コンピュータサイエンスを学ぶ25歳以下のすべて人が「未踏事業」に応募すべき3つの理由

佐藤邦彦
8 min readFeb 22, 2019

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未踏事業とは

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が実施している「未踏IT人材発掘・育成事業」というものがあります。未踏事業の公式Webページによると未踏事業とは以下の通りです。

「未踏事業」は、ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイディアと技術を有するとともに、これらを活用する優れた能力を持つ、突出した若い人材を発掘・育成することを目的としています。https://www.ipa.go.jp/jinzai/mitou/portal_index.html

もう少し別の言い方で未踏事業を説明すると、「未踏事業とは、開発したいアイディア・サービスを持つクリエイターに対して、金銭的な支援とプロジェクトマネージャー(PM)からのメンタリングを提供するプログラム」です。応募資格に年齢制限があり、応募時に25歳以下であることが条件です。未踏事業の募集は毎年行われており、募集期間→採択決定→開発期間(約9ヶ月)→成果発表のサイクルが1年通して行われます。

もっと多くの人に未踏へ応募してほしい

私がこの記事を書く理由は、未踏事業への応募数が少ないことが気になったからです。未踏事業への応募数は公開されており、未踏PMの首藤先生の成果報告書などに詳しく記載されています。

ここ5年間の応募数は以下の通りになっています。
2013年: 119件
2014年: 78件
2015年: 140件
2016年: 178件
2017年: 116件

採択数は、年度によって差がありますが、14~20件ほどです。つまり、多くの年は倍率が10倍にも満たない状況です。直近5年でもっとも倍率が高かった2016年度で11.13倍でした。これらの応募数は未踏事業の魅力と比べると大変少ないと私は感じます。

私自身、数年前に未踏事業に採択してもらいました。そして、未踏事業を通して得た経験はすばらしいものであり、コンピュータサイエンスを学ぶ25歳以下のすべての人に未踏事業へ応募してほしいと思っています。

未踏事業は2000年度から始まった事業であり、未踏事業の認知度は開始当初に比べれば大きく向上しているはずです。しかし、上記の通りここ5年の応募数は増えたり減ったりしており、右肩上がりとはいきません。

応募数が増加し続けない理由として、そもそも未踏事業の魅力が応募資格者に伝わってないのではないかと私は思います。私が大学院の修士学生だったとき、周りにいる同級生に未踏事業への応募を勧めたことが何度かあります。そのときに、未踏事業への応募に意欲的な人もいましたが、あまり関心を示さない人もいました。あまり関心を示さない人の理由は以下のようでした。

  • 未踏事業でお金をもらわなくても他の外部プログラムで研究費をもらっているのでお金がもらえるという動機で未踏へ応募する気が起きない。
  • 未踏事業ってなんか凄そうなので応募してもどうせ受からないから応募しない。

上記のような理由を踏まえて、未踏事業の公募要領や未踏OBの方々が書いたブログ等で述べられていない(あるいは強調して伝えられていない)未踏事業の魅力を書こうと思います。

未踏事業に応募すべき3つの理由

理由1: 開発期間中に合宿やメンタリングが何度もある

未踏事業の目的は優秀な若手IT人材の育成です。そのため、未踏事業は採択者に対して金銭面を支援するだけではありません。

未踏事業に採択されたあとは約9ヶ月間の開発期間があります。この開発期間中には、進捗合宿やPMとのメンタリングが何度もあります。合宿やメンタリングの回数は年度やPMによって異なります。私が採択されていたときは、合宿が4回、メンタリングが5回ほどあったと記憶しています。

この合宿やメンタリングがプロジェクトや自身の実力を大きく飛躍させてくれます。

進捗合宿とは、未踏OBやIT業界で活躍する方々に対して、現在のプロジェクトの進捗を説明をしフィードバックをもらう機会です。合宿1回あたり10人から20人の未踏OBやIT業界の人が集まります。

私が未踏事業に採択されていたときの進捗合宿(正確には「ブースト会議」という名前だった)の様子。未踏OBとして落合陽一さんとかいました。

この合宿では、プロジェクトに対する厳しい意見や技術的なアドバイス、新しいアイディアにつながるヒントなど多様なフィードバックを得ることができます。未踏事業に採択されず普通の学生生活を送っていれば、これほどの有識者から意見をもらう機会はないと言っても過言ではないでしょう。

