希少性に基づいたビットコイン価値のモデル化

Lerian
Lerian
Aug 9, 2019 · 15 min read

本記事はPlanBによる記事Modeling Bitcoin’s Value with Scarcityをできるだけ忠実に日本語に翻訳したものです。原記事はビットコインの価格推移を予測するための重要なキーを提案しているとして非常に高い評価を得ています。関連する議論はTwitter上で展開されているので参考にされると良いでしょう。

はじめに

Satoshi Nakamoto は2008年10月31日にビットコインホワイトペーパー [1] を発表し、2009年1月3日に創始ブロックを作り出し、2009年1月8日にビットコインのソースコードを公開した。そして今日の700億ドルのビットコイン(BTC)市場へとつながる旅が始まった。

ビットコインは、希少性を備えたディジタルオブジェクトと言う新しい概念を世界で最初に実現した。それは銀や金と同様に希少性を持ち、しかもインターネットや無線、衛星通信などを通して転送することができる。

「思考実験として、金と同じ希少性を持っているが次の様な諸特性も合わせ持つ卑金属があったと仮定してみよう: つまり、色は退屈な灰色で、伝導性はあまり高くなく、さほど堅牢性もなく、伸展性や可塑性もなく、実用性や装飾性もない、そして一つ特殊で不思議な性質として、通信経路上を転送可能であると仮定してみよう。」 — Nakamoto [2]

確かにこのディジタル希少性は価値をもっているが、その値段は? この記事ではストック対フローを用いて希少性を定量化し、ビットコインの価値をストック対フローでモデル化してみる。

希少性とストック対フロー

辞書の定義によると希少性は「特定のものを見つけたり入手したりすることが容易ではない状況」あるいは「何かが欠乏している」ことを意味する。

Nick Szaboは希少性を考えるに際して、「偽造不可能な高価格性」と言うもっと有用な定義を提示している。

「骨董品、時間、金について共通しているものは何であろうか?それらはそれ自体が高価であったり、また過去からの履歴の[繰り返される]確率が非常に低いことであり、そしてこの高価格性を偽造することが困難な点である。[..] コンピュータ上で偽造不可能な高価格性を実現するにはいくつか問題がある。このような問題が克服できればわたしたちはビットゴールドを実現することができる。」 — Szabo [3]

「貴金属と収集品が偽造不可能な希少性を持っているのは、それらを作り出すのに大きなコストが掛かるからである。このことから貴金属と収集品は、信頼を託す第三者に大きくは依存しないで、価値を維持してきた。[..][しかし]金属でオンライン支払いをすることはできない。したがって、もし何らかのプロトコルがあって、偽造不可能な高価格性を持つビットをオンライン上に作り出すことができ、信頼を託す第三者への依存を最小限に抑えられて、安全に保管し、転送し、最小限のコストで検定することができたならとても素晴らしい。ビットゴールド。」 — Szabo [4]

ビットコインが偽造不可能な高価格性を持っているのは、新しいコインを生成するために大量の電力を消費しなければならないからである。ビットコインの生成は容易には捏造することはできない。法定通貨や、アルトコインの中で総供給量に上限がなかったり、proof-of-work (PoW)を持たなかったり、ハッシュ速度が低かったり、あるいは少人数のグループが簡単に供給量を変えられるものについてこれは当てはまらないことに注意してほしい。

Saifedean Ammous は希少性について話す際にストック対フロー(SF)比率を用いている。彼はビットコインと金がなぜ銅、亜鉛、ニッケル、黄銅と言った消費財と異なるかについてSF比率の高さで説明している。

「どのような消費財でも生産量を倍増させれば既存の備蓄量を圧倒してしまい、価格は暴落し、備蓄を抱えた者は痛手を被るであろう。金については年間生産量が倍に急増してもほとんど影響はなく、備蓄量の増加が通常の1.5%から3%に増加するだけとなるだろう。」

「この一貫して低水準に留まっている金の供給量こそ人類の歴史を通して貨幣としての役割を維持してきた理由である。」

「金はこの高いストック対フロー比率のおかげで供給量変化に対する価格弾力性が非常に低い商品となっている。」

「ビットコインの2017年現在の備蓄量は2017年に新規生産されたコインの量の25倍であった。これは金の比率の半分以下であるが、2022年にはビットコインのストック対フロー比率は金に追いつくであろう。」 — Ammous [5]

この様に、希少性はSF比率で定量化できる。

SF = stock / flow

ストックは存在する備蓄あるいは準備貨幣の大きさである。フローは年間の生産量である。SFの代わりに供給成長率(flow/stock)を用いる人もいる。SF = 1 / 供給成長率 と言うことになる。

SFの実際の値を見てみよう。

金のSFは最も大きい値である62となっている。これは現在の金の備蓄量と同量を得るためには現在の生産量の62年分を要すると言うことである。銀は第2位でSFが22。この高いSFのおかげで両者は貨幣として機能を持つ商品となっている。

