東南アジアの決済事情ってどうなのよという話

Masaharu UNO
10 min readOct 3, 2017

先日、FIN/SUMで東南アジアの決済状況について話す機会があったのでもしかしたら需要があるのかなと思い概観とどんな決済サービスがあるかを簡単にまとめてみたいと思う。銀行振込、クレジットカード、キャッシュ・オン・デリバリーなどは依然として大きな決済手段の一つであるが新しく出てきた決済手段を中心に紹介します。といっても、決済企業のOmiseに所属していると仕事柄タイ、インドネシア、シンガポールと接するの機会が多いのでこの辺りのお話。どうもどうも。

●市場の基本情報

個々の話をする前に参考までに日本の数字と比較しつつ、東南アジア市場のマクロ情報をまとめてみた。

パッと見て分かる通り日本のなんと老いたることか。この点は常々言われている通りだと思うし、日本が世界に先駆けて課題解決していくというのが大切だと思うので、この領域に挑戦するスタートアップがもっと出てきてもいいのではないかと思っている。さて、注目したいのは金融機関の口座保有率。日本にいるとお金は銀行に預けるのが当たり前であるが、東南アジアではけっこうな人が金融機関に口座を持っていない。インドネシア、フィリピン、ベトナムといった大きな人口を持つ国が金融機関口座保有率30%台という状況だ。ただし、東南アジア市場の傾向として多くの人々がスマホを持っている。これは彼らが携帯電話を持てるくらいの所得になった時にすでにガラケーではなくスマホが登場していたからだ。この点は日本との大きな違いでほとんどの人が手のひらにコンピューターを持っていることになる。しかし、プリペイドタイプのスマホを持っている場合も多くこの点も日本と違う点だろう。まだまだクレジットカードの普及率も低く、金融機関口座すら持っていない地域ではこのようにプリペイド携帯を利用することになる。

ちなみにデータにある「スマホ利用率」はGoogleのデータだが、設問が「以下のものから最も良く利用するものを選んでください」的な設問による数字なのでスマホ普及率ではなく利用率であることに注意。OS利用率は見ての通りだが、iOSとandroid以外だとblack berry や Windowsの利用があるようだ。

これにより東南アジアでは金融機関口座は持っていないけど、スマホは持ってるみたいなことがままあるらしい。後述するがこれに目をつけたモバイル会社がeWalletサービスを提供している。そう、スマホにお金をチャージしておけばむしろ銀行口座代わりになるって寸法です。

東南アジアの年間オンライン消費額

GoogleとTemasekのレポートによると東南アジアの年間オンライン消費額は 2015年の55億ドルから2021年に880億ドルに増加(12ページ)と予測されています。今後最も市場として大きくなるのはもちろん人口ボーナス期が到来するインドネシアだ。

●タイの決済

タイは東南アジア諸国でも最も早く成長した国である。日本企業も製造業を中心にいち早く進出しておりバンコクは日本の駐在員だらけだ。なんとタイに住む日本人人口は6万人を超えているらしい。在日日本人向けのサービスもあったりとそれだけで一つの市場にもなっている。

adyenのデータによるとオンラインでのクレジットカード利用率は20%。まだまだATM振込やキャッシュ・オン・デリバリーが多く利用されている。そんなタイではどんな決済手段があるかというと、、、

  • eWalletサービス

様々なeWalletサービスがあるが最も多く利用されているもののみ紹介する。

K +wallet

Bank系ウォレットでK bank(Kasikornbank) が提供するeWalletサービス

True money

通信会社のTrueが提供している。タイも日本と同じように大手キャリアが3つありその内の一角がTrueである。Trueはタイの最大財閥CPグループの配下にあるモバイル会社。私のイメージでは人に紹介する時は日本でいうSoftbankみたいな感じです。と言っています。True moneyが普及している理由の一つとしてタイ人いわくセブンイレブンで利用できることが大きいらしい。タイに行くとわかるのだがそこら辺にセブンイレブンがあり、タイのコンビニはほとんどがセブンイレブンだと感じる。セブンイレブンはCPグループの子会社が運営しているので、True moneyが利用できるのもそういった理由からだろう。

(CPグループはタイのセブンイレブンを買収しようとしていたそうですが、実施せずにセブンイレブン自体がインドネシア市場から撤退したそうです。)

  • Prompt Pay(プロンプト・ペイ)

Prompt Payは銀行口座間の送金サービスでこれを利用すればとても簡単に任意の口座にスマホから送金できる。利点としては

  1. 1バーツの送金から24/365で使える

2. 送金手数料が5,000バーツまでは無料

3. 参加行が多い

4. スマホで簡単に送金できるUI

5. to B(店舗)への支払いも可能

参加行が多い理由としてはタイの中央銀行がリードして始めたため、各銀行が率先して参加しているそう。

ソリューションは各銀行のアプリにPrompt Payが導入されており、ユーザーは自分の銀行アプリから送金先を指定すれば同行、他行の区別無しに送金できる。もちろんQRコードソリューションもあり、相手のQRコードを読み取ればそこに送金可能。多分、電話番号入力でも送金できたはず。

to B支払いに関しては現在は一部店舗のみの利用だが今後展開予定。eWalletサービスとの接続も始まっており、Prompt Pay経由でのチャージが可能となります。ワリカンサービス的にも使われ始めています。構想としてはバイクタクシーや、TukTukにQRコードを貼り付けキャッシュレスにしていく模様。

