第1回 サイエンスカフェ 宇宙 2010

多摩六都科学館は交通の便があまり良くないが、それでも来た甲斐があったと思う。
 
去年に引き続き、今年も東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の「サイエンスカフェ 宇宙」に参加した。初めに言っておくと、これは「サイエンスカフェ」とは名乗っているものの、別物と考えた方が良い。まず、人数が80人と多すぎる。これでは限られた人しか質問できない。それから、会場の人口密度が高く、パイプ椅子しかない。これでは飲み物が飲みにくいし、休憩時間中の移動もしにくい。さらに、会場が窓もない講堂で雰囲気が固い(会場は去年の休憩室の方が明るく暖かい雰囲気で良かった)。これではリラックスして話が聞けない。強いて言えば、自由に飲んでいい飲み物が置かれてある一般向け講演会といったところか。でも、講演会としては大変良かったということは強調しておきたい。また、参加費が無料の上、多摩六都科学館の入館料はIPMUが全額負担してくれるのも大変嬉しい。
 
まずは、その内容について簡単に紹介しておこう。今年は3回シリーズとなっており、今回はその1回目だ(去年は5回シリーズだった)。今回の講師は杉本茂樹教授で、タイトルは「ひも理論の奇跡 ー究極の物質像をめぐってー」。ひも理論の一般向けの話を聞いてみたいと以前から思っていたので、とても嬉しかった。昔「エレガントな宇宙」という世界中で売れた一般向けの本を読んだものの、あまり理解できなかった。杉本先生はまだ30代の大変若い教授で、穏やかな口調の紳士的な人だという印象を受けた。スライドの絵やアニメーションなどは、大変わかりやすく工夫されている。前半は素粒子の理論の復習。「物質が何でできているか」という根本的な問いに対して、人類は原子からクォークに至るまで予測や発見を繰り返してきた。しかし素粒子も1種類でなく数種類あるとか、重力を含む理論ができていないなど、まだ「究極の物質像」が完全に理解されているわけではない。そこで後半では、「究極の物質像」の候補として「ひも理論」が登場する。素粒子を「点」ではなくて「ひも」として見ると、同じひもでも振動のしかたによって異なる性質を示す。これならば、従来の素粒子論では複数種類あると考えられていた素粒子が1種類のひもで説明できるのではないか、というのがひも理論である。楽器の同じ弦から違った音が出るのと似たようなものだ。従来の素粒子論では、力は素粒子のキャッチボールによって媒介されていると考えられているが、ひも理論では物質と力を統一的に取り扱うことができる。また素粒子論では扱えていない重力も、ひも理論では自然に含まれていることがわかった。こうしたことから、ひも理論は「究極の物質像」として期待されているのである。さらに、ひも理論からはこの世が10次元であることや、ひも理論と素粒子理論が実は同じ理論かもしれないといったすごい話も出てきた。最後に、ひも理論が単なる理論だけではなく、実験との比較も行われている例として、杉本先生自身の研究成果が紹介された。それによると、ある素粒子の物理量がひも理論に基づく計算結果と実験結果がよく一致しているとのこと。これに対しては、従来の素粒子論と比べて一致しているのか、という鋭い質問も会場から出てきたが、杉本先生は率直に、ひも理論の計算はまだまだ始まったばかりで、歴史も長く、大勢の研究者がスパコンで精密に計算しているような素粒子論の計算には及ばないことを認めていた。ともかく、ひも理論はすごい、ということがよく分かった。
 
内容は上の通りだが、今回、運営面についても考えさせられたのでちょっと触れておきたい。今回、会場からの質問ルールについては、途中で随時していいのか、後でまとめてして欲しいのか、事前に何ら案内がなされなかった。そのため、常連のJ氏(お名前を存じ上げないので仮にこう呼ばせて頂く)が好き放題に質問・発言をしてきた。それも、内容に対する質問というよりは、根拠のない持論を延々と展開するだけのものであった(根拠がないことは当人も認めていたが)。杉本先生は大変真面目に付き合っていらっしゃったが、会場の空気が悪くなっているのは明らかだった(「先に進めろ」という声も飛んでいた)。おまけにJ氏は「先生、研究者同士で議論するのもいいけど、たまにはこうして市民と議論するのもいいだろう」などと得意気だった。前半から後半途中にかけてはそんな状況が続いたが、さすがに運営者側もまずいと思ったのか、後半最後の質問タイムでは「耳の聞こえにくい方もいらっしゃるので質問はマイクを渡されたときのみ」「まだ質問していない人を優先」というルールを徹底させ、J氏の封じ込めに成功した。これにはさすがのJ氏も手も足も出ず、講演終了後に個人的に質問していたようだ。なお、終了後には質問者の長い列ができていた。こうした状況は、聴衆の関心の高さを示しているとも考えられるが、やはり人数が多すぎることに根本原因があるのではないだろうか。
# お断りしておくと、J氏を個人攻撃したいのではなく、運営について感じたことを言いたいだけです。
 
最後にいくつか。今回冒頭挨拶されていた、多摩六都科学館の館長は元NHK解説委員の高柳雄一さんで、NHKジュニアスペシャルでは「宇宙博士」として出演したことでも有名である。また、多摩六都科学館では現在「ナイスステップな研究者展」を開催中で、これも大変興味深いものだった。
 
http://www.ipmu.jp/ja/node/525

ブログ「たまには地球(した)を向いて歩こう。」2010.01.30より再掲

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