世界トップレベルの研究室に学ぶ輪講のやり方

Masanari Kondo
8 min readDec 18, 2018

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この記事はあくあたん工房Advent Callender の19日目の記事です.

こんにちは!そふらぼM2のこんちゃんです.来年からそふらぼでDをやります.D進は怖くない!

そふらぼ繋がりでひと枠いただきましたので,みんなの大好きな輪講について書いていきたいと思います.

はじめに

諸般の事情により,現在,メープルで表現規制に少々趣のある某国の某研究室にてvisiting researcherとして研究をしております.この研究室は,ソフトウェア工学の中ではトップクラスの研究室の1つであり,ポスドクも博士学生も多く在籍しており,The 研究室という感じです.そして,全ての所属学生,及び,ポスドクが,トップカンファレンス,トップジャーナルに論文を通す実力を備えています.今回はそこで行われている,配属されたばかりの修士学生への授業(タイトルは輪講ですが,実際は修士学生の授業です.輪講とした理由は後述)のやり方を見ていく事で,そふらぼの輪講に適用可能かを考えてみたいと思います.適用できれば,M1学生の戦闘力が53万くらいになると思います.

なぜ輪講としたか

修士学生のための授業なのですが,実際に受けている学生が,我々の研究室の修士学生と,ソフトウェア工学関連の別の研究室の学生のみであったためです.内容を考えると,他の分野の研究室の学生が参加することは難しいと思います.実際の内容も,修士学生の授業とは言い難く,輪講レベルでやる内容ですので,輪講としました.

授業内容

授業は1セメスター(10月から12月の2ヶ月間)の間に行われます.それぞれの学生に対して以下のタスクが与えられます.

  1. 1つの研究テーマに取り組み,ダブルコラムの10ページの論文を提出する.また,研究テーマ発表,中間発表,まとめ発表の計3回のプレゼンを行う.
  2. ソフトウェア工学関連の論文をプレゼン資料にまとめて発表(1–2本)
  3. 毎回の授業で3本の論文が紹介されるので,そのうちの1つの論文についてまとめ,批評,改善点を示した1ページのレポートを作成し,毎回の授業前に提出する.そして,授業でその内容に基づき質問し議論を行う.
  4. 3–4人程度のグループとなり,1つの論文の再現実験を行う.またこれについてのプレゼンを行う.

重要なことなのでもう一度言いますが,それぞれの学生に上の課題が与えられます.しかも,期間は2ヶ月です.

具体的にそれぞれの課題をみていきましょう.

1. 1つの研究テーマに取り組み,ダブルコラムの10ページの論文を提出する.また,研究テーマ発表,中間発表,まとめ発表の計3回のプレゼンを行う.

これは,与えられた研究テーマに対して実際に研究を行うタスクです.指導の担当として,ポスドク,もしくは,博士課程の学生が割り当てられ,1つの研究テーマに取り組みます.最終的に国際会議などのフォーマットでよく使われるダブルコラムの10ページの論文に仕上げる必要があります.ちなみに論文の期限は多少伸ばしてもらえるらしく,昨年受講していたある学生の談話によると,年末年始を生贄にすることで論文を1つ召喚した人が昨年はいたようです.

プレゼンも研究会のような形でかなりしっかりと行われます.授業に参加している学生の各研究室から,ポスドク,博士課程,修士課程の学生がやってきて,まさかりを大量に投げてきます.

このタスクの効果は,実際にポスドクや博士学生と共に研究を行うことによって,研究の進め方を学べる点にあります.特に,初めて研究室に配属された学生は,右も左もわからずに何をすれば良いのかで戸惑ってしまうことが多いと思います.しかし,このタスクを研究室に配属されたはじめに行うことで,以降の研究もこの授業で行なった研究の続きとして行うことでスムーズに進めていくことができます.

