社会形成における新しい強大な勢力:意識に基づく集団的行動

Kumiko Shimoyama
29 min readMay 21, 2020

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オットー・シャーマー/Otto Scharmer ブログ記事の日本語訳:原文

Visual by Kelvy Bird
Visual by Kelvy Bird

3週間前、コロナと気候変動対策から学んだことについて、いくつかの内省をブログに投稿しました。その記事が広く読まれたことを受けて(15万回以上の閲覧)、その後の進捗についても、簡単に共有したいと思いました。先日の投稿では結論として、即興的にグローバルインフラを立ち上げて、混乱に突入した今この瞬間に学び、文明の刷新に向けて動き出す契機にしよう、というアイデアに触れたのですが、このアイデアがすぐに形になったのです。

GAIA(意図と行動のグローバルな活性化)は、小さなコアチームが最初にアイデアを思い付いてから、わずか12日後に実装されました。12日間の間に、10,000人以上がこの4か月の無料のオンラインジャーニーへの参加登録をし、100人以上のボランティアのグローバルチームが、世界中の参加者向けの一連のディープラーニングイベントを5つの異なる言語で展開する準備を始めました。 そして、3月27日、GAIAがスタートし、丸1日をかけて、様々なイベント(フレーム共有、ディープリスニング実践、グループ討議、沈黙の時間、リフレクションジャーナリング、ライブミュージックパフォーマンス、そして、“ソーシャルイメージレゾナンス”等)が行われたのです。

これらのイベントは全て、十分な計画もなく、ほんのわずかな費用で行われました。実際、何の予算もなかったのです。しかしながら、通常、計画に1年はかかるであろうイベントが、数日と数時間で突如、実行可能になったのです…

このGAIAへの凄まじい反応は、おそらく何か大きなうねりの証であるように思います。 それはこの惑星全体を形作っている動きが覚醒しようとしているサインであり、社会と文明を根本的に刷新するという深遠な切望感が活性化した合図なのではないでしょうか。実際、私がこの惑星の誰と話をしようとも、人々が表現しようとしていることは、次の3つのシンプルな事象に関することなのです。

・私たちは、今の文明が持続可能なものではないことをわかっています。 壁にぶつかろうとしています。実際には、すでに壁にぶつかっています。 そして方向を変えなければ、崩壊のプロセスは劇的に深刻化するのです。

・私たちは、未来の別の物語の一部になることを願っています。 自分たちがもう一度、一つの社会として歩み出す、方向転換に貢献したいと考えています。

・でも、私にはその方法がわからないのです…

中小企業のCEOや幹部、社会活動家、政府関係者(個人的な関係として)、または大規模な国際機関の部門の責任者と話をしても、皆が自分たちの現在の活動が持続可能でないことをわかっています。個人のレベルでは、ほぼ全員が異なるものを望んでいるのですが、全体としては、私たちは同じ結果ー現代の3つの主要な分断の深化ーを生み出し続けているのです。それは生態学的分断(自己と自然の断絶)、社会的分断(自己と他者の断絶)、 精神的分断(自己と自己の断絶)の3つの分断です。

これが私たちが直面している現実なのです。3月のブログ記事でも触れた洞察を、より深め、発展させた10のポイントについてお話しします。

1.持続可能ではないとわかっていた全てのことが、今、崩壊している

“持続可能ではないとわかっていた全てのことが、今、崩壊している。”
私の同僚でありGA I Aの共同創設者であるアントワネット・クラツキーが、今日の現状をまとめていると聞いたとき、きっとそれは非常に多くのシステムやセクターに適用できる、極めて普遍的な洞察であろうと感じました。

この数週間、北京には(少なくともしばらくの間)青い空が広がり、多くの工業地域にまたがる川は、普段より澄んでいるように見えました。その風景を見た 何人かが示唆したように、まるで母なる自然が、私たちを部屋に返し、私たちが母なる自然に対して、お互いに対して、そして自分たち自身に対して何をしているのかを考える機会を与えたかのようです。 人類という種としてタイムアウトが与えられたのです! この集合的な瞬間から、私たちはどのような重要な学びを得ることができるのでしょうか?

