主要SaaS企業250社の料金ページから ひも解く7つの事実

Masayuki Minato
7 min readSep 19, 2018

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多くのSaaS企業にとって、「料金」周りは悩みの種。

ただ料金設定を変えるのは難しくても、「料金ページ」自体を変えることで、CVRを上げたり、より高いプランへ誘導したりすることはできる。

今回は、SalesforceやLinkedInなどを筆頭に、SaaS 250社の料金ページを分析した記事をベースに、SaaS企業が知っておくべき「料金ページ」の7つの事実をざっくりと解説する。

①80%の料金表は、実は料金非公開

Domoの料金ページより

SalesforceやHubSpot、Zendeskなど、実際の価格を載せているSaaS企業の料金ページをご覧になったことがある方も多いと思う。しかし驚くべきことに、SaaS 250社の内、80%は具体的な料金を公表していない。
(上の画像はDomoの料金ページの例)

これは、なぜだろう?

EcoSignのCEO Jason Lemkin氏によると、「SaaS企業が具体的な料金を公開しない」ことには以下の5つの理由があると考察している。

1)機能の良さではなく、”(低)価格が全て”であるように顧客に映る
2)特に大手顧客は、低価格より高機能を重視する
3)料金を公表すると、ディスカウントの対応が柔軟にやりにくい
4)機能が増えるとディールが複雑になるため、料金プランが複雑になる
5)ディールサイズに応じて、顧客へのアプローチ/営業工数を変えたい
(月額100万円と3万円では、アプローチは変えるべき)

一方で、料金を公開しているSaaSはなぜ公開してるのか?

この理由には、大きく2つのケースがあると推測する。

1つ目は、CRMやMAなどSaaS企業が多い領域のように、SaaSの普及率が高く、比較的コモディティ化が進んでいる場合、価格が選定基準の比重として重くなるケース。2つ目は、SMBでの売上成長を志向する場合、料金ページからの短期でのクロージングを重視するケース。勝手な推測だが、マネーフォワードやSmartHR等の日本のSaaS企業の多くが、料金を一部ないしは全部公開している理由の1つは、SMB比率の高い日本の市場環境を反映していると思う。

以降、料金ページを公表しているSaaS企業の情報をベースに解説する。

②料金プラン数の平均は3.5プラン

Salesforce.com Sales Cloud料金ページより

これは良く知られた事実だが、SaaSの料金プランの数は3~4プランが一般的だ。この背景にあるのが、マーケティングでよく言われる「ジャムの法則」だ。「ジャムの法則」とは、人は選択肢が多すぎると”選択疲れ”で、購入率が下がる現象を指す。著書「選択の科学」でも有名なコロンビア大学教授 Sheena Iyengar教授によると、選択肢は7±2が望ましいとされているが、SaaSのプランはジャムと違い、一つずつの選択肢が直感的に理解しにくいので、この3~4プランの選択肢に収斂したと考えられる。

③81%の料金表は「低価格→高価格」順 (そして、心理学的には誤り)

Box料金ページより

人の目は「左→右」の順で情報を処理する修正がある。従って、右にいくに従って価格が高くなることを脳は自然と捉えるため、81%の料金プランは「低価格→高価格」で作成されている。

しかし、SaaSのプライシングで有名なLincoln Murphy氏によると、それは間違いで「高価格→低価格」の方が優れていると言う。何故ならば、脳が「左→右」に情報を処理する時に、高価格が先に来るとアンカリング効果で高いプランの購入確率が上がるためだ。下図はTableauの料金表だが、上図のBoxの料金表と比較すると、感覚的にわかりやすい。

Tableauの料金ページより

④69%の料金表は、「ユーザーペルソナ/価値」で プランの違いをアピール

MFクラウド会計の料金ページより

料金プランの違いを示す際に、「機能」の違いを示すことが良く行われる。しかし、提供する機能の幅が広がってくると、機能の差をぱっと理解することが難しくなる。そのため、主要なSaaS企業の料金表では、「ユーザーのペルソナに合った価値を先に明示して、機能は後付け」で表現しているケースが69%を占める。上のマネーフォワードのMFクラウドの料金表の例を見ても、ユーザーが選びやすいことは一目瞭然だ。

⑤64%の料金表は、ボタンに「目立つ配色」

Survey Monkeyの料金ページより

料金ページの最大の目的は、購入なり問合せなり、いわゆるユーザーの行動を促す「Call to Action(CTA)」だ。そのため、Call to Actionへのコンバージョンを上げるために、64%の料金表では、ウェブサイトのカラーと同化しない、「目立つ配色」にしている。

このハイライト効果については、HubSpotの有名な「赤いボタンテスト」(色を緑から赤に変えただけで、CTAのコンバージョンが+21%向上したこと)からも効果は実証済みだ。

⑥ 63%の料金表は、フリートライアルを強調

Shopify料金ページより

これもSaaSの料金表ではよく見かけるが、「フリートライアル」を設定している料金表は、63%と一般的に行われている。上図は高成長SaaSとして名高いShopifyの料金表だが、無料トライアルへの誘導を強調している。ただ比較的価格の安いSaaSに使われるのが一般的で、価格の高いSaaSでは直営業でのデモ説明の様な、より丁寧なアプローチを行われることが多い

⑦50%の料金表は、儲かるプランをハイライト

HubSpot料金ページより

これも良く一般的に行われる手法だが、最も売りたい/儲かるプランをハイライトしている料金表が全体の約半分を占める。これも前述のアンカリング効果を狙った手法で、よりARPUを上げやすくなる。上のHubSpotの料金ページはこの応用ver.として秀逸で、料金ページを開くと、一番売りたいProfessionalの詳細がパッと目に入るよう、巧妙に設計されている。

但し、ハイライトでのアンカリングは、料金プランが4つ以上のケースで多くみられ、3つ以下の場合ではあまり使われない。(特に3つの場合は、いずれにせよ真ん中のプランにアンカリングされやすいので)

今回は、主要SaaS企業の料金ページに関する7つの事実を見てきた。このようなテクニックを学ぶことも重要だが、様々な料金ページを見てて思うことが、「いかに料金ページで差別化するか、目立たせるか」への創意工夫が見て取れる。ぜひ料金ページを考える際には、上記のテクニックを参考にするだけではなく、色々なSaaS企業の料金ページをザッピングしてみるのをオススメします。

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Masayuki Minato

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA