ヤドカリプロジェクトの収支を振り返りつつ、金融機関と建築や地域の関わりについて考えています。
少し長いですが、経営や建築をやっている全ての人に読んでほしくて書きました。長々と読んでくださったら、ありかとうございます。
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下のグラフは、ヤドカリ第一弾「がんばり坂の家」の収支を視覚化したものです。
支出に対する収入は122.7%となっていて、改修関連の補助金による後押しにまだ助けられてはいるものの、当初目標の「利益率25%」に近いところまで来ています。
一方で、たった数%の差とはいえ、22.7%と25%では1割近い差があるとも言えます。(設計料が工事費の10%と11%では、設計者にとって大違いなのと同じ)
この差の要因として、当初予算に計上しそびれていた売却時の仲介手数料と融資関連コストがあります。
古橋さんの仲介のおかげで素晴らしい買主さんに引き継げたので、仲介手数料が有意義なコストであることは疑う余地がありません。
一方で融資については、「キャッシュが手元にあるなら次は融資使わない方がいいかな」とも思いました。
ただ、いまはやはり金融機関と協力して進める方が良いのかも、とも思っています。
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今回、売却にあたって気づいたことがあります。
ヤドカリプロジェクトのゴールは「買い手がつくこと」だと思っていたんですが、必ずしもそうではないということ。
こちらが設定した売値で「買いたい」という人が現れればゴールだと思っていたんですが、住宅ローンを使うケースでは金融機関が決定権を握っているわけで、しかもそういうケースが大半と思われます。
噛み砕いて言うと。
住宅ローンを組めるか金融機関が判断するにあたって、物件の担保価値が評価されます。僕が設定した売値よりも金融機関の評価が低ければ、ローンは組めず「売れない」となります。
そして、金融機関が評価する担保価値とは、万が一の際にその物件を処分して債権回収できるかどうかであって、即ち「売りやすいかどうか」。
たった一組の買い手の心に響けば良いと思って自由に設計したプランも、「ワンルームだからファミリーに売れない」だの「変な間取り」だの言われて評価が下がる…
極端に言えばそういうことで、金融機関に理解がなければ実際にそうなりかねません。
ヤドカリプロジェクトをビジネスコンテストで最優秀に選んでくれた某信金さんでさえ、「中古住宅は改修しても高値をつけるのが難しい」などと言う始末。そこを変えていこうというところを評価して最優秀をくれたはずなんですが?苦笑
そうおっしゃったのは新たに異動してこられた支店長でしたが、大抵の方はその程度の認識なんだろうなと思いました。
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ふざけんな二度と融資なんか使わんわと思いつつ、でもここを変えていかないと始まらないのかもとも今は思います。
たぶんこれはヤドカリの話だけでなく、建築や都市に対するあらゆる投資、さらに言えば、融資を必要とするあらゆる事業に同じことが言えるはずです。
都市形成の小さくない比重を金融機関の判断が担っているのだとすれば、金融機関の理解なくしてよいまちが作れるはずがありません。
問題は、誰が「金融機関の理解を育むことができるのか」。
建築家や大学教授がいくら説いても、理解のない土地柄の金融機関にとっては馬の耳に念仏でしょう。お金を借りてくれない人は、彼らにとってステークホルダーではないのだから。
翻ってこれこそが、建築家が投資するヤドカリプロジェクトの本当の意義のように思えてきました。
投資して、お金を回して、信頼を高めることで、金融機関の理解を育み協力して、まちのベクトルを変えていく、そういうことに興味が向いてきました。
…浜松を牛耳るっていうのは、そういうことだと思うんだよな。
一歩も引く気はねーぜ。
(by 流川楓@豊玉戦)