数字でみる!米SaaS企業の最新動向Part I: 上場企業編

Masayuki Minato
7 min readAug 30, 2018

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いまSaaSがアツい!

日本のスタートアップ業界では、「SaaSの春」と言わんばかりに、年々盛り上がりを見せ、ここ最近では資金調達も含め、SaaS関連のニュースを見ない日はないくらいだ。(SaaS好き投資家としては、ホント嬉しい。)

目を転じて、SaaSの家元であるアメリカの動向も見ると、日本に負けず劣らず、再び盛り上がってきている。昨日のSalesforce.comの18/2Qでの好業績のニュースはもちろんのこと、SaaS系スタートアップの資金調達も直近の18年前半は過去最高レベルにまで、再びSaaS熱が上がってきている。その全体像をざっと理解するために、直近の米SaaS業界のトレンドを、上場企業(Part I)、M&A(Part II)、スタートアップ(Part III)の3回に分けて、数字を中心にみてみたい。PartIの今回は、米Software Equity Groupのレポートをベースに、74社の米SaaS上場企業の数字をざっとまとめてみる。

売上/成長率のトレンド

まず米上場SaaS企業の売上と売上成長率は、どう変わっているのか?
(数字については、基本TTM(直近12ヵ月の実績)ベース、中央値(メジアン)で評価。以降も同様。)

左図で分かる通り、米SaaS上場企業の売上の中央値は、ここ一年で約250億円から約300億円、年成長率 +30%をキープし、順調に成長している。売上成長率別にSaaS上場企業の割合を見てみる(右図)と、+20%超の高い成長率の企業割合は、1年で約+3ポイントで約70%まで増えている

売上マルチプル(PSR)のトレンド

米SaaS上場企業が、順調な成長を続ける中、売上マルチプル(PSR)はどう変わっているのか?左図の通り、これまで6.5x近辺で推移していたのに対し、2Qでは7.6xと一気に上昇している。前述の成長率が約+30%で変化していないことを踏まえると、全体感としてはSaaSへの投資が少し過熱していると考えられる。では、売上成長率と売上マルチプルの関係はどうか?右図を見れば一目瞭然だが、売上成長率が高いと比例して、売上マルチプルも上がっている。この事象は、SaaSの未上場スタートアップ企業の売上マルチプル(Bessemer VPによると、15.9x!)が上場企業よりも高い要因の1つになっている(賛否両論あるが)。

EBITDA/成長率のトレンド

目を転じて、一般的なPERベースの企業価値評価に使われるEBITDAのトレンドはどうか?中央値ベースだと、米SaaS上場企業はまだ赤字の会社がほとんど。右図のEBITDA%(マージン)で半数以上の55%が赤字であることからも判る。一方、注目に値するのが、EBITDA%がプラスに転じた企業においては、EBITDAの成長率が30%→50%と改善(左図)が見られ、連動するようにEBITDA%がプラスの企業割合も5ポイント改善して、全体の半数に近づいている。これも、SaaSへの投資が過熱してる一因の可能性はある。

EBITDAマルチプルのトレンド

ただ、EBITDAマルチプル(PER)の変化で見てみるとどうか?
驚くべきことに、EBITDAマルチプル自体は下落傾向にある。また、EBITDA%別のマルチプルを見てみても、確かにEBITDA%が20%を超える高利益率のSaaS企業の売上マルチプルは高い傾向はあるものの、売上成長率ほどは相関が無い。つまり、投資家もEBITDA%は言うほど評価していない。より売上成長率を重視して投資をしていることが判る。

SaaSの“40%ルール”で見てみる

では、売上成長率+EBITDA%の和でSaaS企業健全性を測る、いわゆる”40%ルール”で見るとどうだろうか?EBITDA%単体よりは、相関は見られるものの、売上成長率ほど連続性のある相関は見られない。故に、SaaS企業の経営者が、利益率を改善するより、売上成長率を上げるために投資を続けた方が企業価値の向上につながると考えるのは当然だ。ただ、規模が大きくなると、高い売上成長率を追求し続けることは難しくなる。従って、SaaS企業の経営者もEBITDA%をゼロに近づけて、可能な限り営業とマーケに投資することで、市場の評価を安定させようとしていると考えられる。そのため、40%ルールも、実際は売上成長率+EBITDA%>20%になると、売上マルチプルが8x超と高くつくあたりからも、”20%”あたりがある意味、1つの目安とも言える。

営業&マーケ費用と粗利のトレンド

ではSaaSの経営者は、本当に売上成長率を維持するために、営業&マーケ費用につぎ込んでいるのか?下図の通り、結論から言うと、Yesだ。粗利率は改善させる一方で、営業&マーケ費用の売上比は少しずつ上昇していることからも判る。(ちなみに別の観点で見ると、SaaSのコスト構造の目安として、粗利70%、営業&マーケ費用は売上の40%と言える。)

SaaSタイプ別の売上マルチプルの差

最後に、ホリゾンタルSaaS vs. バーティカルSaaS、CRMやHRなど、タイプ別で売上マルチプルに差があるのか、見てみる。結論から言うと、前年同Qの変化率を見てみても、本質的にSaaSのタイプが企業価値評価に相関しているようには見えない。(長期トレンドで見る必要があるが)

まとめ

以上、米SaaS上場企業の最近のトレンドを見た。ざっくりまとめると、

・米SaaS上場企業は安定成長から、投資が少し過熱気味

・上場後も投資家は、利益率<<売上成長率

・ただ、規模が大きくなると、40%ルールを意識して、利益率と売上成長率のバランスを取る必要

・なので、SaaS企業の経営者もコストコントロールはしつつ、売上成長のメインドライバーである売上/マーケコストを増加

・SaaSタイプは関係なく、結局は売上成長率(多分)

次回のPart IIでは、米SaaS企業の最近のM&Aトレンドを数字で見てみる。

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Masayuki Minato

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA