イギリス政府における政策のデザインとその事例

Masafumi Kawachi
6 min readFeb 26, 2017

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先日、上平先生が主催した「デザイン思考”以後”とクリエイティビティの行方」というイベントに参加してきました。

デザイン思考の普及に伴い、デザイナーだけがデザインする時代じゃなくなってきました。ただ、普及したものの社会全体においての進展というものはどうだったのか?と立ち戻り、普段語り得ぬ問いを批評的に投げかけていいくことで、今後の社会を形作るためのデザインの手がかりを描いていこうというのが主旨だったと思います。

個人的には、新しい視点や気付き自体があったかと言われるとおもったよりそうでもなかったんですが、いくつか新しく知った事実や、自分がもやもやしていたことに改めて向き合うべきだと感じられたことは良かったなあと。

その中で、慶応大学の経済学部教授であり、サービスデザイン論を研究している武山先生は、サービスデザインがビジネスからパブリックセクターへと広がっているというのをテーマに、イギリス政府におけるサービスデザインの導入についてお話されていました。そこまで日本と差があるのか、、となかなか衝撃だったためにゆるく紹介できればと思います。

政府におけるサービスデザインの導入

イギリス政府では、政策をデザインする中での探求と学習をPolicy Labという実験機関を設けて行っているそうです。そもそも政策を設計するのに、デザインが必要だと感じている人が多いそう。背景には、財政資源の不足や国民からの信頼性の回復、複雑な構造的課題の解決などがあるのですが、改めて国自体がデザインというものを広義に理解しているのだと感じました。

政策への導入といってもいきなり行うのではありません。やはり政府全体にそうした価値の共通理解があるわけではなく、まずデザイナーを雇用して小さく始めることで効果を検証しながら、徐々に政府内部に啓蒙を広げていき、促進していくという段階的な進め方だそうです。サービスデザインアプローチを導入していくこと自体が、リーンかつ反復的に進められているのが流石です。

要は、デザインの導入」のデザインが必要なわけです。これは企業においても勿論同じで、もしあなたが組織に波及させる立場であればまず最初に似たような課題感を強くもっている人はだれなのか?といったアーリーアダプターの仮説を立てたり、ステイクホルダーの構造を見抜いて戦略的な立ち回りをしたり、彼らの関心や何を求めているのかを調査しながら進める必要があるのかなと個人的経験から感じています。(おすすめの参考書:「Web製作者のためのUXデザインをはじめる本」)

また、最初の実験をPolicy Labという実験機関として独立して切り出したのが非常に有効というのも1つあります。これは大企業内の新規事業が上手くいかない理由でも多いのですが、既存のカルチャーの影響を強く受けてしまう結果、学習ではなく成果(費用対効果)を最初から追い求めてしまう失敗を許容できなかったり、そのせいで意思決定にぶれが出てしまう。

それを独立させることで、干渉を抑えながら独自のカルチャーを形成していくことができます。そのようなデザインが出来る場自体をいかに創ることができるか?も重要ですね。ここらへんに関しては、「リーン・スタートアップを駆使する企業」という本に詳しいです。

Policy Labのホームレス化を防ぐための実験

では実際にPolicy Labではどのようなことが行われているのか、というのが気になったために、簡単に事例を調査してみたところ「Preventing homelessness」というこちらの記事を見つけました。「私たちはどのようにホームレス化を事前に防ぐことができるのか?」という問いです。この問い自体が素敵でして、ホームレスを減らすではなく防ぐ、というのが良いなと。要は、起こっている問題を解決するために、問題が起こらないようにするということです。

上記の記事には詳細はそこまで述べられてないので、概要しか紹介できないのですが、進め方としてはまず写真を使ったエスノグラフィが紹介されています。チーム全員、もちろんホームレスについては知っているものの、ホームレスを実際に経験したことがある人はほぼいなかったために、リアルな実態や彼らの気持ちを知り、Build Empathyする必要があったと。

実際の光景を観察しながら身体性を通して経験を記憶させることは非常に重要だなと感じます。かつ、ホームレスの生活世界を切り取った写真という物理的存在が、その記憶を蘇らせる引き金にもなり共感性を保ちやすくなると思いました。勿論、実際に実験をしているチーム外の、政策策定の担当者にもそうした共感を呼び起こしやすくなります。

そうした調査から、ホームレスになるリスク要因として、児童虐待、財政的困難、精神的不安などが今まで挙げられた要因に確信がもてたと共に、レジリエンスや相互互助のネットワークの不足など新たな要因も見えてきたそうです。

その後の課題のフレーミング/リフレーミング及びプロトタイピングから見えてきたのは、「人々がホームレスになりそうな状況にさらされていることを発信し助けを求められないこと」でした。例えば、ホームレスという言葉自体が汚名的な意味合いを含んでいるために、周囲の人に言い出しづらかったりというインサイトが発見できたそう。そこから、その次の方向性として地域においてそうしたサービスをいかに作っていくか?という議論が生まれてきたそうです。その後の動きが気になります。

政策のデザインからみる気付き

政策ってかなり大きな話だけれど、結局は社会をよくしていくために行うことで、その構成要素は人なんですよね。政策自体が不適切だと感じることは多々あり、往々にして政府側が自身のメンタルモデルにのみ基づいた勝手な意思決定になっていたり、課題をシステム的に捉えられてないケースが非常に多い。イギリス政府のこの実験的取り組みは非常に素晴らしいと感じました。

一方で、現状はPolicy Labは学習を軸にした探求的な営みを中心にしているものの、実際の政策を人間中心的にデザインすることを考えると、どのように反復的に仮説構築とその評価を繰り返しながら設計できるのだろうか?というイメージがソフトウェア領域が中心の今の私には湧きませんでした。

政策にもよりますが評価スパンが非常に長きを要するのが基本だろうし、ソフトウェアのように素早く改善できるわけではなさそう。そうなると、前提となる意思決定の仕組み自体もワークするには必要だろうなあとか、簡単に政策の修正ができないのであれば、リサーチと事前の検証は出来る限りの精度を担保する必要があるんだろうなあとか。そんなことも考えさせられました。

ただ、個人的にこの取組事例を知ることで、業界のデザイナーにとっては視野が少し開ければいいなあとも感じていますし、私自身は非常にこうした取り組みをやってみたいなと強く思いました。

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