また、PMとのメンタリングもプロジェクトや自分自身を大きく成長させてくれます。私が採択されたときのPMは藤井さんでした。メンタリング1回につき1時間かけてPMと1対1で話し合います。メンタリングでは厳しく叱責されたり、プロジェクトの根本的な方向性を考えさせられたりします。しかし、通常、自分のプロジェクトに対して未踏PMほど熱心に付き合ってくれる人はいません。合宿やメンタリングを受けるだけでも未踏事業に採択されるメリットはあると思います。

理由2: 自由に使えるお金が230万円ももらえる

未踏事業ではIPAから1プロジェクトにつき上限230万円(年度によって変動あり)が支払われます。230万円の使途はクリエイターが自由に決めることができます。クリエイターは230万円を生活費として使いバイトをせずにプロジェクトの開発に集中したり、開発費として使い進捗を加速させたりできます。

実際には、IPAから支払いされる金額はプロジェクトの作業時間に対する時給換算(1600円/時間)で決まります。しかし、多くのクリエイターは自分のプロジェクトに多大な時間を費やすため、開発期間中に支払い上限の230万4千円までもらう場合がほとんどです。

未踏事業における金銭的な支援が他の研究プログラム等と異なるのは、お金の使い方をクリエイター自身が自由に決められることです。未踏以外にも開発費・研究費を援助してくれる外部プログラムはあります。しかしこれら外部プログラムで提供されるお金には使用制限が付いていることがあります。例えば、プログラムで支給されるお金は開発に関係する物品の購入のみに使用でき、自分の生活費として使用することができない場合があります。未踏事業ではこのような制限はありません。

理由3: 実績が無くとも採択してもらえる可能性がある

未踏OBの活躍を見ると未踏事業にはめちゃくちゃすごい人しか採択されないのではと思うかもしれません。しかし、そんなことはありません。

未踏事業はその名の通り、未踏IT人材発掘・育成事業なので、人材を発掘し育成することを主眼に置いています。そのため、当時の私のように実績がない人でも通る場合があります。ここで言う実績とは、例えば、ITコンテストで優勝したとか、フルペーパーを国際学会に通したとか、アプリをリリースして◯◯万ダウンロードされたとかです。

応募者の実績の有る無しがどのくらい採択に影響するかはPMごとに異なります。PMの中には、応募者の実績がなくとも提案に対する情熱やアイディアの期待値を評価してくれる人もいます。

なので、応募したいアイディアがある人はまずは応募するべきです。一番残念なのは、最初から諦めて応募しないことです。

終わりに

2019年度の未踏事業の募集が始まっています。

事前エントリーの締め切りが2019年3月11日(月)12時(正午)です。

去年あたりから未踏事業の開発期間中における海外留学への制約が少し緩和されたそうです。未踏事業の契約条件として、開発期間中は「日本に在住していること」という条件があります。これに但し書きが加わりました。

ただし、本人材育成/開発期間における主要な会議への参加や連絡手段の確保をできることが前提となりますが、IPAおよびPMの承諾を得ることを条件に、クリエータの育成に寄与する数ヶ月の国外インターンシップ等への参加が認められる場合もあります。

よって、海外留学を考えている人も未踏事業へ応募しやすくなりました。

その他、応募における詳細は公募要領とFAQのページを参照ください。https://www.ipa.go.jp/jinzai/mitou/2019/faq_index.html

また、未踏事業への応募に役立つ情報として未踏OB且つ研究室の先輩方のリンク貼っておきます。

未踏事業が創設以来変わらないのは、「すごい人たちがすごいものを作る」ことを支援しようという姿勢です。なので、未踏PMや未踏に注目している人たちは未踏クリエイターが作るすごいものに期待しワクワクしています。ぜひ、応募する方はワクワクするようなすごいものを遠慮せず提案してくださいませ。

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佐藤邦彦

Engineer / Master’s degree from The University of Tokyo / 3rd place in Microsoft Imagine Cup World Finals 2018 / 未踏2015