Masahiro Sameshima
10 min readJul 19, 2016

a16z流「こんな会社になら投資する」の本音と建前

なんて仰々しいタイトルをつけてしまいましたが、最近とある起業志望の大学生から相談を受けたところ、彼は自分自身でもa16zなどの海外の大手VCの動向をよく見ていてすごいなぁと思う反面、彼らのポジショントークというか本音と建前がよく見えてないのかなと心配になったので、a16zの共同創業者であるBen Horowitzの2013年2月の講演資料”Why Do We Invest in a Company”に対して少し自分なりの解釈を加えてみました。ベンチャー業界の方々にとっては、そんなの当たり前でしょ、と思われる内容ばかりですので無視して頂き、最近ベンチャーやスタートアップという言葉を耳にして興味関心を持ち始めた大学生や若手社会人の皆さんの少しでもお役に立てれば幸いです。また、あくまで私個人の解釈ですので、そのまま鵜呑みにすることなくご自身で咀嚼して頂ければと思います。

結論:a16zは”「ぶっ飛んだアイデアを持った」「大学中退者」が創業した「収益化ができない」「小さな市場」を狙うスタートアップに投資する”と主張しているように表面上見えるが、実際には”「ユーザーニーズのある真っ当なアイデアを持った」「大学卒業者」が創業した「(熱狂的なユーザー獲得後に)収益化が見込まれる」「大きな市場(若しくは今は小さくても今後急拡大が見込まれる市場)」を狙うスタートアップに投資する”というのが本音ではないだろうか。

”年間2,355の投資案件があり実際に投資したのは24件でした”

つまり、a16zから投資を受ける為には1%という非常な難関を突破しなければならないということになります。投資案件と言っても、紹介されて資料をざっと見たがイケてないので会わずにスルーした案件等も含まれると思われる為、一概に比較は難しいですが、日本のVCでも突破率は数%前半という感覚なので、そこまで差はないかと思います。

”私達は会社を測る際に、ビジネスアイデア、起業家の資質、市場、ビジネスモデル、の計4つの軸で測ります”

”まず、ビジネスアイデアについて見てみると、現在成功を収めているスタートアップの初期のアイデアはつまらないものでしたが、そこから進化して成功しました”

”別の言い方をすると、起業当初のアイデアはそんなに重要ではありません。よって私達はreally bad ideasを求めています”

これだけ聞くと、学生の皆さんからすると、「ほー。真面目にビジネスアイデア立てずに突拍子もないことをやるのが重要なのか」と勘違いしてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

”アイデアに何が重要かというとブレイクスルーが重要です”

しかし、ブレイクスルーを起こすアイデアには問題があります。

”その問題とは、それらが明白ではないことです。実際、それらは一見するとぶっ飛んでいる(insane)ように思えます。ぶっ飛んでいるからこそ、ブレイクスルーなのです。”

と主張して、ぶっ飛んでいるアイデアの例としてPaypalやAirbを例に出しています。確かに、それらのアイデアを始めて聞いた時は「え?本当?そんなこと可能?ビジネスできる?」と思ったかもしれませんが、実際のa16zの投資先はそんなにぶっ飛んだ、仰天するものばかりなのでしょうか。

例えば2016年4~6月にa16z投資発表済みのベンチャーを幾つか見てみますと、ドローン向けセキュリティーサービスを提供するSkysafe社や二カ国間の送金をマッチングすることで銀行手数料を下げるTransferWise社(Fintech系)、血液ガン診断を行うFreenome社(バイオ系)など、誰が使うの?という"ぶっ飛んだ"アイデアではなく、ユーザーのニーズがしっかりと存在し(もしくは今後健在することが期待される)、それを満たす為の大きな課題を解決しようとする"真っ当な"アイデアだということが分かるのではないでしょうか。参考までに2016年4~6月にa16zが投資したベンチャーの事業内容を簡単に以下まとめてみました。後ほど市場の説明がありますが、これを見ると、投資先のベンチャーは小さな市場ではなく、既に大きな市場若しくは今は小さくても今後急拡大が見込まれる市場をターゲットにしていることが読み取れると思います。

”成功の要因は、ぶっ飛んだアイデアと恐ろしく優秀な経営者である。”

として、会社を測る上での次の軸である起業家の資質に話が移っていきます。

”成功した優秀な起業家は大学を卒業せず中退しています。”