2.立ち上がる:システムが崩壊する時、人々は立ち上がる

システムが崩壊する時、人々は立ち上がります。 人々はその機会に驚くべき方法で立ち上がるのです。 数十万人、あるいは数百万人にのぼるボランティアが、自国やコミュニティに現れ、隣人を助けています。治療を必要とするCOVID-19の患者さんの大行列に対して、自らを顧みずに命をかけて、最前線で闘っている医療従事者(多くの場合、彼ら自身も医療保険を持たない状態にも関わらず)を支援しています。 ミラノのオペラ歌手は窓から歌声を披露し、すでに退職した医療従事者がマドリードやニューヨーク市などで仕事を再開するなど、誰もが自分にできることを全てやっています。 人間の精神の回復力、計り知れない深い愛と利他的な行動の活性化。この危機の瞬間に、人類が互いに感じる深い繋がりは、感動的で畏敬の念を起こさせます。

3.繋がり:私たちは1つのシステムである

COVID-19は、現代で最も効果的で影響力のある教師の一人になりました。地球の78億人の市民を学生として、システム思考に関する高度な授業を提供しています。私たちの一部はこれらを頭では理解していましたが、今は身をもって学んでいるのです。実際に私たちは、グローバルな相互の繋がりを強く認識しています。私たちはたくさんの個別の存在であると同時に、一つの大きな存在でもあるのです。私たちは同じ空気を吸います。同じ水を飲みます。同じ地球を歩きます。私たちは、社会的、経済的、文化的に繋がり合った一つのグローバルシステムを成立させているのです。地球の反対側で起きていることは自分には関係ないことだと考えていましたか?社会の弱い立場にある人々が、COVID-19検査をカバーする医療保険を持っていなかったとしても、自分の問題ではないと考えていましたか?私たちは今になって自分たちの状況をより良く理解できるようになりました。自分たちが相互に繋がり合っているという最も基礎にある条件を無視してきたことで、一瞬で完全に崩壊してしまう仕組みを作り上げていたということに気づいたのですから。トランジッションネットワークの共同議長であるピーター・リップマンが先日提起したように、今こそ“非現実のベールを取り除く”時なのです。

4.新しい強大な勢力:意識に基づく集団的行動(ABC)

1989年のベルリンの壁の崩壊以来、私たちは現在、そして、次の世界的な強大な勢力が誰なのかついて議論してきました。 21世紀を形作るのは誰か?アメリカ?中国?どちらも?他の存在は?もし社会形成における次の勢力を見ようとするならば、視野を広げ、より深く見なければなりません。

過去3週間で、私たちは奇跡的に、自分たちの集団的行動を地球規模で変容させてきました。家庭や公共スペースでの消毒、手洗い、社会的距離を保つことにかけた労力は、気が遠くなるほどで​​す。 3週間にわたって、世界のほぼ全ての人口が一つの問題に集中することができました。このように注意を一点に向けることで、通常なら根本的な変化の妨げとなる数々の障害が、解消され始めています。数日から数週間のうちに、私たちは種として、集団的行動を効果的に変容させました。私たちはウイルスの蔓延と闘うために膨大なリソースを動員しました。そして、関係機関やコミュニティを超えた、これまでにない新しいコラボレーションパターンを形成しています。つまり、エネルギーは意識に従うのです。私たちは、最初に、集合的な意識を目下の課題に向け、次に、集団的行動をうまく変容させる打ち手を講じます。これにより、COVID-19の感染カーブを曲げるのです。簡単に言えば、ある一つの課題に世界的な意識を向けた瞬間に、私たちにできないことはないのです。