  • LINE pay

タイは世界で二番目にLINEユーザーが多く3300万人以上のユーザーがいます。しかし、LINE Payを利用しているタイ人は少ないそうです。確かにアクセプタンスを見たことが無いかも。

●シンガポールの決済

シンガポールは少ない人口ながらも、国の方針と地理的な面、英語が通じるという点からアジア進出を行っているグローバル企業のヘッドオフィスが多く存在している。金融面でもかなり進んでいてオンラインでのクレジットカード利用は80%ほどあり、日本と同様みんなクレジットカードを持っている国である。

  • eWalletサービス

Grab Pay

知っている人も多いと思うがバイク版Uberの「Grab」が提供するwalletサービス。Grabアプリに実装されており、Grabへの支払いだけでなく、Grab Pay導入店舗で日用品の購入などができる。同じバイクタクシーサービスとして「Go-jeck」があり彼らも同様にwalletサービスを提供しているがシンガポールではGrab Payが最も利用されているらしい。

EZ-link

他に交通系サービスに付随するwalletサービスとしてEZlinkがある。suicaなどのようにEZ-linkにチャージするだけでMRTなどの交通機関がチャージ金額内で利用できる。最初は交通機関だけでの利用だったのがコンビニ、スーパーマーケットなど利用範囲が拡大している。もともとは物理カードだったのがeWalletとしてアプリが提供されておりこちらでの利用も拡がっているようだ。

  • Pay Now

シンガポール銀行協会が提供する携帯電話番号で口座間送金ができるサービスであり、上述したPrompt Payとよく似ている。

こちらも同行、他行関係なく24/365でかつ送金手数料無料であり大手行は大体参加している。事前に口座情報と携帯電話番号を紐付けておき、送金時は携帯電話番号を入力するだけで送金できる。将来的にはB2Bにも対応予定。

公式ページに動画があり、英語がわからなくても動画を見れば大体の動作はわかります。

●インドネシアの決済

インドネシアは成長著しい東南アジア市場の牽引役でもあり、多くのチャンスに満ちている。けして多くはないが日本人起業家でインドネシアでビジネスを始めている人はいるし、これからインドネシアに行くという人にも何人かお会いしたことがある。個人的には日本で企業するよりも、インドネシア人のco-founderを見つけてがんばった方が成功確率高いんじゃないかという気がしている。

  • eWalletサービス

GoPay

こちらは「Go-jeck」が提供する決済サービス。インドネシアではGrab PayではなくGO payの方が多く利用されているらしい。調べていないけど、ユーザー数と相関があるのもかも知れない。

eToll

交通系でカードにプリペイドでチャージすれば、高速道路での支払いに使える。良く利用されていると教えてもらったが、wallet系サービスがあるのか調べてみたが不明。(知ってる人教えてください!)

通信会社系eWallet

通信会社の提供するeWalletサービスとしてTelkomselのT-CashPT Smartfren TelecomのUgangkuXL AxiataのXL tunaiなどがある。こちらは各wallet間の送金が開放されたようで利便性が向上している。

  • 銀行口座間決済

現在はPrompt Payや、Pay nowのような簡単な小口決済サービスはなくATMなどを利用しているようだ。逆にwalletサービスによりここのニーズは解決している。

●Alipayについて

特にAlipayについて触れなかったがすでに各国での利用は開始されている。しかし、現状ほぼ自国に観光に来る中国人向けの決済手段となっており、自国民向けでないのは日本と同じ状況といえる。2018年から日本人向けにサービス提供することがアナウンスされたがどの程度浸透するのか注視したいと考えている。

●雑感

東南アジア市場はよく一括りに語られる事が多いが当然それぞれの国の集合体なので決済手段だけでも大きく異なってくるし、もし、進出を考えているならローカライズや現地の法規制も全く異なってくるのでよく調べる必要がある。

日本と違ってインフラが整っていない所にまさにガンガンインフラを整えている段階なのでキャッシュレス化は一足飛びで日本より進んでいる印象です。というか日本遅い、遅すぎる。銀行間決済であれば、これはタイみたいに中央銀行主導でもいいので足並みそろえて強制的に一斉提供みたいなことにならないと難しいと思う。利便性が上がらないとユーザーは利用してくれないし、ダラダラと長い期間をかけて提供しているようではユーザーが離脱する。

また、決済の専門事業者としてでなく、自社のサービス基盤を活かして決済事業に乗り込んでくるプレイヤーが多くみられる。既述のGrab、Go-jeckしかり、触れなかったけどTokopediaも決済事業に進出しています。

日本企業は製造業では東南アジア市場で大きな存在感があるけど、IT企業で東南アジア市場でシェアを取っている企業はあるだろうか?トライアル&エラーがんばろう!

間違いやよりよいデータがあればぜひご指摘ください!

また、ご質問もお気軽にどうぞ。

Twitter: @UNOkov

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