サイエンスアゴラ2010(1)

サイエンスアゴラももう5回目を数える恒例イベントとなった。私は3回目から毎年行っているが、今年は期間、場所とも少し規模が縮小されていた。昨年は4日間だったが、今年は3日間。しかも1日目は午後の開幕シンポジウムのみだったので、実質的には土日の2日間だ。私は土曜の終日と日曜の午前だけ見に行った。会場は昨年と同じ東京国際交流館、日本科学未来館、産総研臨海副都心センターの3つだが、未来館はジオコスモスのあるシンボル展示ゾーンが改修中で使えないため、昨年より会場面積は減っていた。それに伴ってか、展示ブースの数も昨年より少なく感じた。特に企業ブースがほとんど見当たらなかったのが印象的だった。不況の影響だろうか。予算も縮小されているのだろうか。客足も、日曜日はそれなりにあったものの、土曜日はそう多くは感じなかった。昨年は4日間に薄まって少なかったのかと思っていたが、実質2日間になった今年もそんなに変わっていないように見える。ちなみに、朝10時に未来館の入り口に行列ができていたのは、サイエンスアゴラではなくドームシアターか何かの整理券の列だったようだ。サイエンスアゴラは最近事前予約制のイベントが増えてきているような気がするが、こうした言わば「通りがかり」の人が飛び入り参加できる企画をもっと増やす、というか復活させるべきではないだろうか。今年のプログラムは時間ごとに分けられていてとても使いやすいが、唯一の難点は事前予約制かどうかが分からないことだ。行ってみて「事前予約制です」と門前払いされたのでは悲しい。ただ、私が事前予約して参加したイベントに限って言えば、どれも会場の席にはかなり余裕があったけど。去年までは行くと毎日かわいいバッジがもらえたのだが、今年はちょっと味気ない首下げカードで、2日連続で使うものだった。このカードは1日毎に一部を切り離して回収箱に入れる仕組みになっており、参加者の属性や同じ人が連続してきたかどうかといった情報も集めることができるようになっていた。今回良かった点は、食べ物の移動販売車が営業していたことである。これは食べ物の調達場所の少ないこの地区では大好評だったようで、昼時には行列ができた車もあった。グライダーや太陽観測といった屋外企画の存在もアゴラらしくて良かったと思う。
 
20日の午前中は「サイエンス・プレゼンテーションコンテスト」の「語り部門」を見た。このコンテストを見るのは今回が初めてで、とても楽しみにしていたのだ。ゲスト審査員にはサイエンスコミュニケーション界のスーパースター、IPMU機構長の村山先生も入っておられた。6人の出場者と2人のゲストによるプレゼンが行われた。スライドは使われなかったが(たぶんそういうルールなのだろう)、紙や小道具などを使っている人もいた。どのプレゼンも大変素晴らしかったが、中でも優勝した方のプレゼンには、内容以外にいろいろと参考になる要素があった。内容は、宇宙において地球型惑星の存在が奇跡かどうかという話だった。風船を太陽、地球、木星に見立て、太陽系外で見つかっている惑星のほとんどが恒星のすぐ近くを高速で公転する木星型惑星であるということをビジュアル的に大変わかりやすく説明されていた。村山先生もコメントされていたことだが、多くの出場者が既知の科学的知識を紹介しているのに対して、このプレゼンは「現在何がわかっていないのか」を教え、考えさせてくれるものだった点、また、本番中に風船のひもがからまってしまうトラブルに見舞われたが、その最中にも地球について説明を続けるといったスキルは大変素晴らしかった。2人のゲストは英語のプレゼンを行った。日本語と違う点は、英語ということで、質問を交え観客の理解度を測りながら話していたところだった。出場者の方々を見ていて思ったのは、こういうのには個人のキャラクター(スキルだけでなく、外見とか声や話し方など)による向き・不向きもあるのではないか。こういう才能のある人を発掘して育てるのが重要なのは言うまでもないが、それと同時に必ずしも全ての研究者や教育者ができる必要はないのではないか、と。来年は実演部門も見てみたい。
 
