conviction」、つまり「確信度」が高まります。そして、議案に対して事前に定められた一定の賛成票のConvictionが得られると、その議案が可決されます。

Conviction VotingはDAOがコミュニティの好みを把握し、コミュニティ特有の問題に敏感に対応することができるため、予算関連の意思決定など特定のシナリオに特に適しています。

Conviction Votingを導入しているプロジェクトには、1Hive、Panvala、Commons Stackなどがあります。

長所:提案を可決するために多数決を必要としないため、大きな利害関係や強い意見を持つ人々が少数派の好みを抑圧することを防ぐことができる。また、トークン保有者は自分にとって最も重要だと思われる提案に集中できるため、特定の提案についてコンセンサスを得る必要がない。

短所:結論が出るまで長期間を要することがあるため、一刻を争うような意思決定にはあまり有効ではない。

*翻訳者追記:Convtion Votingにはロック期間と投票に使用したトークン数を掛け合わせる多数決モデルなど、いくつかの種類があります

Holographic Consensus

Holographic consensusは、投票メカニズムが提案と予測市場を関連付けていることもあり、より複雑な構造であると言えます。DAOstackが主導するHolographic consensusはDAOで可決される可能性が最も高い提案を選別し、コミュニティの注意を向けさせるように設計されています。

このモデルでは個人が特定の提案に反対または賛成の資金を投じることで、メンバーが提案の可決か否決を予測することができます。そして予想の結果、可決が優勢となった議案はブーストされ、投票は定足数50%(過半数以上の賛成が必要)から相対多数(過半数未満でも投票の中で賛成数が最も多ければ通過可能)に切り替わり、賭けた資金が大幅に少ない議案と比較して相対的に可決しやすくなるのです。予想が当たれば報酬としてトークンを受け取り、失敗すればトークンを失うことになります。

この投票メカニズムを効果的に実装したプロジェクトはDXdaoとPrime DAOの2つです。

長所:提案の多いプロジェクトに有効であり、質の高い提案が確実に考慮される

短所: スケーラビリティを最適化するものの、一部のメンバーにとっては参加費がかなり高くなる可能性があり、少数のメンバーが大多数の信念を提示することが可能(前述の数の暴力が実現できてしまう)である。

Liquid Democracy

Liquid democracyは「委任民主主義モデル」の1つであり、コミュニティのメンバーが投票権を委任することで他のメンバーが代わりに意思決定に参加することができます(投票のために自身のトークンを他アカウントへ預ける)。つまり、メンバーはコミュニティにとって正しい(と思える)決定を下すために、より多くの情報を持ち信頼できる他者に自分の投票を委任することができるのです。このプロセスは中央集権的な側面になりがちですが、現在の委任先に満足していない場合に委任を移譲し、新しい委任先へ変更できることがメリットと言えます。さらに、選出された投票者は更に他のメンバーに投票を委任することもできます。

Liquid democracyはAragonで最初に採用され、そしてGitcoinのDAO開始時に実装され、エアドロップを受け取るための条件の一部としてトークン保有者へ委任先を選択させました。

長所:理想的には、より多くの情報に基づいた意思決定と参加者の増加につながるはずである

短所:中央集権化する可能性があり、賄賂や共謀を防げない

Reputation Voting

Reputation(評判)に基づいた投票モデルでは、投票者の貢献度を考慮し、コミュニティへ関わりの深い投票者には他のプラットフォームに移行できる評価を与えます。DAOはメンバーが貢献度に応じて他のメンバーを評価できる制度を採用する必要があり、評価値が高い人はDAOでの影響力や意思決定力が高くなります。投票ツールとして有名なSnapshotはすべてのDAOで評価制度を構築するために、Orangeとともにこのモデルを先導しています

長所: コミュニティに貢献した投票者へ継続的に参加するインセンティブを確実に与えることができる

短所:賄賂を防ぐことができず、一部の人の貢献や参加はコミュニティの他のメンバーに気づかれない可能性がある

まとめ

トークンによる投票が最も人気のあるメカニズムであり続ける理由の一つは、そのシンプルさにあります。したがって、もし既存のトークン投票があなたのDAOに効果的に作用していると感じているならば、上記に紹介したメカニズムに頼る理由はないでしょう。ましてやガバナンス投票へのコミュニティの無関心を経験したからといって、より複雑なメカニズムに頼ることはガバナンスにさらなる障壁と困難をもたらすかもしれません。

各投票モデルには利点と欠点がありますが、選ぶ際にはまずあなたが所属するDAO のニーズと、あなたが得たい結果を特定することが不可欠です。ある投票メカニズムがより「先進的」に見えるからといって、必ずしも効果的であるとは限りません。実際、ここに挙げた投票モデルの中にはまだ実験段階であったり、UXが分かりにくかったり、十分に実用化されていないものがあります。

それでも、適切な投票メカニズムを選択することはプロジェクトの長期的な成功に大きな役割を果たす可能性があります。

StableNodeでは、DAOがガバナンスの枠組みを構築し、特定の状況に合わせて投票メカニズムをカスタマイズすることをサポートしています。サポートが必要な場合、またはここで説明した投票メカニズムを実装している場合は、以下でお知らせください。また、あなたのDAOにとって最も効果的であると思われる事例を是非教えてください。

興味がある方は「StableNode Governanceシリーズ」でもっと学びましょう!

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