コミュニティとジェンダーの話

Mami Enomoto
9 min readAug 22, 2017

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(この記事は、State of the Map 2017のジェンダー・ダイバーシティを扱うセッションでのSelene Yang Rappaccioliさんの発表と議論がもとになっています。This was originally given a talk and discussion at State of the Map 2017. Special thanks to Selene for sharing the story. and thanks to SotM for having a safe place for us to discuss about the issue.)

世界のOpenStreetMapのユーザーやマッパーが集まるカンファレンスState of the Map に参加しました。OpenStreetMap(以下、OSM)は、みんなで自由な地図を作ろうというプロジェクトです。地図は、オープンなライセンスの下で誰でも自由に利用できます。この地図を作る人のことをマッパーと呼びます。

年に1度の国際カンファレンスが、8/18–20の間、会津若松で開催ということだったので行ってきました。直前まで参加を迷っていたのだけれど、期待以上の学びや出会いと体験を得ることができて、参加できて本当に良かったです。参加を後押ししてくれた方々に感謝しています。そして、素晴らしいスピーカーの皆さん、運営して下さったスタッフの皆さん、温かいおもてなしと気配りをして下さった会津若松の皆さん、OSMのコントリビューターの皆さんへの感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

さて、カンファレンスでは、「Role and participation of women in OSM: How GeoChicas was created」というタイトルで、ジェンダー・ギャップをテーマとしたセッションがありました。発表者のSelene Yang Rappaccioliさんの許可を頂いたので、セッションの内容を紹介したいと思います。

セッションは、GeoChicasのSeleneさんの発表を中心に、セッション参加者とのフリーディスカッションを織り交ぜながら、ワークショップ形式で進められました。セッションの参加者は約20名。うち、日本人が半数、海外からの参加者が半数。男性と女性の割合も、ほぼ半々といった感じでした。

Selene Yang Rappaccioli, GeoChicas

GeoChicasは、ラテンアメリカで活動している女性のOSMコミュニティです。主な活動内容は、マッピングパーティの開催、女性やジェンダーに関するWikiページの翻訳、カンファレンス等でのジェンダーをテーマとしたセッションの企画や登壇です。

マッピングパーティとは、街を歩いて、テーマに沿って地図情報を集めたり、興味深いスポットや発見を地図に描いていくイベントのことです。

GeoChicasの活動が始まって、たった10ヶ月程度のうちに、彼女たちの活動はラテンアメリカの各国に広がっています。

OSMの活動に参加する女性は、全体のたった3%

OSMの活動に参加している女性の比率は3%と圧倒的に少ない状況です。この数字は2011年のものなので、女性の参加者は徐々に増えていると思います。とはいえ、その増え方はまだまだ限定的です。なぜこのような数字になるのでしょうか?

男性が主導権をもったコミュニティであることは、認めざるを得ない事実です。例えば、OSM財団の理事会メンバー7人のうち、女性は1人です。

Seleneさんが、「理事会の女性比率以外にも、意思決定の場にジェンダーバランスが欠けているシーンは他にもないだろうか? 」と問いかけたところ、会場から意見が出されました。

例えば、カンファレンスのセッション内容は投票で決められますが、投票の権利を持つメンバーの女性比率は低いものです。そうなると、もちろん誰も悪気がある訳ではないのだけど、無意識的に男性の視点から関心の高いセッションが多く選ばれてしまいます。女性が十分に興味をもてるカンファレンスになっているだろうか、と会場からも意見や疑問が挙げられました。

コミュニティや地図そのものに描写される女性の関心事

OSMはみんなで情報を集めて地図を作っていくプロジェクトですので、その参加にジェンダーバランスの偏りがあると、出来上がる地図情報にも偏りが発生してしまいます。

以下の図は一例ではありますが、売春宿や車の修理屋は多くのポイントが見られる一方で、チャイルドケアや助産院のポイントは僅かです。コンドームの自動販売機に関する情報はありますが、女性の生理用品の自動販売機に関しては情報が一つもありません。

左上 :売春宿 、 左下;チャイルドケア、 中上;車の修理屋、 中下;助産院、 右上:コンドームの自動販売機 右下;女性生理用品の自動販売機

これはOSMが本当に目指している地図でしょうか?
私たちの世界を表した地図でしょうか?

私達は、何をすべきか

Seleneさんは、女性の参加を増やし、より適切なコミュニティー運営をするために、以下のことが重要であると言います。

・女性自身が主導したプロジェクトや、女性にフォーカスを当てたプロジェクトを実施し、コミュニティーに参加する女性をエンパワメントすること
・OSMコミュニティーに参加する女性のネットワークを広げること
・OSMやその他Tech関連の活動において女性の参加を増やすこと
・女性の参加やその役割、意思決定の場への参画について、より多くの議論する場を設けること
・ コミュニティーに関わる全ての人にとってより適切なCode of Conductのあり方について議論すること

OSMでは、Code of Conduct(行動規範)が設けられています。しかし、Telegram(LINEのようなチャットアプリ)では、性的なくだらない冗談がかわされることがあり、女性を馬鹿にしたようなステッカー(LINEでいうスタンプのようなもの)が送られ、もううんざりしている、とSeleneさんは言います。OSMに限らず、多くのTech関連のコミュニティで似た経験をし、幻滅してコミュニティーを立ち去ることもあったそうです。このようなことが繰り返され、女性が去っていくようなコミュニティではいけない、と考え、GeoChicasの活動が始まりました。

Code of Conduct(行動規範)をより適切なものに変えていくことはできないのでしょうか?以前、これを話題にしたところ、「一部のフェミニストが過剰に反応しているだけで、無意味な議論だ」と言われることもあったと言います。

本セッションでは、これに対し、それぞれが実際のところどのように感じているのか、議論しました。

Code of Conductを変えるかどうかは別にしても、議論をすることに大きな意味があると考えている人は多いです。ただし、新しいコミュニティがCode of Conductのポリシーを作る場合とは違って、これまでの長い過去がある組織やコミュニティで、そのポリシーを変更し根付かせることは容易でないと感じている人もいました。必要性は強く感じながらも、実践していくとなると多少なり戸惑いや難しさも感じている方が多いようです。

では、私たちは何をしていけばいいのでしょうか。
「重要なことだと思うけど、実際に何をすればよいのかわからない」と、会場からも声があがりました。 Seleneさんは「私もわからない。誰も答えを持っている人はいない。あるべき姿に向かって進み続けるしかない。」と言います。

セッションの締めくくりとして、「まずすぐにできる事として、このスライドやセッションの内容をもっと多くの人にシェアしよう」という声が会場から上がりました。会場にいたそれぞれが声をあげ、ポジティブに前に進み続けていこう、そしてより良い地図を作っていこう、と。

…という経緯で、日本語で共有し発信したいと考え、ここに記すこととしました。セッションのスライドは、以下のリンクから見ることができます。

もちろん、これは、OSMのコミュニティーを批判するものではありません。私は、OSMのカンファレンスで、多様なバックグラウンドを持った参加者が集まり、このような議論がなされたことは、コミュニティにとって非常に有意義だと思いました。また、そのような議論に、OSM財団の重要な立場にいる方たちや日本国内でリーダーシップをとる方々が参加していたことに感動しました。

この課題は、OSMに限らず、シビックテックやTech関連のコミュニティの多くが抱えているものです。私達は、もっと腹を割った議論をすすめていかないといけないのではないでしょうか。

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Mami Enomoto

シビックテックしたり、DjangoGirlsしたり。aiboと遊んだり。