害虫からケニア農業を救え!ファームトラック社が仕掛ける『罠』とは

Masashi Hasegawa
6 min readAug 17, 2018

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人口増が続くアフリカで農業は経済のみならず、人命に直結する重要な産業だ。しかし、近年では害虫の被害が次々と報告されており、早急な対応が求められている。昨年には南部アフリカで蝶の一種であるツマジロクサヨトウの幼虫による被害が確認され、アフリカ13か国の代表による緊急会議が開かれた。会議の最終日には国連食糧農業機関(FAO)による警告声明が発表され、アフリカにおける害虫対策の重要性がクローズアップされることとなった。同年ケニアでもツマジロクサヨトウが大発生し、メイズ、ソルガム、ミレットなどの主食穀物が食い荒らされ、農民の生活を脅かした。ツマジロクサヨトウは未だに抜本的な対策を見つけられていないが、ケニアでは近年これまでは見られなかった害虫が出現する事例が次々に確認されており、農民は対処に頭を悩ませている。

害虫への対策無しにケニア農業の未来はない。こうした現状の中で最近注目を集めているのがファームトラック社(Farmtrack Consulting Ltd.)だ。同社は害虫対策のコンサルタントと関連商品の開発・販売を行う企業として2014年に創立された。これまで害虫に対して効果的な対処方法を持てていなかったケニア農業の現状を目の当たりにし、現場で起こる様々な害虫問題を解決するために尽力している。同社の特徴は害虫を捕えたり駆除するための様々な『罠』を提供していることだ。殺虫剤は使用されておらず、捕虫剤やフェロモンなどの化学物質により効率的かつ安全な駆除を可能にしている。

ファームトラック社のサミュエル・ムチェミ代表。手には同社が提供する害虫駆除の『罠』が載せられている

同社代表のサミュエル・ムチェミ氏によれば、初めに着手したのはハエの駆除からだった。

「先ず私達は2003年にケニアで初めて発見された、果実類の害虫であるキイロショウジョウバエを駆除することから始めました。この害虫は主にマンゴーの生産に影響を与え、莫大な経済的損失が発生しました」

当時キイロショウジョウバエが発生した農場ではほぼ100%のマンゴーが商品として使い物にならなくなっていた。そこで同社が持ち込んだのがバクトロルアー(bactrolure)という商品だ。これは同社の目玉商品となっており、現在ではケニアでは多くのマンゴー農家で使用されている。

バクトロルアーに使われる捕虫剤。

バクトロルアーは小箱の中に取り付けられ、特殊な成分がキイロショウジョウバエをおびき寄せると同時に箱に捕らわれた害虫を効率的に殺すことができる。農場の場所にもよるが、たとえばインド洋に面するモンバサでは30分もあれば箱がキイロショウジョウバエで一杯になる 。

バクトロルアーは雄のキイロショウジョウバエのみを対象としており、雄と雌の個体数のバランスを崩すことで全体の個体数を減らすことができる。サミュエル氏によれば科学的な実証テストで効果が証明されており、同製品を取り付けた農場では被害が90%も減少しているという。また、雌のキイロショウジョウバエを対象に使われる罠にはトルラトラック(Torula Track)があり、これはペレット状の捕虫剤で水に浸して使用し、餌を食べにおびき寄せられたハエは罠に捕らわれ、最後には溺死する。

ケニアの作物の中でもトマトは特に害虫被害にあいやすい作物といわれるが、その対策としてファームトラック社は デルタトラップ(Tuta absouluta delta trap)を提供している。同製品は三角形の箱の形をしており、内側はハエ取り紙のような粘着剤が張られ、箱の中に閉じ込められた害虫が外に逃れる術はない。箱が満杯になると内側の中身を取り換えるだけで何回でも使用が可能だ。

デルタトラップの箱。中に粘着剤が張られており、害虫がビッシリと捉えられている。

「弊社の製品は殺虫剤を使用して環境に悪影響を与えるものではありません。殺虫剤を使用しまうと作物に残留してしまいますし、消費者の健康も心配です。環境だけでなくお客様にも優しい製品を提供しています」

また、胡椒や唐辛子、アボカドには疑似フェロモンを使用することで芯食い虫を捕虫し、箱の中に閉じ込めて駆除を行う製品を提供している。捕虫剤など化学物質は外国から輸入しているものの、これらの製品の開発と製造はケニアで行われている。

罠によって捕らえられた害虫のディスプレイ。捕虫剤と粘着剤の効果は絶大だ。

同社の製品一つでおおよそ1/4エーカーをカバーできる。使用期間は6~8週間で、雨や日差しにも強く、殺虫剤を広範囲に散布するよりも安全でお金がかからない場合が多い。栽培時期が来ると対応商品の需要が高まり、たとえばマンゴーの栽培時期である9月からはバクトロルアーの需要が高まる。価格は商品によって様々だが、バクトロルアーは370シリング、フェロモントラップは650シリング、他の毛虫駆除製品は700シリングほどで、農家にも手が出しやすい価格となっている。

ファームトラック社の課題は一つでも多くの村に害虫対策のサービスと商品を届けることだ。国内の各農村地域に拠点を配置することはコストが掛かりすぎるため、同社ではオンライン販売を推進しており。M-PESAを活用してボタン一つで僻地にある農村まで商品が配送されるシステムを構築中だ。

サミュエル氏はケニアの害虫対策のビジネスには根強い需要があるという。農作物の需要は順調に増加しており、それに伴い害虫対策の必要性も増しているためだ。また、国際昆虫生理生態センター(ICIPE)と協力し、従来の使い捨て製品ではない、再利用可能な製品の開発を行っている。特徴的なのは捕えた虫を有効活用する方法を研究している点だ。

「捕虫剤などに含まれる化学物質は人体に影響があるため、捕えた虫を家畜に食べさせることができずに処分されます。しかし、私たちは研究を続け、有効利用ができる方法を模索し続けています」

害虫はいつの時代でも至る所で発生し続けており、ケニアのみならず人口増が続くアフリカ全土で対策の重要性が増している。最新の技術とテクノロジーを駆使したファームトラック社の『罠』がケニア中で利用される日が来ることを期待したい。

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