私たちには、COVID-19の感染カーブを平らにすることが可能なのです。なぜなら、私たちは、集合的な意識の視線を、自分たち自身の行動と残された人類の幸福への影響に向けることができるからです。

“COVID-19の感染カーブを曲げる”というのは、普段の私たちの集団的行動を司っている規則を変えることを意味します。ここには自然科学と社会科学の違いがあります。自然科学では、物理法則は変わりません。スプーンを曲げようと意識を向けても、スプーンは曲がりません。しかし、社会科学では、私たちはのそのカーブを曲げる力を持っているのです。私たちは、注意と意識を集中させることによって、行動を司る“不変性”を変えることができます。スプーンの例えで言えば、私たちは、スプーンを曲げることができるのです。これこそが、ウイルスとの闘いにおいて、私たちが今、集合的に行っていることなのです。

私たちはCOVID-19の感染カーブを曲げているのです。では、どうやって?それは、集団的注意の視線を自分たち自身に向けることによってです。自分たち自身の行動(社会的距離を保つなど)がCOVID-19の感染カーブを平らにすることに寄与し、全ての人々の幸福に貢献しているという現実を通じてです。私の見解では、これは社会形成における新しい強大な勢力です。つまり、全体性への意識に基づいて起動するという集団的行動の新しいパターン:意識に基づく集団的行動(ABC)が立ち現れているのです。

意識に基づく集団的行動(ABC)というのは、私たちの多くにとって、実は馴染みのある行動パターンです。例えば、家族やコミュニティにおいて、破壊的な困難に直面した場合にとる行動を思い起こしてみてください。そうした状況において、私たちは何をするでしょうか? 私たちは、一堂に会し、お互いを抱きしめ、一緒になって何が起こっているかに注意を向けるでしょう。そして、共に観ることさえできれば、あとは互いに必要なことをするだけです。中央で調整を図ることもなければ、正式な統治も必要ありません。共に観ることーつまり、全体性という共有意識によって、私たちは自発的に動き出すのです。それが魔法なのです。

この種の反応は、地域社会ではよく見られますが、 国家のレベルや規模ではあまり見られません。 そして、地球規模で見られることはめったにありません。 しかし、パリ気候協定の時がまさにそうであったように、私たちは時折、こうした態度をとるのです。 私たちの行動パターンを、あるモードから別のモードにシフトする時、つまり、エゴシステムからエコシステム(生態系)の意識にシフトする時、“スプーン”は曲がり始めるのです。

Figure 1: Bending the Curve by Bending the Beam of Attention: Integrating all four levels of change — visual by Kelvy Bird

図1は、これらのアイデアをシステム思考の観点で図示したものです。COVID-19の感染カーブを平らにするには、レベル1の対処(集中治療室を構築し、社会経済活動をロックダウンする)だけでなく、より深いレベルで向き合う必要があります。具体的には、検査、追跡、隔離、社会的距離に対する(壊れた)ポリシーとプログラムを再設計するレベル(レベル2)。次に、世界に対する基本的な見方を、分離から相互の繋がりに、再構成するレベル(レベル3)。 そして、私たちを駆動させているより深い源を再生する、つまり、エゴシステム中心ー自分たちだけの幸福を中心とした意識から、エコシステム(生態系)中心ー全体の幸福を中心とした意識へ移行することによって再生成するレベル(レベル4)です。

ではその場合に、新たに出現する強大な勢力とは一体何なのでしょうか? それは、意識の視線を、個人的にも集団的にも自分たちに向けるという、私たちの能力そのものです。つまり、私たち自身の集団的行動を司っている規則に気づくこと。 そして、状況に応じてそれらの規則を曲げて変容させる能力です。これは、地球の他の種にはできません。私たち人間にしかできないことなのです。

