オランダ系企業・機関が集結、ケニアのアグリテック市場に参入

Masashi Hasegawa
Aug 31, 2018 · 6 min read

ケニアではマーケットや財政支援、そして農家の成功事例といった情報にアクセスすることは依然として困難だ。しかし、最近では農業関連のアプリが次々と開発されており、テクノロジーが農家の生産性を高め、マーケット相場を基に条件の良い取引が実現しやすい環境整備が進んでいる。

イェルダー(Yielder)はアレクサンダー・ヴァレントン氏率いる製作チームにより開発が進められている農業系アプリだ。アレクサンダー氏はアムステルダム、カンパラ、ナイロビを拠点とする映像制作会社であるメディアHQの映像プロデューサーをしていたが、現地NGOや関係機関への映像製作をしていたところYoutubeに映像を上げるだけでは農家へのインパクトがほとんどないことに気づいたという。

「農家への技術指導のための動画を製作していましたが、彼らがほとんど動画を見ていないことに気づき、その理由を聞き取り調査しましたた。そこから分かったことは多くの農家がYoutubeにアクセスして映像を見るお金をもったいないと感じており、同時に動画だけでは農業の技術を学ぶには分かりづらいというものでした。農家やステークホルダーがどうすれば情報を有効活用できるのか頭を悩ませていました」

ケニアでパソコンを持っている農家はほとんどいないし、そもそも電気を利用できないことも多い。ネットカフェでYoutubeを見るためには遠路はるばる街まで出かけ、パソコンの使用料金を支払わなければならない。たまにスマートフォンを持っている農家がいても、よく分からない動画にデータ料金を支払うインセンティブは低い。広く農業に関する情報を共有できる様に思われていたYoutube活用戦略は、実際には情報アクセスに大きな壁があるため農家側の需要が小さかったのだ。

メディアHQのオフィスで仕事をするアレクサンダー氏。

アレクサンダー氏は動画に変わる情報共有手段を模索していたが、一昨年同氏がイェルダーのアイディアを議論していく中で状況は少しずつ動き出していく。ケニアの農業を変えるべく、メディアHQを含むオランダ系企業・機関が共同でこのプロジェクトを進めていくことが決定したのだ。

共同プロジェクトについて開発マネージャーを務めるジェルブレン・ハアクスマ氏は次のように説明する。

「それぞれのパートナー企業が極めて重要な役割を担っています。オランダのIT企業であるインセントロ(Incentro)はオンラインプラットフォーム構築のために必要な技術を提供しています。ダルバーグリサーチ(Dalberg Research)はオランダのメディア会社で、提供する価値のある情報の選別と調査手法の改良を行っています。ラボバンク基金(Rabobank Foundation)は長年途上国を中心に世界中で農業・環境関連の投融資を行ってきた経験がある。スマートデベロプメントワークス(SNV)は同様に途上国での開発事業経験が豊富です。アフリカ農業に関心があるオランダの企業や機関が終結しました」

現在イェルダーに関わる従業員はアプリ開発エンジニアが3名、事務員が6名いる。イェルダーが計画しているプロジェクトは5つの段階に分けて進められている。

1段階目はユーザーにとって有益な情報を集める段階で調査機関やNGO、あるいはマーケットから得られる情報をアプリに集め、選別する。2段階目は農家同士がプラットフォーム上で情報をやり取りを行るようにして、特定のトピック毎に議論・共有をするP to Pサービスを展開する。これはスカイプから出資を受けたことで有名なアグリテック系スタートアップのWefarmのサービスと似ている。3段階目はNGOや援助機関が対象グループへの事業を行う際にイェルダーの情報とコミュニティを提供する。4段階目はアプリ上からユーザー毎に必要な器具やサービスに関する広告を提供する。5段階目はアプリとホームページをリンクさせ、メディアとしての機能を付け加える。

「現在はスマートフォン用のアプリ開発を行っている段階です。それぞれの段階でユーザーからフィードバックを受けて、より多くの方が利用していただけるサービスを開発しようとしています」とジェルブレン氏は語る。

アプリ開発を進めるジェルブレン氏(左)とアレクサンダー氏(右)

ジェルブレン氏によれば、可能な限り小さいデータ容量で使用できるアプリを作成しており、今年の11月にアプリの第一弾をリリースする予定だ。スマートフォンにアクセスできる農家は未だ限られているが、市場は徐々にスマートフォンが利用されやすいものになっていると判断する。

「確かに今は全ての農家がスマートフォンを持っていたり、使用している訳ではありません。しかし、多くの農家がグループを作っていて、グループリーダーがスマートフォンを使用するための支援をできます。たとえば週に一回ほど集会があるとすれば、弊社のプラットフォームを使用することでグループ全体で問題解決の糸口を見つけることができます。地域毎に特有の問題に関する情報を提供することで、農家の方に役立ててほしいと思っています。」

多くのNGOや開発機関にとって対象農家に能力トレーニング事業を行うことはコストが高い。イェルダーは対象の選別と組織化サービスを通じてコストの低下を狙っている。同サービスを利用することで、トレーニングの告知や動員を簡便化でき、運営の効率化も行える可能性があるとしている。パートナー企業に開発機関があるため、実際のプロジェクト運営に使いやすいサービスを提供できる期待を持てるだろう。

ケニアにおけるアグリテック市場は投資家から注目を集めており、斬新なビジネスやサービスが次々と誕生している。同時に競争も激しくなっており、シェア獲得にも困難が伴うことが予想される。イェルダーの事例を見ると、いわゆる『ガラケー』でSMS(ショートメッセージサービス)を通じたP to P事業を展開するWefarmとは対照的な戦略でケニアの農業市場に挑んでいることが分かる。また、ケニアで広く普及している低価格スマートフォンはメモリー容量が小さく、農業市場のみならずSNSやニュース系アプリなどメモリー容量においても他のアプリと競争する必要が生じるだろう。どこまで農家の利便性を把握してアプリを製作できるかが今後のカギとなりそうだ。オランダ系企業・機関が終結した同プロジェクトがケニアでどのような展開を見せるのかに注視していきたい。

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