パラジウム、プラチナを含めて全ての商品はSFがほとんど1を超えることがない。現存する備蓄量は通常年間生産量と同じかそれ以下であり、生産が重要な要素になっている。通常の商品が高いSFを持つことはほとんど不可能であるのは、誰かが貯蔵し始めると価格が上昇して、生産が増加し、そして価格が落ちてしまうからである。この落とし穴を逃れるのは非常に困難である。

ビットコインの貯蔵量は現在1750万コイン、供給量は年間70万コインであるので、SFは25となる。この値はビットコインを銀や金と同様に貨幣としての商品カテゴリに位置づけるものである。ビットコインの市場価値は現在の価格で700億ドルである。

ビットコインの供給量は固定されている。ブロックが新しく生成されるに従って新しいビットコインが生成される。有効なブロックに必要とされるPoWを満足するハッシュ値をマイナーが発見した時にブロックが生成されるが、それは平均して10分に一回起こる。各ブロック内の最初の取引データはcoinbaseと呼ばれるが、ブロックハッシュを発見したマイナーへの報酬支払いを含んでいる。ブロック報酬は、人々が取引のために支払う手数料の合計と、新しく生成されたコインの2つからなる。新しく生成されるコインは助成額(subsidy)と呼ばれる。助成額は50ビットコインから始まって、210,000ブロックが経過するごと(約4年ごと)に半減されてきた。このことから助成額半減(halving)がビットコインの貨幣供給とSFにとって非常に重要なものとなっている。また助成額半減による供給成長率の変化は階段状に起こり、なめらかなものではない。ちなみに供給成長はビットコインについて話す際には貨幣インフレーションと表現されることが多い。

source: https://plot.ly/~BashCo/5.embed

ストック対フローと価値

この研究での仮設は、SFによって計測される希少性は価値を決定する主要因になっていると言うことである。上の表を見るとSFが高い場合に市場価値も高い傾向があることが分かるだろう。次のステップはデータを集めて統計モデルを作ることである。

データ

ビットコインの月ごとのSFを2009年12月から2019年2月の期間について計算した。(合計で111個のデータポイント。)月間のブロック数は、直接ビットコインブロックチェーンに対してPython/RPC/bitcoindを通して問い合わせて得ることができる。ブロックは正確に10分毎に生成される訳ではないので、実際のブロック数は理論値からかなりずれている。(例えば最初の年である2009年にはブロック数は大幅に少なかった。)月間ブロック数が分かると、ブロック助成額は既に知られているので、フローとストックが計算できる。失われてしまったコインを考慮するために、ざっくりと最初の百万コイン(7ヶ月分)を全体から差し引いてSFの計算を行った。失われたコインの調整をもう少し正確にするのは将来の研究課題となる。

ビットコイン価格のデータはいくつか情報源があるが一番古いデータは2010年7月である。そこで、ビットコイン価格として知られている最初のものをいくつか追加して内挿補間した(2009年10月の1309 BTCに対する価格1ドル、2010年3月のBitcoinMarketでの最初の価格0.003ドル、2010年5月の10,000 BTCで41ドル相当のピッツァ2つの購入)。データ考古学的追求も将来の研究課題である。

金についてはSFが62、市場価値が8.5兆ドル、銀についてはSFが22、市場価値が3080億ドルと言うデータポイントが手に入るので、これを比較対象として用いることにする。

モデル

最初にSFと市場価値を散布プロットしてみると、市場価値はその対数(logarithm)を取った方が良いことが分かる。市場価値の値が8桁の範囲(1万ドル から 1000億ドル)に渡るからである。SFについても対数を取ってみると、ln(SF) と ln(市場価値) の間にきれいな線形関係があるのが分かる。ここでlnでは底eの自然対数を使っていることを付け加えておきたい。常用対数(底10)でも同様の結果が得られる。

Charts made with gnuplot and gnumerics

線形回帰モデルをデータに当てはめてみると、SFと市場価値の間の目で見て取れる関係が統計的に有意な関係になっていることが確かめられる(R²が95%、F値が2.3E-17、傾斜のp-値が2.3E-17)。SFと市場価値の関係が偶然である可能性はゼロに近い。もちろん規制、ハッキング、ニュースと言った別の要素が価格に影響するのは確かで、R²が100%ではなく、プロットの点が黒の直線上にないのはそれが理由である。しかし、支配的な要素は希少性・SFであると言える。

非常に興味深いのは、金と銀がまったく異なる市場であるにも関わらず、それらのSF値がビットコインのモデルの回帰直線に合致していることである。このことでモデルの信頼性が一層高まってくる。2017年12月の上昇相場の頂点ではビットコインのSFは22、市場価値は2300億ドルと銀に非常に近い値を示していた点に注意してほしい。

助成額の半減はSFに大きな影響を与えるので、次回の半減までの月数で色分けしてチャート上に示している。濃い青は半減が起ころうとしている月、赤は半減が起こった直後の月を示す。次の半減は2020年5月である。現在のSF値の25は倍の50になり、金(のSF 62)に近い値になるだろう。