5.システムの失敗:大きな政府、大きな市場、ビッグデータ

図1のシステム図は、コロナ危機によって明らかになったいくつかのシステムの失敗をより良く理解するのにも役立ちます。コロナ禍でのあなた個人の行動が、極めて反応的(レベル1)であったとしたらどうなるでしょうか?あなたは、個人的な備蓄を確保するためにパニック買いをし、それによってサプライチェーンを混乱させ、必要なものを隣人から奪うことになるでしょう。

では、組織機構のレベルでは、一体何が起きているのでしょうか? 2つあります。一つは、最も弱い立場にある人々を更に追い詰めてしまう、不必要な苦しみが大量に生み出されていること。

もう一つは、それらの問題に関係する大きな制度上の失敗です。特に、うまくいっている間は多くの祝福を受けるであろう3つの組織機構:大きな政府、大企業、ビッグデータ/ビッグテックの失敗です。

大きな政府:多くの専門家は、コロナ危機によって、大きな中央政府が成功の鍵であることが証明された、と主張していますが、私は少なくとも部分的には同意しません。例を挙げましょう:最初の2か月間のロシア、インド、または中国、そして、過去3か月間の米国連邦政府を見てください。大きな制度上の失敗がありました。中央政府構造の中心にいる政治家たちの行動を切り取れば、大抵がまるで機能していないということがわかるでしょう。では、韓国、シンガポール、香港、台湾、ドイツについてはどうでしょうか?また、正直で迅速かつ積極的な対応を行っている米国の州知事についてはどうでしょうか?彼らは有能な統治の素晴らしい例を示しています。これらの国や州には、超中央集権的な政府はありません。小さな国の中に、俊敏で積極的な対応を行う国の政府を持っているか、あるいはドイツや米国の州の場合には、分権化されて委任された政府を持っているかなのです。パンテミック下において、もし、そして唯一、中央集権型の政府構造が機能するとしたら、それは、中心に有能なリーダーシップがある場合に限ります。中央集権化された政府において、トランプスタイルのような政権は大きな弱点になります。逆に、ドイツの例が示しているように、準公的研究機関、州、病院、市民の首尾一貫した連携が構築されていれば、地域の医療関係者の相互依存的なエコシステム(生態系)が、驚くほどうまく機能するのです。これには、俊敏で効果的な政府が不可欠です。しかし、このことは必ずしも、中央集権化がより優れている、という意味にはならないのです。

大企業:米国のような強力な国が、このようなパンデミックに効果的に対応できない理由を検索すれば、根本的な課題はすぐに明らかになるでしょう。それは競争です。競争の基本的な考え方は、市場で戦うことです。州は、防護服と人工呼吸器のために互いに競争します。加えて、疾病管理センター(CDC)の複雑な官僚機構が、各州による検査の独自開発を妨げました。人工呼吸器の国内備蓄は不足しています。なぜなら、シンプルで安価な人工呼吸器の大量生産を請け負っていた中規模のプロバイダーが、何年も前に、巨大な医療機器会社に買収されたからです。彼らは人工呼吸器などのデバイス生産に興味はなく、ただ自社の他の収益源を棄損しないよう、人工呼吸器事業に投資をしなかったのです。ここでの根本的な課題は、健康とヘルスケアはコモディティ(売買品)ではないということです。また、それらは単なる市場でもないのです。問いを投げかけてみてください。“健康とヘルスケア、またはその中核の部分は、利益ではなく社会的使命によって推進される、別のタイプの企業に託されるべきではないか?”

ビッグデータ:マーク・ザッカーバーグのようなシリコンバレーの巨人たちは、何年にもわたって、政府や他の機関よりも効果的に地球規模の問題を解決できる救世主、スーパーヒーローとしての地位を築いてきました。では、私たちがコロナという現実の問題に直面している今、シリコンバレーは一体どこに行ってしまったのでしょうか?世界が封鎖されて以来、シリコンバレーの沈黙と想像力の欠如は、日々大きくなっています。もちろんZoom等の素晴らしいサービスや、いくつかのテクノロジーを利用して、私たちは繋がり合っています。しかし、これらのテクノロジーを機能させるのは、“人々”です。教育界、ビジネス界、政府、市民社会の人々なのです。もちろん、東アジアを見れば、コロナ対策においてビッグデータが解決の大きな部分を担い得るということはわかっていますが、ではその上で、次のように問うてみて下さい。“どうすればビッグデータを、自分たち自身と、ローカル、グローバル、そして、全てのコミュニティの幸福に役立てることができるでしょうか?”その答えはきっと、データの所有権と使用を民主化することに他ならないのではないでしょうか。

