服は世界を旅する、ケニア最大の中古衣類マーケット『ギコンバ』に見るグローカル性

Masashi Hasegawa
6 min readAug 14, 2018

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ケニアでは中古衣類の輸入貿易が拡大している。ケニア国家統計局(KNBS)のデータによれば、昨年輸入された衣類は金額ベースで約131億シリング、重量ベースで約13万6000トンに上り、未だ新品の衣類に手が出ない多くのケニア人の生活を支えている。最近では国内産業保護のために輸入衣類の関税引き上げなどが国会の議題に上っているものの、急増する人口により今後も輸入中古衣類の取引量は増加するとみられている。

ケニアでは一般的な中古衣類だが、実際にはどのように、そしてどこから中古衣類がケニアまでやってきているのだろうか?ケニア最大の中古衣類マーケットで取材を続けるうちに、海を越えたネットワークと中古衣類取引の現場が見えてきた。

ケニア最大の中古衣類市場はスラムのど真ん中?

ギコンバ(Gikomba)はナイロビのビジネス街の端にあるローカルマーケットだ。マジェンゴというスラムの真ん中に位置し、1952年から木材とトタン屋根で建てられた小屋が密集し始め、今ではナイロビでも最大級のインフォーマル(政府からの認可が下りていない)マーケットとなっている。毎日夜が明ける前の午前3時頃からトレーダーが集まりだし、お目当ての品や掘り出し物を探し出す。ギコンバが有名な理由の一つには、このマーケットがケニア最大のミトゥンバ(Mitumba)、つまり中古の衣類市場だということだ。海を渡り世界のあちこちから集められた中古衣類はインド洋に面するモンバサ港からギコンバを経由し、毎日ケニア中に配送されている。ケニアでは新品の衣類を購入できる人は未だ一部の中間層や富裕層に限られており、庶民レベルでは日常的に中古衣類が買われている。そしてケニアの地方や農村部で着られている服も、実はモンバサ港からギコンバを経て、消費者の下に届いているものが多かったりする。

やり手ビジネスマンの輸入貿易ビジネス

カマウ・モレノさん(仮名)はそんなギコンバで中古衣類の輸入販売を10年以上手掛けるベテランビジネスマンだ。彼の店には数トンを超える衣類が詰まったビニール袋が常に積み上げられている。

パック詰めされた衣類の上に座るカマウさん。

カマウさんによれば、ほとんどの衣類はアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、そして中国から輸入されているそうだ。カマウ氏が商売を始めた当初は他の同じ店と同じく輸入されてきた商品を右から左へと売っていたが、そのやり方では割に合わないことに気付いたという。

「当時は何とか利益を最大化したいと思っていました。私の店にお客さんも集まっていたので、規模の拡大のため自ら輸入ビジネスを行うことを思い付いたんです。早速、輸送会社に連絡をして各国から商品をかき集めました。そうすると、次第に卸売り業者をしている顧客たちが国別に商品を指定するようになったんです。こうなると需要と供給のバランスをとるのがとても簡単ですよね」

カマウさんの下には数千を超える中古衣類の袋がひっきりなしにやってくる。積み荷が港に着いた時から卸売業者からの予約が入り、その後ナイロビの工業地域にある倉庫へと輸送される。

「積み荷がモンバサ港に着く日を常に顧客と共有しています。積み荷が外国からモンバサに着くまで大体3~7週間かかります。輸送料に20~30万シリング、倉庫代が月に2万シリング。中古衣類一袋の値段が1,500シリングから30,000シリングで、85%くらいが粗利になりますね」

一つのコンテナにおよそ550袋分の中古衣類が詰められている。そして、それぞれの袋は品質によってグレードが分けられている。

「一袋が45㎏で、AからDまでグレード分けされます。グレードAはケニア人に『カメラ(Camera)』として知られている、ほとんど新品同然の衣類です。グレードBは少し使用されたけど品質の良いもの、グレードCはそれよりも品質が劣るもの、そしてグレードDはスワヒリ語で『ファギア(Fagia)』と呼ばれ、投げ売りされているものです」

遥々海を越え渡ってきた、コンテナに積まれた中古衣類。

中古衣類から見るケニアのファッショントレンド

安い値段が付けられる袋には男性用のネクタイといった需要が低いものが詰められている。カマウさんが主に取り扱うのは女性用衣類が詰められたグレードAやBの衣類で、簡単に売りさばけるという。また、子ども用衣類の需要も高い。

「今のところ、ダメージ加工のジーンズやトップス、テフロン加工のブラウス、中国産の毛皮付きトップス、オーストラリア産のパーカー付きセーターなどが売れ筋だね。オーストラリアの中古衣類は質が良いものばかりで人気が高い。それに中国産のものはサイズがケニア人にちょうどよくて、こちらも人気だね。あんまり大きい衣類は人気がないんだよ」

中古品の方がより多く流通しているケニアの衣類市場において、カマウさんはばっちりトレンドを掴んでいるようだ。そして、そのトレンドはギコンバを中心にケニア中に広められることになり、庶民の間ではこのマーケットから新たなファッショントレンドが作られ、発信されている一面もあるようだ。

カマウさんの倉庫。グレードAやBの衣類が大量に保管されている。

ローカルでグローバルな中古衣類の魅力

現地在住の日本人でも、もしかするとギコンバマーケットのことを知っている方は多くないかもしれない。スラムの真ん中に位置し、一部機関では立ち入り禁止区画にあたっているため、足が伸びにくいのだ。しかし、ケニアのローカル市場では意外なことに、中古衣類のみならず各国から輸入された商品が数多く見られ、実にグローバルな面も併せ持っている。また、こうしたローカル市場は物流における世界からケニアの玄関口であると同時に、ナイロビから地方への出発口でもある。中間層以下の人口が圧倒的多数のケニアにおいて、こうしたインフォーマル市場の情報はケニア経済の新たな一面を見せてくれる。ローカル市場にみられるグローバル性は今後ケニアに参入する企業や起業家が現地市場を理解する上で一つの鍵となるかもしれない。

筆者:Lucy Wangali, 翻訳:長谷川 将士

㈱グラスルーツウォーカーズ社作成

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