確かに、この手の起業家の武勇伝、僕も大好物です。

”起業家の資質として最も重要なものは勇気だ。大学を中退するには相当な勇気が必要なので、我々は大学中退者の起業家に投資したい”

”成功する起業家には、ひらめき、勇気、ブレイクスルーを引き起こすアイデアが必要で、大学中退者はこれら全てを持っている”

「よし、俺も起業して成功する為に、大学中退しよう!」って思ったそこの君。ちょっと待ちましょう笑。これって、成功した有名な起業家の中に大学中退者がいた、ということだけであって、大学を中退すれば成功するということにはならないですよね。これもa16zというかシリコンバレーのポジショントークの匂いがプンプンします。

例えば2016年4~6月にa16z投資発表済みのベンチャーのうち、創業者(特にCEO)の経歴を見てみるとたった14%しか大学中退者ではありませんでした(以下表の赤字が大学中退者です)。米国全体の大学の平均中退率は20%程度という話を以前聞いたことがありますので、それと比較するとあまり大差のない結果となっています。

むしろ、特筆すべきな点は、Max Levchin(Paypal創業メンバー)やEvan Williams(Twitter創業メンバー)のような所謂シリアルアントレプラナーの比率が約30%に達していると云うことです。つまり、「大学中退者に投資したい」ではなく「成功体験のあるシリアルアントレプレナーに投資したい」というのが彼らの本音ではないでしょうか。

”勿論、メガベンチャーを創出する為には、対象とする市場規模も巨大でなければならない。しかし。。。”

”魅力的な市場というものは一見すると巨大に見えないかもしれません。例えば、Facebookの初期のターゲット市場であった「大学生向けのソーシャルネットワーク市場」と「中華料理市場」を比較すると、当時はどちらが巨大な市場に見えたでしょうか。「中華料理市場」ですよね。しかし、Facebookの現状はご存知の通りです。”

”それでは次に、会社を測る上で次の軸であるビジネスモデルについて説明します。”

"例1:Yahoo!は全世界で1.5億人以上に利用されている最大のウェブサイトである。Yahoo!以外で広告収入を得られる競合は存在しない(出展:2001年 BBC)”と考えられていましたが、実際はどうでしたでしょうか。

"ビジネスモデルに対するa16zのアドバイスは、専門家のアドバイスを無視しろ、ということです。熱狂的なユーザーが欲するサービスを提供できれば、収益化が可能です"

”例2 : Amazon含む多くのネット通販会社が、彼らの株価を正当化できるような業績を上げることに対しては懐疑的だ(出展:1999年New York Times)と考えられていましたが、実際はどうでしたでしょうか”

"例3:Facebookは(当時競合であった)MySpace社に比べて広告収入が得られる有望な兆候が見られない(出展:2006年Forbes)と考えられていましたが実際はどうでしたでしょうか"

これらの例を見ると、「ビジネスモデルは考える必要はなくて、とにかくユーザーが欲しがる製品・サービスを作ればいいんだ!」と誤解する方もいるかもしれませんが、そういう意味ではありません。あくまでスタートアップ初期の頃(価値訴求ステージ)は製品・サービスに集中して、熱狂的なユーザー獲得後次のステージに行く際(エコノミクスステージ)はきちんとマネタイズ考えましょうというのが、a16zがビジネスモデルの観点で伝えたい点だと思います。

今月号のDIAMONDハーバードビジネスレビューにてGCPの高宮さんが「From Start-up to Public Company」という素晴らしい記事を書かれていますので、マネタイズについて記載された内容を再掲致します。

"価値訴求のステージでは、単にユーザーに支持されればよく、お金を取れるかどうかは論点ではなかった。一方、このステージ(エコノミクスのステージ)では、マネタイズモデルという収益事業としての根幹に関わる部分を固めなくてはならない"

これまでの議論を踏まえ、最後にまとめのスライドになります。

”これまでをまとめてみると、我々は「ぶっ飛んだアイデアを持った」「大学中退者」が創業した「収益化ができない」「小さな市場」を狙うスタートアップに投資する”

と表面上は記載されていますが、実際にa16zが伝えたいことは

”我々は「ユーザーニーズのある真っ当なアイデアを持った」「大学卒業者」が創業した「(熱狂的なユーザー獲得後に)収益化が見込まれる」「大きな市場」を狙うスタートアップに投資する”

ということではないのでしょうか。

Masahiro Sameshima

VC/ANRI/#NestHongo/Web is boring. High-Tech is interesting.