大きな政府、大企業、ビッグテックの失敗は、本質的には同じ課題に起因するものです。それは、これらの機関が、相互の繋がりとエコシステム(生態系)意識ではなく、分断とエゴシステム意識(競争と帝国構築)に基づいて運営されているという点です。こうした考え方の下では、パンデミックの対応に3日間ではなく6週間かかる政府が生まれます。公衆衛生よりも利益を優先する医療機器プロバイダーが生まれます。自分たち自身のデータを民主的に使用し、社会と市民に活かす前に、自社の利益と人々の集団的行動をコントロールすることに力を注ぐビッグデータ企業が生まれます。制度的失敗には3つの形態がありますが、その根本には、同じ一つの課題が潜んでいるのです。

6.停止:混乱に直面したら、目を覚ます必要がある

混乱に直面した時は、過去のパターンの“ダウンローディング”を停止して、目を覚ます必要があります。ガーディアン紙とサウスチャイナモーニングポストによると、2019年11月17日に最初のCOVID-19の感染が中国で確認され、2019年に266人が感染したにも関わらず、中国政府がウイルスの人から人への感染を認めたのは、2020年1月21日でした。この間に貴重な時間が失われました。この1月の発表から約3日後、シンガポール、台湾、香港、韓国の政府は、専門家のタスクフォースを組み、彼ら主導で、独自の行動計画(スクリーニング、検査、追跡、隔離を含む)を策定し、対応にあたりました。一方、米国では、同じ情報を把握し、同等に高いレベルの専門家がいたにも関わらず、政府が対応を開始するまでにさらに6週間かかりました。繰り返しますが、ここでも貴重な時間が無駄になりました。この遅れの影響はどのようなものだったでしょうか?米国の死者数を見てください:15,000人を超えています。これはすでに9.11の死者数の5倍であり、おそらく現代において米国本土で起きた最も破壊的な出来事なのです。

前例のない事態に直面している場面で、私たちはいかに学び、目を覚ますことができるのでしょうか?

目を覚ますのにかかる時間を6週間から3日間に、そして、3日間から(その事態を)観たその瞬間にまで、短縮するにはどうすればいいのでしょうか?

時間を短縮する鍵は、ダウンローティングを停止することです。つまり、慣れ親しんだ思考の枠組みで考えることを停止することです。それが目覚めの最初の段階なのです。

7.選択:目を覚ますと、次に選択がある

目覚めの2番目の段階では、次のことを扱います。 ダウンローディングを停止すると、自分たちには選択があることに気づきます。ある状況に対していかに対応するかという選択です。背中を向けるのか、それとも、正面を向くのか。 背中を向けるというのは、あなたの思考、心、意志を閉ざすことを意味します。言い換えれば、無知、憎しみ、恐れから行動することです。 正面を向くというのは、思考、心、意志を開くことを意味します。好奇心、思いやり、勇気から行動することです。 これらは、私たちに常に突きつけられている選択です。背中を向けて自身を閉ざすのか、あるいは、正面を向いて自身を開き、人類のより深いレベルを活性化するのか。私たちはいずれを選択するのでしょうか?

