量子コンピュータの最新動向と日本のスタートアップの可能性

Masayuki Minato
7 min readJan 1, 2018

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whowasisaacnewton.comより引用

2017年後半から量子コンピュータの商用化に向けたGoogle、IBM、Microsoft等の大手ハイテク企業のニュースがメディアを賑わし始めている。大手企業や政府の動きに呼応するように、D-WaveやRigettiのような量子コンピュータ関連のスタートアップにも注目が集まるようになってきた。私自身、大学時代に量子コンピュータの要素技術であるNMR(核磁気共鳴)と応用領域である量子化学計算を専門としていたのもあり、界隈の動向を興味深くみている。

量子コンピュータはまだ実用化に向けてPoCを繰り返している、言わば、”日の出前”の状況ではあるが、ここ数年で大きな動きが出てくると想定されており、日本においても産業創りに向けた仕込みの時期に入っていると考える。そこで今回は、最近までの量子コンピュータ周りの大企業、スタートアップの動向をさらった上で、日本での量子コンピュータ関連のスタートアップの可能性について初期的な考えをまとめておきたい。

量子コンピュータとは?最近のトレンドは?

量子コンピュータにまつわる書籍は、最近では多数出ており、技術的な説明はここでは深くは触れないが、投資家目線での簡単な説明と大企業、スタートアップの動向について、初期ver.だが以下の資料を参照頂きたい。

筆者独自作成

2015-2016年頃からUSのGoogleやIBM、Microsoft、中国のAlibaba等の大手ハイテク企業や欧州/豪州も含めた政府機関が量子コンピュータ周りへの投資や開発に関するニュースを立て続けに発表した。昨年2017年は、それに続きIBM Qに代表されるようなオープンな仕組みのローンチなど、商用化に向けて大きな動きがあった。日本でも実証実験レベルで、リクルートやデンソー、化学大手のJSRのような企業が活用に動き出している。

スタートアップも確認されるだけでも40社あり、量子コンピュータのハードウェア/ソフトウェア双方で目立った企業が出始めている。ハードウェア周りでは、元Goldman Sachs CTOが創設した最古参のD-Wave Systems社に加え、IBM出身のChad Rigetti氏が起業したRigetti Computing社や米メリーランド大学教授のDavid Moehring氏のIon Q社など、量子コンピュータのR&Dをリードしてきた一流の研究者が立ち上げたスタートアップが並ぶ。

一方、ソフトウェア周りでは1QBit社、QC Ware社の様に、量子コンピュータの専門家/研究者に加え、PE/VC/投資銀行出身者や金融/防衛/セキュリティ等の領域のソフトウェアエンジニアの”混成チーム”で構成されたスタートアップが目立っている。これは、量子コンピュータの活用検討は、Airbusなどの超大手企業やNASAのような政府機関向けの受託開発案件が多く、その業界の既存のシステムをビジネス/開発両面で理解している人間が必要なためだと想定される。(この点、Palantir社のような人工知能(DL/ML)系スタートアップと同じようなチームコンセプトに見える。)

日本での量子コンピュータ系スタートアップの可能性は?

それでは、日本での量子コンピュータ系スタートアップが立ち上げられる可能性はあるのか?

私個人の見解では、「YES(スタートアップを立ち上げる土壌はすでにある)」と考えている。なぜならば、1.開発に向けた人材基盤があり、2.顧客となる大手日系企業も関心を示し始めており、かつ3. 資金調達の環境も整いつつあるからだ。それぞれ詳しく説明すると以下の通りだ。

1.開発に向けた人材基盤

日本には現状実用化されている量子コンピュータの方式である、量子アニーリングの提唱者である東工大の西森教授や東大の中村教授、古澤教授をはじめ、世界トップクラスの研究者が既に存在する。その上、NTTや富士通等の民間企業でも長く研究がなされており、開発人材の基盤は欧米に伍するだけ存在すると考える。

2.顧客となる大手日系企業

先に述べた通り、リクルート、デンソー、JSRなどの大手企業も(本格的ではないが)少しずつ実証実験レベルでの活用を検討し始めており、国内初のファーストムーバーとして商品/サービス提供余地が見え始めている。

3.資金調達の環境

資金調達面では、VCマネーも増える中でVCの目も量子コンピュータのような先進技術領域に目が向き始めている上に、文科省プログラムでの10年で300億円超の投資が見込まれており、調達環境としては悪くない。但し、政府からの資金については欧米に比して劣後しているのが、実情でこの点はビハインドしていると言わざるを得ない。しかし、これは「鶏と卵問題」で、現状お金の出し先(スタートアップ等)が少ない日本の実情を反映していると想定されるため、今後量子コンピュータ領域でのスタートアップが増えれば、お金ももっとついてくると個人的には思う。

量子コンピュータ系スタートアップ立ち上げに向けた所感(初期仮説)

最後に、量子コンピュータ系スタートアップを作っていく上での個人的な所感を3点ほどまとめる。(あくまで現時点での仮説だが)

・今からやるなら、ハードウェア系よりソフトウェア系

確かにハードウェア技術もまだまだ開発途上で余地があるし、国内発のスタートアップ出現の余地もあると考えられる。しかし、欧米での実機開発は一歩進んでいる上、資金面でもビハインドなので領域の一流の専門家をかき集めない限り、勝負しにくいと考える。一方ソフトウェアでは、現状実用化されている量子アニーリング方式の研究者は一定数いると想定される上、海外で見られるように数十億円規模の調達ならば日本でも十分可能と想定される。(但し、下記でも述べるが量子コンピュータのソフト開発においては、ハード特有の”クセ”を理解した上でのアルゴリズム開発が必要なため、一定のハード開発要素が必要になる可能性は高いが)

・量子コンピュータの専門家+ソフトウェア開発者の両方は必須条件(チーム作りがキモ)

Chad Rigetti氏がNatureに寄稿している通り、古典コンピュータと異なり、ハードウェア特有の”クセ”を加味し、ハードとソフトが連携したソフト開発が必要となる。そのため、量子コンピュータのソフト開発に向けては、ハードの特性を理解した量子コンピュータの専門家に加え、既存のソフトウェア開発者双方を抱える必要がある。それに加えて欲を言えば、ビジネスサイドでお金を引っ張れる、投資銀行/VC等の金融出身者や、顧客業界と強いネットワークを持ち、業界を良く理解した上で、営業できるオトナ人材も欲しい。(この点日本のVCでもサポートをすべき点だと考える。)

・領域としては、化学/製薬、機械学習、続いて金融/物流のような組み合わせ最適化問題系か

海外で言われている通り、恐らく高分子解析やタンパク質の構造解析のような領域の立ち上がりが早いと考えると、日本でも大企業の基盤があり、狙える領域だと考える。化学はJSRや旭硝子、日東電工のような世界トップの企業もあり、製薬は資金も豊富で検討も進みやすそうと考える。また昨今注目を集めている機械学習周り、(まだ線は薄いが)金融の最適ポートフォリオ化や物流の最適ルート探索も十分想定される。

今後、私個人としては量子コンピュータ領域での起業を積極的にサポートしていきたいので、お考えの方がいらっしゃれば、気軽にお声掛け頂ければ幸いです。

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Masayuki Minato

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA