彼女と軸と、時々、うどん

うどんを食べた。

それも、ひょんなことから知り合った人と一緒に。


それは2日前のこと。

大学で講義を受け、課題を終わらせた帰り道だった。

全身黒尽くめの服装で(朝に時間がなかったから仕方ない)、イヤホンで音楽を聴きながら早歩きで帰っていたにも関わらず、

「すみません」

と声をかけられた。

細身で私より少しだけ背が低く、ショートカットで明るくハキハキと話す、いかにもスポーツをしています、という雰囲気の女性だった。

生協を探しているらしい。お土産が買いたいらしい。早稲田出身らしい。所キャンらしい。営業の仕事をしているらしい。

(……この人えらいようけ喋るなぁ)

道を尋ねられて、こんなに長く立ち話をしたのは初めてだった。

彼女の喋りに圧倒されて、つられて私も喋っていた。

最終的にはご飯でも行きましょうかとLINEを交換。

(あらら?まぁいいか。)

彼女のトーク力にも、自分からLINEのQRコードを差し出したことにも驚いたが、なんだか面白いことが始まりそうだと思った。

「先ほどはありがとうございました(^^)」と送った。


そして2日後の今日、お昼を食べる約束をして、大学近くのうどん屋で落ち合った。

うどんが美味しかった。いやいや、そうじゃなくて。

まず、「ありがとうございました」と連絡したその流れで次の予定を決めてしまう、そのスピード感に感動した。

そして今日の話題だ。

所詮、道を聞かれて知り合った程度の関係だからと、彼女のトーク力に惚れ惚れしに行く程度でいいと、無防備な気持ちで向かったからだろうか。

彼女の話は刺さった。


彼女は「軸」について語った。

小学生の頃から警察官になることが夢だった彼女は、進学も部活も習い事も、全て警察官になることを「軸」にして決めていた。

定期試験の3週間前から勉強を始めるような、真面目な子供だった。

大学に入ると、ラクロスに目覚め、日本一を目指して部活中心の生活を送った。

いつの間にか、警察官という「軸」が、部活に変わっていた。

部活を通して日々は充実し、とても楽しんでいた。

ところが、就活の時期を迎えた彼女は立ち止まった。

警察官を目指していた自分が、部活にのめり込んでいたことに気づいたのだ。そして、幼い頃からの夢だったせいで、どうして警察官になりたいのか、警察官になってどうなりたいのかを、真剣に考えていなかったことにも気がついた。

そうして改めて警察官の責任の重さを考えたとき、彼女には警察官になる自信がなくなってしまった。

公務員試験は卒業後も受けられる。今急いで警察官になる必要はない。

ひとまず、民間企業に就職することにした。

大学名と部活のおかげで、いくつかの内定をもらった彼女は、早く部活に復帰したくて就活を終えた。それが失敗だったと彼女は言う。

4年生の11月に部活を引退した。それまで彼女の「軸」であった部活がなくなり、心にぽっかりと穴があいた。

そして内定先から就職する企業を選ぼうとしたとき、それまでは「軸」だった部活が、今となっては何の基準にもならないことに気がついた。

内定先はどこも嫌ではないが、どこが特別に良いという思いもなかった。

そして彼女は思い出した。自分は本当は警察官になりたかったのだ。

内定先を断り、勉強を始めた。

長年の夢だった警察官。勉強した。努力した。彼女は合格するものと思っていた。しかし結果は不合格。

まさか、と思った。

そうして彼女はようやく気がついた。

「軸」とは、はっきりとした目に見えるものではなく、内面的なものであるべきだということに。

もちろん、警察官を目指してその通りに警察官になれることは素晴らしい。

しかし、それがなくなってしまったとき、その軸が折れてしまったときに、自分が揺らいでしまうような軸は、本当の軸とは呼べない。

「スポーツ選手も、引退したからと言ってその人の価値がなくなるわけじゃないでしょう?」と彼女は言う。

そして、木の幹がしっかりしていなければ、どんなに枝がたくさん生えても、雨や風や雪で枝が折れてしまう、と語った。


彼女は今月末で仕事を辞める。

再び公務員試験に向けて勉強を始めるそうだ。

「わたし、猪突猛進タイプだからね、仕事か勉強かどっちかにしないと上手くいかないと思うの。」


私は彼女を応援している。

道端でこんな出会いがあって、出会った人とこんな話ができるなんて。

人生は楽しい。人と出会うのは楽しい。

今日のうどんは美味しかった。

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