2. ソフトウェア工学関連の論文をプレゼン資料にまとめて発表(1–2本)

そふらぼで行われている輪講と同じようなものです.論文の紹介を行います.異なる点は,まず,発表時間が20分と厳格に決まっており,それに対しての議論時間が15分から20分取られている点です.そのため,後述する他の学生の批評,及び,質問にも対応する必要があります.そしてもう1つの異なる点は,単純に論文の内容を紹介するのではなく,その論文の新規性,contributions,驚くべき点,使用されている技術を用いてどのような応用が考えられるかを考えてまとめる必要がある点です.特に新規性を述べるためにその著者の他の論文,この論文に関連する論文を読むことを推奨されています(推奨の解釈は色々とあるかと思いますが,どう取るべきかは忖度が得意な日本人の皆様ならわかっていただけると思います)

このタスクの効果は,言わずもがなですが論文を読む力をつけることです.その割には1–2本と他と比べれば読む本数は容易な範囲に収まっていますが,関連研究を読むことを推奨していることからわかるように,1つの論文をしっかりと読む力を鍛えることができると思います.

3. 毎回の授業で3本の論文が紹介されるので,そのうちの1つの論文についてまとめ,批評,改善点を示した1ページのレポートを作成し,毎回の授業前に提出する.そして,授業でその内容に基づき質問し議論を行う.

2. の発表は毎回の授業で3回行われます.そのうちの1本に対して,批評,改善点などをまとめて授業までに提出をする必要があります(発表者は免除されます).また,これを元に,発表後の議論を行うことが求められます.

このタスクの効果は,論文を読んでその良い点悪い点をあげられるようになることと,発表の場で議論を展開できるようになることです.大変ではありますが,研究者として重要な査読の練習にもなりますし,学会での質問の練習にもなると思います.他の大学から教授が来てお話をしてくださった際にも,1つも質問が出ないということが無くなります.

4. 3–4人程度のグループとなり,1つの論文の再現実験を行う.またこれについてのプレゼンを行う.

これはそれほど大した話ではありませんが,グループに分かれて,指定された論文の再現実験を行います.研究者として,先行研究を再現して比較対象とすることは重要です.

簡単に書いていますが,どれほどのタスク量になるかは簡単に想像がつくと思います.ちなみに,初回の授業(内容の紹介のみ)では,クラスには座るスペースが一切ないほど学生が集まっていたそうですが,2回目以降は半分も埋まらなくなったそうです.当然ながら,単位を取ることを目的とした場合はコストパフォーマンスは最悪ですので...ただ,ソフトウェア工学研究者としての能力は鍛えられると思いますので,ここの研究室の学生はもれなく取ってグロッキーになっておりました.

そふらぼに導入できるか?

この記事の重要な点です.学ぶとタイトルにつけてしまっている以上しっかり書かないといけません.しかし,これをそのまま導入することは 正直難しいのではないかというのが本音です.M1の方々の1つのセメスターを完全に潰して,バイトも禁止にした上で,ポスドクもしくは博士学生を増やす必要があると思われます...なので,実現可能なタスクをあげてみましょう.

個人的な見解ではありますが,現在の輪講を少し拡大させる形で2と3を導入するのがもっとも良いと思われます.具体的には,

  • 発表者は論文の紹介だけではなく,その新規性を説明できるように関連研究も読む.
  • 発表者以外に2–3人ほど批評者を設けて,発表の準備をする必要はないが論文を読んで質問を2–3個あらかじめ準備させておく.

この辺りをB4,もしくは少し慣れたM1に対して1セメスターの期間(4月から6月,もしくは,10月から12月)だけ行う輪講です.そふらぼではそれぞれの研究内容が大きく異なるため,B4からD2まで全員で同じ論文を読むのは無駄が大きく,実現はなかなか難しいと思います.実際に,こちらの研究室では輪講は一切行われておりません.それぞれが大きく異なるトピックに取り組んでいるため,それぞれが必要な論文を読んで共著者,もしくは近い研究を行なっている人と議論をしている形です(それが簡単に全員できたら何の苦労もありませんが...)1セメスターに区切るのは,短期集中でしっかりとやってもらいたいからと,あくまでも研究の流れを掴むための下準備として行うのがいいのではと思うためです.

まとめ

色々と述べてきましたが,この授業は完全に研究者になりたい人向けとなっています.開発は好きだが研究はそれほどでもない人にとっては,おそらくあまり楽しくなくてしんどいかもしれないです.

それを考えると,導入するのはあまり良くないのかもしれないなとも思えてきます.

それでも,個人的には,2と3くらいはみんな頑張ってやってくれないかな...と思っていたり思っていなかったり...

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