20日の午後は、2つの本部企画「本当の科学のハナシ、誰から聞けばいいの?」と「科学の料理の仕方~メディアの仕掛け人が教える科学の特別レシピ」を聴きに行った。前者は、タイトルは「誰から聞けばいいの?」となっているが、実際には「誰がすればいいの?」と言ったところだろうか。すなわち、研究者がサイエンスコミュニケーションをすべきなのかとか、何をどれくらいすればいいのかといった研究者の本音、悩みを語り合うという企画だったのだ。初めに、IPMUの村山先生の基調講演が行われた。村山先生の講演は何度か聴いたことがあるが(本当にいつも素晴らしい)、宇宙や素粒子の話ではなくサイエンスコミュニケーションの話を聴くのは初めてだった。村山先生はアメリカではNSFの要請により議会向けの資料を作成したり、その他にも様々なサイエンスコミュニケーション活動を行ったりしてきたが、NSFが研究者に義務付けている活動というのは、我々が普通考えるサイエンスコミュニケーションよりも広義のものであるらしい。例えば学校の教材を買ってあげるなど、お話をする以外にもいろいろな方法が認められているそうだ。日本でも一部の研究者のアウトリーチが義務付けられることになったが、先に書いたように全ての研究者が一般向けのプレゼンスキルがあるわけではないのだから、いろいろな方法を認めてあげても良いのではないだろうか。また、村山先生のお話で、サイエンスコミュニケーションをする理由はいろいろあるが、結局自分の研究内容を教えたいという素朴な気持ちがなければできないという趣旨のことをおっしゃっていたのが強く心に残った。次に、サイエンスコミュニケーションへの関わりの深い研究者や研究機関の広報担当者によるパネル討議が行われた。
 
 パネリスト
 浅川真澄(産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センター 研究チーム長)
 大木聖子(東京大学地震研究所広報アウトリーチ室 助教)
 大河内直彦(海洋研究開発機構 プログラムディレクター)
 岡田小枝子(理化学研究所広報室 主査)
 福田公子(首都大学東京理工学研究科生命科学専攻 准教授)
 モデレーター 
 室山哲也(NHK解説主幹)
 
パネリストからは、研究が本務なのでサイエンスコミュニケーションをする時間がなかなかとれないとか、そうした中でどれだけサイエンスコミュニケーションに時間を割けば良いのかといった悩みが出された。また、マスコミ相手で伝えたい内容がうまく伝わらず論点がずれてしまったりといった苦労話もあった。結局、この討議で結論らしきものは出なかったと思うが、興味深かったのは、モデレーターの室山さんが板書で図示した研究者と市民の距離の話。特に文系出身のマスコミは市民の近くでお茶を濁すようなことをしていて、なかなか研究者本人に聞きに行こうとしない。研究者の側は研究に忙しく市民の側に行って話をしようとしない。ここにコミュニケーションの断絶があるというのである。なるほどと思った。きっと、その間を埋めるのがサイエンスコミュニケーターなのだろう。ただ、ここで「コミュニケーター」と言うとかなり意味が広い(研究者自身から理科教師、マスコミ、ライターまで、科学に関わるあらゆる人を含む)ので、村上陽一郎先生が言うような「メディエーター」とでもした方が良いのかもしれない。そういう意味で、大木さんや岡田さんのような立場の方が重要になってくるのだろう。ちょっと話はそれるが、大木さんは地震分野という性質上、市民の関心をなんとか引きたいという普通のサイエンスコミュニケーション関係者とは若干異なり、「地震はいつ来るのか」といった、何もしなくても関心は高いがベクトルがちょっと違った市民からの要求に答えなければならないという特殊事情がある。私も現在似たような分野に身を置いているのでこうした事情はよく分かるのだが、サイエンスコミュニケーション関係の議論でこうした話が出るのは割と珍しいのではないか。
 
午後の2番目の「科学の料理の仕方~メディアの仕掛け人が教える科学の特別レシピ」は、今度は研究者の対極側(?)にいるマスメディア関係者によるトークイベント。先程の討議の中で科学者側からマスコミが事実を曲解してしまうといった話もあったが、こちらに出ている方々はマスメディアの中でも科学系コンテンツを作ることを専門としており、ニュース記事を書く記者とは少し立場が異なると考えて良いと思う。
 
 パネリスト
 井上智広(NHK 科学・環境番組部専任ディレクター)
 菅本裕久(静岡新聞社「静岡かがく特捜隊」担当)
 樋江井彰敏 (TBS 飛び出せ!科学くん」担当プロデューサー)
 湯本博文(学研 科学創造研究所所長)
 ファシリテーター
 内田麻理香(カソウケン、サイエンスコミュニケーター)
 
どんな特別レシピなのかというと、結果よりも過程を大事にとか、脳を喜ばせるような話にといったことだった。なぜそうなるのか、どうしたらこうなるのかといった疑問を追いかけていく過程そのものを見せる、追体験させるということが大事なのだそうだ。また、先の話とも通じるが、専門家とのコミュニケーションを大事にすることも必要とのこと。もちろん言うほど簡単にできるわけではなく、いろいろな失敗や苦労もそれぞれされているようである。会場では実際にそれぞれの方が作られた番組や新聞、教材の実演もあり、実際楽しかった。百聞は一見に如かずである。また、サイエンスコミュニケーターとして大変有名な内田さんであるが、今回は完全に進行役に徹しておられ、パネリストの話を引き出すファシリテーターとしても大変有能な方だということがよく分かった。
 
(つづく)

ブログ「たまには地球(した)を向いて歩こう。」2010.11.20より再掲

One clap, two clap, three clap, forty?

By clapping more or less, you can signal to us which stories really stand out.