深圳訪問記(2018後編)
深圳に行ってみたくなり、実際に行ってみた私が辿った10のステップ(後編)
【Seeed Studio Advent Calendar 2018寄稿記事】
STEP6. 深圳の日本人コミュニティーで現地情報を得た。
(前編の続き)「ローマではローマ人のするようにせよ」という諺がある。しかし渡航したばかりの外国人にとって「深圳では深圳人のするようにせよ」といかないこともある。決済もその一つだ。
日本国内で発行したクレジットカードはほとんどの店やATMで使えない。異国なのだから仕方がない面もあるが、困るのは現金に対応してないサービスが多いことだ。シェアサイクルはもちろん、コインランドリー、公衆スマホ充電器など。目の前に便利なものがあるのに使えないやるせなさを感じた。
そうした中で、現地日本人コミュニティーで初訪問にも関わらず様々な情報を得る機会を得た。スイッチサイエンスの高須氏と ”「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ”の著者、藤岡氏が主催するニコ技深圳コミュニティーオープンデイと、 藤岡氏の経営するJENESIS工場見学会に参加した。深圳のハードウェアのエコシステムについて、高須氏はMakerムーブメントの文脈で、藤岡氏は実際の現地工場経営経験に基づいた文脈での講演付きだった。興味ある方は是非以下のリンクから講演動画を見てもらいたい。
深圳を初訪問した身としては、現地在住者を含めた参加者同士のつながりから得た経験に基づく口コミ情報も大きかった。simカードなど通信、AlipayやWechat Payなど決済、Google Mapに代わる高徳地図、シェアサイクルのmobikeなどの移動手段などを知ることで現地での行動範囲が大きく広がった。
実際に訪れた場所としては、アリババ、テンセントの巨大ビル群、無人コンビニ、アリババ系列スーパーマーケットの盒馬鮮生、南山区の中城comp@ssや起業支援カフェ、コワーキングスペース、深圳人才公園、福田区のCEEC、深圳会展中心、深圳中心公園などがある。
訪問時期は前後し、通りがかりに撮ったもので詳細は記載しないが折角なので撮りためた写真の一部を掲載する。
深圳に限らず異国を旅して徐々に知識や行動範囲が広がる体験は初めの不便さがあった分、振り返ってみると楽しいものだ。
しかし口コミから得た現地情報であっても、深圳ではあてにならないことも多い。店舗やサービスは変化するものだが、その速度が深圳では著しい。このブログの内容も一年後にはどうなっているのかは正直わからない。しかしそうした変化が深圳の発展の秘密であり魅力であるのかもしれない。
STEP7. 柴火造物中心(Chaihuo x.factory)@深圳を訪問した。
柴火創客空間 (Chaihuo Maker Space)が運営するメーカースペースの柴火造物中心Chaihuo x.factoryで開催された、パートナーとしてのAIをテーマにしたワークショップに参加した。 x.factoryは深圳南山地区に不動産デベロッパ万科(Vanke)が手がけたCloud City内のDesign Communeという散策に良さそうな敷地内にある。seeed studioが開設、支援している。
内容はAIの人文科学的な視点で英語と一部中国語でわからない部分もあった。議論も活発に行われていて興味深かったが、ものづくりの枠組みにおさまらない内容からはDesign Thinkingを重視していると感じた。こうした現地のコミュニティーのイベントに参加することもとても良い経験だったと思う。
STEP8. 深圳で起業体験イベントに参加した。
深圳で開催されたStartup weekend Tokyo Shenzhen@SEGMAKERに参加した。会場はニコ技深圳コミュニティーオープンデイが開催されたのと同じ華強北の賽格廣場(SEGプラザ)にあるSEGMAKERだ。
1分間エレベータピッチに始まり、チームビルド、課題とそれを解決するMVP(Minimum Viable Product)、ビジネスモデルの仮説と検証を週末54時間で行う国際的なイベントで、これまでに十数回に渡り国内外で参加してきた。顧客の声を実際に聞き取り調査することを重視している。
通訳の案内で猫型ロボットを手がけるスタートアップや、前回訪問時に下見していた南山地区の深圳湾創業広場にある中城Comp@ssを訪問した。
アポなしにも関わらず、撮影許可やインタビューを受けてくれた。また国内介護テック系スタートアップの知人にオンラインでインタビューすることで、国を跨いだ仮説検証ができた。
仮説検証の過程で当初のアイデアからPivotを経て、高齢化課題先進国日本の課題を深圳のものづくりエコシステムを活用して解決するといったコンサル的なビジネスモデルとなった。短時間のイベントとしてではあるものの、海外での起業体験は示唆に富んでいて特別のものだ。チームメンバーによるブログが公開されていたので以下に紹介しておきたい。
STEP9. Maker Fair Shenzhen 2018に参加した。
三度目の深圳でMaker Fair Shenzhen 2018を訪れた。三度目ともなると越境も慣れたもので別の手段を使いたくなる。これまでは香港国際空港からバスや鉄道で羅湖、福田口岸を使っていたが、会場に近い蛇口港までフェリーで向かう経路を使った。海外でのMaker Fair初参加であった。
