予想ほど暖かくなかった始生代の海洋

従来、先カンブリア時代の気候を調べるために、チャートに含まれる酸素の安定同位体が使われてきた。海底では海水と化学平衡の状態で岩石が形成されるわけだが、その際に岩石に移動する元素の同位体(元素名は同じでも原子核に含まれる中性子の数の違いにより区別される質量の異なる元素のこと)の比率は温度に依存するとされている。そうした推定によると、約35億年前の始生代の海洋の温度は55度~85度だったと考えられてきた。これは、当時の生物全般が、現在海底熱水や温泉地帯などに棲む生物のように、熱に強くなければならなかったことを意味する。しかし、実は同位体比は温度だけでなく、海水の化学組成によっても変化する。従って、もし原始海洋が現在の海洋と化学組成が異なっているとしたら、酸素同位体比の解釈には不確実性が残ることになる。当研究では、現代と古代のチャートの比較検討から、酸素同位体比と水素同位体比を組み合わせるという、別のアプローチが採用された。その方が、酸素同位体比単独の場合よりも、より強い制約条件をはめることができるからである。南アフリカで採集された34.2億年前のバック・リーフ・チャートの酸素同位体比と水素同位体比を分析した結果、高くても約40度の水中で形成されたと推定された。地球化学的証拠及び堆積学的証拠から、バック・リーフ・チャートは浅い海から深い海にかけて形成されたと考えられる。従って、当時の海洋が一様に、これまで考えられてきたよりも冷たかったことが示唆される。これは、熱水環境では生存できない生物も生存できた可能性を示唆している。また、分析結果から、当時の海水の化学組成が現在とはかなり違っていて、軽水素が多かったことも示唆されている。海水の組成が違っていたら、おそらく大気の組成も違っていただろう。34億年前から現在にかけて、海洋は軽水素を大気中に放出し、現在の同位体比になったのだろう。そして大気中に酸素が蓄積されると、水素は宇宙空間に追い出されたのだろう。こうした推論は、最近の初期地球の大気モデルとも一致するという。
 
M. T. Hren, M. M. Tice & C. P. Chamberlain, Oxygen and hydrogen isotope evidence for a temperate climate 3.42 billion years ago, Nature 462, 205–208 (12 November 2009) | doi:10.1038/nature08518
 
http://www.nature.com/nature/journal/v462/n7270/full/nature08518.html

ブログ「たまには地球(した)を向いて歩こう。」2009.11.12より再掲

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