Figure 2: Two Cycles, Two Social Fields: Presencing and Absencing — visual by Kelvy Bird

図2は、各反応のダイナミクスを示しています。 人間であるということは、この2つの社会的な場(ソーシャルフィールド)の間で活動することを意味します。不在化の場では、繋がりが分断され、肉体と存在が切り離されているという感覚から、自己破壊のサイクルが駆動します。 プレゼンシングの場では、深く繋がり、今ここにあるというという感覚から、共創造するというサイクルが駆動します。自分たちを通して新しい何かが生まれ出るを可能にするサイクルです。

今世紀の人類が経験したことというのは、私たちがあらゆるコミュニティで経験している、この2つの矛盾した力によって形作られています。一方で壁が作られ、国境が閉じていくのを見ながら、他方では、私の同僚のベッキー・ビュールの言う“境界の解消”を見ているのです。例えば、連帯経済(自分のものと他人のものをブレンドする)や、組織を超えたコラボレーション(スタッフを共有する)、そして、セクター横断のコラボレーション(政府、民間部門、軍事、市民社会などが協働する)といった動きです。 ベッキーはこのように言っています:“これはこれから何が起こるかについての興味深いヒントだと思う。”

8.文明の再想像:新しいイノベーションインフラ

まとめ:混乱に直面したときに最初のステップとなるのは、ダウンローティングを停止して目を覚ますことです。 そして、2つ目のステップは、自分たちには選択があるということを認識することです。自分を閉ざすのか、自分を開くのかという選択です。 そして3つ目は、そのような選択を、個別に集合的に、具体化し活性化することです。

図2は、2つの社会的な場ープレゼンシングと不在化ーにおける、個人の次元を示しています。今日の社会には、それぞれの場に関する、たくさんの証拠があります。 今回のパンデミックの対応においても、それぞれの場で駆動しているサイクルの例をたくさん見ることができます。しかし、どちらの場が、メディアの見出しや公の議論を支配しているでしょうか? どちらの場が、ソーシャルメディアフィードを支配しているでしょうか?それは、不在化のサイクル、自己破壊のサイクルの方ではないでしょうか。 特に過去数年間、不在化と自己破壊のダイナミクスが、世界的に非常に大きな盛り上がりを見せてきました。 なぜこんなことになったのでしょう?

これには2つの要素が関係していると思います。(1)政治における“ダークマネー”の影響。つまり、金融、テック、石油、製薬、農業などの巨大産業の特別利益団体からのお金です。そして、(2)Facebookなどのソーシャルメディアの有毒な影響です。Facebookやその他のソーシャルメディアは、私たちの多くにとって重要な繋がりの手段ですが、広告収入を最大化するビジネスモデルに従って動くので、ユーザーエンゲージメントを最大化する必要があります。これは、ユーザー側の憎しみ、怒り、恐れの感情を活性化するアルゴリズムによって最も達成されるのです。こうした企業は、ザッカーバーグ氏のようなオーナーに巨万の富をもたらしましたが、多くの人々に苦痛を与え、私たちの民主主義の基盤を弱体化させたと言えるでしょう。

こうした現実は、私たちに明白な問いを投げかけます:私たちは、プレゼンシングのサイクルの一部である数々の可能性の種を、いかに育み、花開かせることができるでしょうか? 可能性の種を育むには、3つの新しいタイプの社会的イノベーションインフラを構築する必要があります(図3を参照)。

Figure 3: Three Innovation Infrastructures: Learning, Democracy, Economy — visual by Kelvy Bird

・新しい教育インフラ:頭、心、そして、手を再統合する新しい教育インフラ(深い源を活性化する学習)。例としては、既存の教育機関や、u.labやGAIAジャーニーでプロトタイプ化しようとしているSchool for Transformation(変容のための学校)などの機関での、アクションラーニングや深い源を活性化する教育の取組みが挙げられます。

・新しい民主主義インフラ:統治プロセスをより直接的、分散的、多様で対話的なものにする新しい民主主義インフラ。 例としては、フランス、スコットランド、イングランド、スペイン、ドイツなどの国々で既に始まっている気候変動対策に関する市民集会(場合によっては、提案された結果に関する国民投票との組合せも含む)が挙げられます。

