彼女の色ぬり
彼女はいつも紺か白の服を着ている。
歩くことが好きで、規則正しく生活している。よく笑うけれど口数は少ない。
そんな彼女が少し前にぬり絵を始めた。
きっかけは、「絵を描きたくなったけれど、絵心がないから色をぬることにした。」ということらしい。
ぬり絵選びに一緒について来た友人は、真剣に吟味する彼女を見て、
「生活の中で何かが欠落してるんじゃない。」と言った。
友人の言葉に彼女は、
「ただの趣味だよ。」と心の中で思った。
一人暮らしの部屋のテーブルに、買ってきたぬり絵の本を置いた。
色鉛筆は8色しか持っていなかったので、少し面倒だったけれど絵の具を使うことにする。
1ページ目を開くと、白黒の絵がドシンと現れた。
彼女の性格上、完成した全体像をイメージするのは難しかった。少し考えて、「とりあえず青を塗る。」と決めて建物の屋根を塗ってみた。
塗り始めてしまえば、あとは好きな色の組み合わせを考えながら、白黒のページをカラフルにするだけの作業だった。
塗れば塗るほど、余白の部分が気になってしまう。気持ちが急くことなんて、彼女にとっては久しぶりのことだった。
頭に浮かんだ色をパレットに作っては、余白を埋めた。色は紙の上に現れるけれど、彼女はどんどん前のめりに、自分の内側へ内側へと入っていくような感覚を味わった。
数日後、出来上がったものを友人に見せるときは、糸がピンと張りつめたような気持ちになった。
しかし、友人が褒めると彼女の顔はほっと和らいだ。
不思議と、心の内をさらけ出すような気分になっていたようだ。
「なるほど、友人が言っていた欠落とはこのことか。」と彼女は初めて納得した。
友人は、
「カラフルな色合いがあなたの雰囲気と違って驚いた。意外と才能あるんじゃない。」と言った。
「ただの趣味だよ。」と彼女は言った。
そして、
「褒めてもらえて嬉しい。」と小さく笑って付け加えた。