confuse 混乱

この何か月か、ずいぶん混乱しながら過ごしていた。

「あなたは、なにかを書くことで気持ちの整理がつく人のようだから、混乱しているときは、なにか文章を書いたほうがいいね」とずいぶん昔にカウンセラーからアドバイスをもらっていたのだが、わかってはいるものの、とてもそんな余裕も気力もなかった。

と、書き始めると、重苦しい話がはじまってしまうと思われるかもしれませんが、そういうわけではないのです。

たしかに、何人かは困惑し、何人かは混乱し、何人かは不安を募らせ、何人かは…。でも、いったんそういうconfuseな不安定な状態は、最初の戸惑いフェイズからは先に動きだしたと信じたい。

ぼくの職場と自宅は北日本の大都市 千内市 にある。うちには4人女の子がいる。3人はすでに就職や進学で家を出ており、いまは中学3年生の受験生と、おくさんとぼくの3人で同居生活をしている。

ぼくの会社は千内市最大、いや北日本最大の企業グループだ。社員人数も多い。毎年50人くらい新卒の人たちが入社してくる。パート契約や派遣契約の人も多いし、正社員で働いていて、なにかの事情でいったん会社をやめ、また戻ってくる人も多い。

戻ってくる形は、正社員契約だったり、パートだったり、アルバイトだったり、いろいろだ。アルバイトからパート契約に、パート契約から正社員に、というケースも珍しくない。

ぼくは勤続30年。奥さんはぼくと同年代だが、会社のイベントでぼくと知り合い、結婚し、一旦会社を退職した。娘たちが大きくなってきたので5年前にパート契約で会社に戻り、2年前に正社員になった。入社2年目の女子社員である。これは偽りのない事実だ。

さて、春の人事異動で、大きな組織改変があった。ぼくの職場にも新しい風が吹いてきた。

ぼくの職場は20人くらいの組織で、派遣契約の人が7人、あとは部長さん、課長さん、係長さん、一般職メンバー。課はふたつ。ぼくは年寄りの方なので、部長さんのお手伝いをする役割だ。

正社員の半数以上が20代から30代前半の若い女性だ。ぼくのような初老の男は、ひっそりと仕事をしている。お昼だって、奥さんのつくってくれたお弁当か、コンビニで買った菓子パンを一人で食べている。

いまは学校は夏休み期間。

きょうはお盆期間でもあり、中3受験生の4女は進学予備校で自習して、お昼は友達と適当にたべるということでお弁当は不要。

奥さんもきょうはお客様のところに直訪。

ということで、朝出社前に「きょうはお弁当はなし!」と奥さんに宣告されてきた。お昼になったので、暑いけど仕方なく近くのコンビニにお昼の調達に出かけた。

適当に菓子パンとサンドイッチをみつくろって職場に帰ると、ちょうどうちの職場の女性陣がランチから帰ってきたところだった。まだお昼休みだったので、珍しく今年異動してきた新卒2年目の女性社員がぼくに話かけてきてくれた。

「お昼、いつもコンビニなんですか?」

「うん、コンビニだったり、お弁当だったり」

「お弁当って、コンビニのですか?」

「いや、奥さんがつくってくれるときはお弁当。そうじゃないときはコンビニ。」

「愛があるご夫婦ですねー。」

「いや、経済的な問題からお弁当なんだけど…。今日はランチで何食べたの?」

「パスタです。今日は暑いんで、みんなで冷製スープパスタにしました。」

「そっか。うちも長女がきみくらいの年回りで、営業に出ているから今日みたいな暑い日はたいへんだろうなあ」

「お子さん、女の子さんなんですか?」

「うん。入社2年目の社会人の長女、大学生の次女と三女、中学3年の四女だね。」

「長女さん、わたしと同期なんですねー。みんな女の子っいうのも、うちも一緒です。うちは3人女の子でわたし長女なんですよ」

「そっか。じゃあ、うちと同じだ」

「奥さまは、働いてるんですか?」

「うん。事業所は違うけど、会社は同じだよ。」

「えー?じゃあ、奥さまから社内メッセージが飛んでくることもあるんですか?」

「内線電話もかかってくるよ」

「きゃあ!素敵。それでお弁当もつくってくれるんですよね?」

「そうだけど。」

「奥さん、同じくらいの入社年度なんですか?」

「あ?いや、入社は2年目だけど?」

…彼女の言葉が止まり、表情が固まった。

しまった、話す順番を間違えた。

きっと彼女の中ではこんなイメージが膨らんでいることだろう

入社2年目。自分と同じ入社?

でも、お嬢さんが4人?

このおじさんの家庭って、もしかしてとっても複雑…?

…キーンコーン、カーンコーン

ここで午後の始業のチャイム。いかん、部長が帰ってきた。

いまのは僕の話の順番があきらかにまずかった。もちろん、世の中には彼女がいま思い描いているようなご家庭もあるだろうけれ…。ここでしっかり補足説明をしなければ…

今日は金曜日。きっと入社2年目の彼女は、自分の同期50人のうち半分の女性社員の中の誰かがぼくの奥さんなのでは?と、悩みながら週末を過ごしてしまうのかもしれない。

ごめん、ぼくの説明の順番がまずかった。週明けには、きちんと説明しよう。

ぼくの奥さんは、以前この会社で正社員として働いていて、ぼくと知り合い、ぼくらには4人の女の子がいて、奥さんはパート契約で会社にもどってきて、2年前に正社員になり、あー、そーか、たまたまきみと同期にもなるのか………

何人かは困惑し、何人かは混乱し、何人かは不安を募らせ、何人かは…。

(fin)*フィクションです。

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    晴れる屋 ウェザー

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