点をつなぐ ― Alice M. Greenwald( 9/11 メモリアルミュージアム・ディレクター)

アメリカ、バージニア州のエモリーアンドヘンリー大学で、「9/11 & Academy」というパネルディスカッションが 11月6日(金)、7日(土)の2日間にわたり開催された。このパネルディスカッションでは、全米から集まった学者が、それぞれの専門分野から「2001年同時多発テロ以後のアメリカ」を分析した論文を発表し、討論を行った。

キーノートスピーチに立ったAlice M. Greenwald 氏 ( 9/11 メモリアルミュージアム・ディレクター)は、「9/11メモリアルミュージアムの存在意義」について語った。 Greenwald 氏は「わたしたちの責任は、9・11に対して、丁寧かつ真摯に向き合うこと」と述べ、テロ当時の人々の記憶を大切にすること、そしてテロに関する教育の場を提供し続けることの意義を強調した。

未完成なアート

9/11ミュージアムは、一般的な博物館のもつ権威的な雰囲気を感じさせず、むしろ人々と共にアートを完成させるといった協調性を尊ぶ環境になっているという。ミュージアムには人々の「9/11テロの記憶」なしには未完成なままの作品が並ぶ。

ミュージアムに入場し、いちばん最初に体験するメディアアート「We Remember」は、世界中の人々が 9・11テロをはじめて知ったときの記憶をたどる。ミュージアムによって集められた7000件を超える音声データには、「信じられなかった」や「この世の終わり」といった当時の人々の差し迫った心情やありさまなどが、15ヶ国語もの言語で吹き込まれている。テクノロジーによって作り出された聴覚空間は、人々を9.11テロ当日へとタイムスリップさせる。

壁一面 が9.11テロ犠牲者の写真に覆われた「Wall of Faces」と呼ばれるウォールアートは、犠牲者の生きた人生に触れる空間となっている。来場者はウォールアートのそばに備え付けられたタッチパネルを操作し、遺族や友人によって吹き込まれた犠牲者ひとりひとりの追憶を聴くことができる。Greenwald 氏 は「どのように2753人の犠牲者がこの世を去ったかではなく、彼らがどのように生きたか。犠牲者の人間性を感じとってもらいたい」とウォールアートへの思いを語った。

Greenwald 氏は、人々の記憶を大切にする理由のひとつとして、「遺族に対するミュージアムの立ち位置」を挙げた。9・11テロでは、全体の6割以上の遺族が遺体を受けとることができなかった。「遺族の多くは、亡くなった家族に会いに行くお墓すらない。このミュージアムは彼らが訪れることのできる場所であるべき」と述べ、ミュージアムディレクターとして、そしてGreenwald氏自身の遺族への思いと敬意を垣間見せた。

点をつないで

9/11ミュージアムは、テロを体験した人々の記憶を大切した「過去」を想う空間であると同時に、教育的観点からはテロリズムの「今」を学ぶ場所でもある。

Greenwald 氏は、ミュージアムが今年11月4日に主催した「ISIS Online」という教育プログラムを紹介した。「ISIS Online」は、「What ISIS Really Wants」の著者で有名な、雑誌 The Atlantic 編集者のGraeme Wood氏と、プリンストン大学教授の Cole Bunzel 氏を招いた、ISIS がオンライン上で行う新メンバー勧誘の理解を深める教育プログラムである。

Greenwald氏は「今やISISのリクルーターたちが、オンライン上で簡単にイスラム教の女性たちを勧誘する時代になった。彼女たちはヒトラーのようなカリスマ的人物から、過激なイデオロギーを植えつけられている」とし、今この瞬間もテクノロジーを駆使し、進化し続けるテロ組織の脅威を説明した。さらに、Greenwald氏は「9.11テロ当時、国務省でアラビア語を話せた職員はたった1%だけ。アルカイダのことはよく知っていたが、本当の敵、脅威としての認識に欠けていた。注意不足だった」と当時のテロ警戒レベルの低さを指摘したうえで、「彼らの動向に目を向けないことは、テロを防ぐために重要なサインを見落とすことと同じ。小さなサインでも、見落とすことは許されない。過去から未来へと点をつないでいかなければ」と熱く訴えた。

終わらないテロと向き合う

オーストラリアのシドニーを拠点とする、グローバルシンクタンクのInstitute for Economics and Peaceが発表した「Global Terrorism Index 2015 」によると、昨年、世界93の国々で1万3370件のテロ事件が起き、3万2658人が命を落とした。この死者数は9・11の前年2000年と比べて9倍に上る。わたしたちは終わらないテロに、そして増え続けるテロによる犠牲者に対し、どのように向き合うことができるだろう。

フェイスブックのプロフィール写真でサポートを表明したり、発展途上国に盲目なメディアに失望することは、いずれもより多くの人々がテロと向き合おうとしている顕れだと、ポジティブに捉えることができるのなら、その次にできることを考えたい。

Greenwald氏のテロに「丁寧かつ真摯に向き合う」という姿勢にヒントが隠されているかもしれない。テロの「過去」と「今」の両方に目を向ける ― 犠牲者の生きた人生、遺族の思い、過去からの学び、そしてテロの現状、それら全てをつないでいく。ひとりひとりのテロに対する丁寧で真摯な思いや行動が、この終わりなきテロに終止符を打つのだと希望をもって向き合うことはできないだろうか。


Originally published at marikakatanuma.wix.com.