・新たな経済インフラ:経済活動の焦点を、エゴシステム意識からエコシステム(生態系)意識にシフトさせる、私から私たちにシフトさせる、新しい経済インフラ。 例としては、あらゆるレベルと規模において、人間の意識と意図を用いて、経済活動の調整と統治を再リンクするという方法で、資本主義を変革するための様々な“効果的な施策(鍼のツボ)”を含みます(下の図4に示す統治の進化を参照)。

現在の状況で非常に興味深いのは、ほんの数週間前には不可能と思われていた多くのものが、今となっては妥当に思え、何らかの形で実装され始めているということです。国民皆保険のない唯一の先進国であるアメリカでは、国民皆保険制度が必要であることが認識されています。同じことが経済にも当てはまります。2、3年前は、最低所得保証制度(UBI)のアイデアは、現実離れした漠然としたものだと見なされていましたが、2週間前に全米上院全体が、ほぼすべての市民に、少なくとも1回は小切手を与えるということに賛成票を投じました。これは驚くべき大転換でした。同様に、10年前、食物生産サイクルを限りなくローカライズするという提案は、かなり飛躍したアイデアのように聞こえました。しかし今日、特に過去数週間にわたって、この食物生産サイクルのローカライズ化が進行し、ムーブメントとなりつつあります。そして、もう一つ、進行中の大きな変化があります。それは、地球という惑星に関する公衆衛生の枠組みを再考する取組みです。優れたヘルスケアシステムの枠組みを考える上で、地球全体の健康と幸福を第一に考えようという試みです。

私たちの多くは、経済が停滞するにつれ、いくつかの疑問を持ち始めました:“システム的に重要だ”とか“生活に欠かせない仕事に従事している人々(エッセンシャル ワーカー)”だと私たちが呼んでいる人々の多くが、なぜ最も低賃金なのでしょうか? — 具体的には、看護師、農業従事者 トラックの運転手、食料品店のレジ係に就いている人々です。一方で、価値がなかったり、全体から価値を差し引くような仕事をしている人(例えば、実態のない金融資本主義の不安定な構造を動かしている人)が、法外なレベルの報酬を稼いでいるにも関わらずです。 繰り返しになりますが、なぜこんなことになったのでしょうか?そして、どうすれば、私たちの経済基盤を再考し再構築するための公の議論を始められるのでしょうか?

もし、私たちが持つ計り知れない力を、COVID-19の感染カーブを曲げるだけでなく、生態系と社会の断絶を埋める実態経済の再考に適用したらどうなるでしょうか。すべての存在の幸福に役立つでしょうか? 自分たちが主導するコミュニティでの議論を、より率直で、多様で、対話的なものにすることによって、政治的な断絶を埋める、実在としての民主主義システムの再考に適用したとしたらどうでしょうか?創造性の源と未来の最高の可能性から自分たちを切り離してしまう精神性の断絶を埋めるための取組みとして、教育インフラを再考することに、私たちの力を適用したらどうなるでしょうか?

9.共創造的なエコシステム:オペレーティングシステムのアップグレード

システムの変化を説明する方法の一つに、スマートフォンのアップグレードに例えるやり方があります。 全てのスマートフォンユーザーは、デバイスを適切に機能させるためには、オペレーティングシステム(OS)をアップグレードする必要があることを知っています。図4は、社会の“オペレーティングシステム”が時間とともにどのように進化してきたかを示しています。 横軸の各セクターは、同じ進化の軌跡(縦軸)をたどっています。インプット中心から、アウトプット中心へ。そして、ユーザー中心を経て、最終的にエコシステム(生態系)中心となるという進化です。横軸の一番右端にある統治というのは、システムを動かすために用いる調整メカニズムの進化を示しています。

Figure 4: Four Stages of Systems Evolution, Four Operating Systems — visual by Kelvy Bird