2020年5月の半減の後に予想されるビットコインの市場価値は1兆ドル、1ビットコインあたりの価格で55,000ドルになるだろう。これは実に目覚ましい額である。いずれにしても時間が来れば分かることだが、半減が起こって1、2年の内につまり2020年あるいは2021年に結果は分かるだろう。この仮設とモデルを検証する上で重要なサンプル外テストとなるだろう。

ビットコイン市場価値が1兆ドルになるためのお金はどこから来るのか?と言う質問をよく受けるが、わたしの答えは次のようになる:銀、金、マイナス金利の国(ヨーロッパ、日本、そしてそのうちUSも)、略奪的な政権の国(ベネズエラ、中国、イラン、トルコなど)、貨幣の量的緩和に対してヘッジしようとする資産家、過去10年で最良の実績を出している資産に注目し始めた機関投資家。

SFで直接ビットコイン価格をモデル化することもできる。数式のパラメータはもちろん異なるが、結果は同じで、線形回帰モデルのR²値が95%で、2020年5月の半減後にSF値が50になった後の予想価格は55,000ドルとなる。

SFモデルから予想されるビットコイン価格(黒のライン)と実際のビットコイン価格をプロットし、そして月間ブロック数を色で分けてみた。

Charts made with gnuplot and gnumerics

予想値の近似の良さ、特に2012年11月の半減の直後から価格が追従している点に注意してほしい。2016年6月の半減後の追従はそれよりかなりゆっくりと起こっているが、これはEthereumからの競争とDAOの侵害事件の影響だった可能性がある。また最初の年である2009年、難易度調整が下降している2011年末、2015年中、2018年末には月間ブロック数が少ない(青)ことが分かる。2010年から2011年に掛けてGPUマイニングが現れ、2013年にはASICマイニングが現れたことでそれぞれ月間ブロック数が増加した(赤)と考えられる。

冪乗則とフラクタル

非常に興味深いのは冪乗則が関係している点である。

線形回帰: ln(市場価値) = 3.3 * ln(SF) + 14.6

は冪乗則に書き換えられる: 市場価値 = exp(14.6) * SF^3.3

冪乗則は稀に見られる現象である。冪乗則に従っているらしいこと、モデルのR²値が95%で、値が8桁の範囲にまたがることを考えれば、ビットコインの価値を決定している主要因子がSFによって正しく捉えられている確実性はさらに高まったと考えられる。

冪乗則は一つの量の相対的変化に比例して別の量に相対的変化が引き起こされ、その変化がそれらの量の初期サイズに依存しない関係を言うものである。[6]。 半減が起こる毎にビットコインのSFは倍になり、市場価値は10倍に増加し、これは定数であり続ける。

冪乗則はランダムに見える複雑なシステムに内在する規則性を明らかにしてくれる点で興味深い。冪乗則の有名な例を付録にあげておくので参照してほしい。複雑なシステムでは異なるスケールで起こる現象の間の違いはスケールに依存しないと言う特性を持っている。この自己相似性は冪乗則の特性である。ビットコインにもこれを見ることができる:2011年、2014年、2018年の暴落は非常に類似している様に見える(どれもが−80%の下落を記録)が、それぞれが全く異なるスケール(それぞれ10ドル、 1000ドル、 10,000ドル)で起こっている。対数スケールを取らなければそれに気づかないであろう。スケール不変性と自己相似性はフラクタルに関連している。実際、上の冪乗則のパラメータの3.3はフラクタル次元と呼ばれている。フラクタルについては海岸線の長さに関する研究が参考になる [7]。

結論

ビットコインは、希少性を備えたディジタルオブジェクトと言う新しい概念を世界で最初に実現した。銀や金と同様に希少で、インターネット、無線、衛星通信を通して転送することができる。

確かにこのディジタル希少性は価値を持っている。しかしその実際の価格は? 本記事ではストック対フローを用いて希少性を定量化し、ストック対フローを用いてビットコインの価値をモデル化した。

ストック対フローと市場価値の間に統計的に有意な関係があることを示した。ストック対フローと市場価値の間の関係が偶然である確率はほぼゼロに近いことも示した。

次のことがモデルの信頼性を高めている:

  • 金や銀は全く異なる市場であるが、SFの観点からビットコインの価値モデルと一貫性がある。
  • そのモデルは冪乗則を示唆している。

本モデルによればビットコインの市場価値は、次の半減が起こる2020年5月以降に1兆ドルに達し、1ビットコインあたりの価格は55,000ドルに達する。

参考

[1] https://bitcoin.org/bitcoin.pdf — Satoshi Nakamoto, 2008

[2] https://bitcointalk.org/index.php?topic=583.msg11405#msg11405 — Satoshi Nakamoto, 2010

[3] https://unenumerated.blogspot.com/2005/10/antiques-time-gold-and-bit-gold.html — Nick Szabo, 2008

[4] https://unenumerated.blogspot.com/2005/12/bit-gold.html — Nick Szabo, 2008

[5] The Bitcoin Standard: The Decentralized Alternative to Central Banking — Saifedean Ammous, 2018

[6] https://necsi.edu/power-law

[7] http://fractalfoundation.org/OFC/OFC-10-4.html

付録 — 冪乗則の例

Kepler (諸惑星)

Richter (地震)

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