厳重な警備の入り口を抜けると雰囲気は一転し、海に面した景色の良い海上世界芸術文化中心という名にふさわしい居心地の良い空間であった。
日本でも8月にMaker Fair Tokyo2018に出展していた馴染みのseeed studioやSonyの展示ブースがあった。seeed studioはGroveセンサーモジュール、スマートスピーカーモジュールReSpeakerに加えて中国ならではのお茶のIoT(Tea)デバイスや、日本では販売されていないドローンやSTEAM用キットも陳列されていた。
SonyのIoTデバイスSPRESENSEは高性能GPSや深層学習の推論機能を組み込むことができ、クラウド開発環境もイベント後に発表された。
3Dプリンター、レーザーカッター、CNCなどファブ施設でよく見かける加工機器を一台3役まとめたsnapmakerなど面白い製品も詳しく話を聞くことできた。価格を聞いて安さに驚いた。
短時間の滞在で一概には言えないが、会場の規模や個人出展者数、入場者数は開催回数の多い東京が高い。しかし屋外も含めた広々とした深圳会場の全体構成はバランスが取れていて、Kickastarterに露出するハードウェアスタートアップは深圳が多いようだ。また、アート系展示や子供向けの体験型展示も多いように感じられた。
また、これまで国内で触れる機会がなかったFPGAのXilinxのPynQ Z-2ボードを使用したワークショップで触れることができた。
Lチカから始まってBNN(Binary Neural Network)を動かすまでの内容となっており、Jupyter notebookのPython環境を利用してプログラムを実行した。PynQ Z-2ボードとGroveベースシールドを接続できるのでGrove端子のPIR motionセンサーやGrove LED BARも制御可能だ。時間の都合で全てを消化しきれなかったが、とても満足できた。実機が入手できれば再挑戦してみたい。
小学生の親子連れも参加しており、中国人の教育熱に驚きを隠せなかったが、時間の都合もあり流石について行けないようだった。ともあれ、特別な言語を学習することや、半田付けすることなく扱える時代になったということを実感できた。
STEP10. 柴火造物中心(Chaihuo x.factory Dongguan)@東莞
Maker Fair Shenzhen 2018の翌日に内陸の東莞市まで足を運ぶ日帰りバスツアー:”A Sneak Peek at Chaihuo x.factory Dongguan and Recap for Factory High Tour after Maker Fair Shenzhen 2018”に参加する機会を得た。東莞市は日本の企業も多く進出している工業地帯だ。初めて深圳に入るときもなかなかの冒険ではあった。今回は更に内陸部に入ることになるが、バスツアーなので安心だ。
深圳会展中心駅で待ち合わせ、高速道路をバス移動約40分で到着した。駐車場にはミケランジェロのシスティーナ大聖堂天井画のアダムの創造をモチーフにしたセンスの良い壁画が描かれていた。
実のところSTEP7で深圳の柴火造物中心を訪問していたので、その2拠点目の訪問となる。但し、竣工して間もないようで機材の搬入はこれからのようだ。
また、ツアー参加者は多国籍で日本からもMaker Fair常連で竹チャルカのhideo oguriや中国語留学中の日本人など私を含め数名も参加していた。CrowPiはKickStarterで私が支援した初めてのプロダクトだが、驚いたことに深圳在住のイスラエル人でCrowPiのソフトウェアエンジニアのRoniも参加していたので直接製品フィードバックできた。
x.factory内部は機材搬入前だったが、パネル展示を撮影できたので掲載しておく。日本の漢字と簡体字は異なるが、学生時代に第二外国語として中国語を少し齧っていたのと、スマホの中国語の手書き入力でGoogle翻訳にかけるうちに何となく漢字が読めるようになった。
施設の位置付けや今後の東莞市におけるエコシステムについて記念フォーラムも開催された。Vanke都市研究院DirectorのAlex Qian、Vanke東莞の技術部長Shikui Liu、seeed studio創業者のEric Panによる講演会があった。中国語で聞き取れなかったので目でスライドを追うのが精一杯だったが、イノベーションを志向するmakerと東莞市内のスマート工場との橋渡しを主な目的としているようだ。本稿の上部に英文ブログ記事リンクがあるので、興味のある方は是非一読されたい。フォーラム後にはVankeの建設現場見学会、昼食会、Janus smart factory見学会も行われた。
こうしてものづくりのコミュニティーを通じて深圳やその周辺に辿りついた。振り返ってみると常に興味関心をベースとしてきたが、異世界と思っていた土地も訪問するたびに親近感が湧いてくるものだ。
何度も往復した華橋北路だったが、子供の頃に壊れかけたRADIOの電子部品に夢想した空想上の未来都市は案外こんな風景だったのかもしれない。
次に深圳を訪問するときには、また別の角度から大芬(ダーフェン)の世界最大の「油画村」も訪問してみたいとも思う。
【後編おわり】