図4で重要な点が3つあります。 一つは、オペレーティングシステムが2.0や3.0のままでは、“4.0の課題”を解決することができないということです。 しかし、OSのバージョンが古く課題に対応できないというのは、ほとんどのシステムで、ほぼ必ず発生することでもあります。 2つ目は、組織を4.0の運用領域に移行しようとするには、絶対に単独ではできないということです。パートナーというエコシステム(生態系)全体が必要です。 そして3つ目は、COVID-19の状況により、4.0レベルの議題に取組む緊急性が大幅に加速しているということです。

・教育:深い学習サイクル(頭、心、手を再統合し、深い源を活性化する学習)がこれまでになく求められています。

・医療:人々と地球のために、健康の源を強化することは、まさに現在の状況が求めていることです。

・食糧と農業:地球と人々を癒すための場所を育むための農業、つまり、再生農業のアイデアは、地域社会が支援する農業(CSA)に関わる農家によって推進され始めています。

・企業の持続可能性:ミッションドリブンの企業は誰もが求めているものですが、依然として小さく“絶滅危惧種”です。

・金融:システムを進化させ変革するリソースを提供する再生型混合金融。金融セクター全体としては、財務的リターン中心の運用から、財務的な側面と社会的なインパクトの両面を意識した運用に移行している、大きな転換点にあるようです。

・意識に基づく集団的行動は、意識に基づいて調整と統治を図るという新たな可能性の種であり、すでに多くの場所で根づき始めています。

私たちの文明を変革する鍵は、これらの各セクターに可能性の種を植え、それを育んでいく、私たち自身の能力にあると、私は信じています。こうした場を育むことが、自分たちの共通認識から立ち現れる共創造(コ・クリエイション)を可能にするのです。今はまだ土中に眠っている、大きなムーブメントを起こす強大な勢力を活性化させることこそが、変革の鍵なのです。

生成的な社会的な場は、ひとたび成長し始めると、自分たち自身で有機的に発展していきます。そして、私たちが運がよければ、そうした社会的な場が“滑走路”の役目を果たし、更なる具体的な可能性の出現を呼び起こしてくれることでしょう。

GAIAのアイデアが生まれ、瞬く間に形になったことは、生成的な社会的な場が持つ力の原則を示した好例だと思います。 これこそが、私たちが育む必要のある未来の場なのです。

10.今、私たちができること:“社会形成における強大な勢力”の種を植える

今、私たちにできることは何でしょうか? 根本的な変化をもたらす上で最も重要なてこの支点(レバレッジ・ポイント)は、他者と自然と自分たち自身が深く繋がる場に、可能性の種を植え育むことです。 今世紀に出現した強大な勢力は、私たちの観察の視線を自分たち自身に向ける能力に関係しています。注意を変化させることで、私たちはお互いの目を通して自分たち自身を見ることができるのです。そして、自分たち自身の盲点に気づくことができるのです。これによって、COVID-19の感染カーブを曲げるだけでなく、文明を再創造、再形成し、現代の3つの主要な分断ー生態学的分断、社会的分断、 精神的分断ーを埋めることができるのです。

一言で言えば、これこそがGAIAジャーニーの意図です。可能性の種を植え、支え、まさに今目覚めようとしている動きをさらに活性化させ、未来へと続く豊かな土壌を共に耕していきましょう。

オットー・シャーマー/Otto Scharmer

GAIAジャーニーへの参加:gaiajourney.org.

3月のブログ記事:blog post.

アントワネットのブログ記事::Antoinette’s blog

無料でダウンロードできる章はこちら: Essentials of Theory U

最後に、私の同僚である Antoinette Klatzky, Sarina Bouwhuis, Marian Goodman, Zoë Ackerman, Katrin Kaufer と、この記事に早い段階でコメントを寄せてくれたRachel Hentsch そして、記事のビジュアルを担当してくれたKelvy Bird に心からの感謝をお伝えしたいと思います。ありがとう。

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