アーリー期のマーケットプレイスへの投資からの5つの学び

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クラウドソーシング、eコマースに代表されるようなマーケットプレイスは、SaaSやメディアと並んで代表的なスタートアップのテーマの1つだ。私の所属するGVでも数多く投資させて頂いていて、売り手と買い手のtwo-side platformならではのダイナミックさがある一方、持続的な成長にはハードルも多くあると思う。いわば「面白さも2倍なら、大変さも2倍」といった感じだ。

今回は、marketplace academyの記事をベースに、特にアーリー期のマーケットプレイスの成長に向けて知っておくべきトピックを、これまでの個人的な学びを踏まえて、共有させて頂く。


#1 ターゲティングの難しさ:”ニワトリとタマゴ問題”

売り手 vs. 買い手のどちらから始めて、どちらを重視すべきか?
マーケットプレイスの事業でよく出る問いだ。この答えはシンプルで、”売り手を押さえる”ことが最も重要になる。AirbnbやUberのような、過去の数多くのケースで見ても、サプライをいかに獲得していくかが、成長の一番大きな成約条件になる。マーケットプレイスの初期段階ではもちろんのこと、成長を続けていく上でも常に重要になる。

次の質問として良く出てくるのが、どの顧客セグメントから登るべきか?という問いだ。サービスローンチ初期においては、非常に重要かつ、答えを判断するのが難しい。これに対しては、”(ニッチでも良いので)自社のプロダクトで解決したい課題を一番感じているセグメント(=アーリーアダプター)”にフォーカスするのが、一番正解に近いと思う。なぜならば、顧客セグメントのフォーカスが絞られれば絞られるほど、その顧客にベストなソリューション提供することが容易になるからだ。例えば、ワークスペースのマーケットプレイスを運営するDeskbookerのケースでは、ニッチだが、特に課題を抱えていた教育関連に的を絞り、サービスを作りこみ、リピート顧客を増やしていった。結果、初期のGMV成長の大きな躍進力となった。


#2 流通の量 vs 質

また、流通の量と質のどちらを優先させるべきか?、というのも良く議論に挙がる。これを判断する上で、ポイントになるのが、顧客セグメント(アーリーアダプター)のフォーカスが絞れているか、否かだ。

顧客セグメントがしっかりフォーカスが絞れている場合は、より質重視の戦略となる。なぜならば、ターゲットの顧客セグメントは特有の課題を持っており、それを流通の”質”で解決することで、顧客満足度をぐんと上げられるからだ。これはアーリー期において非常に重要で、口コミでの拡大や顧客リテンションが期待できる。

一方、顧客セグメントのフォーカスが絞れていない場合は、より量重視の戦略を取るべきだ。とりあえず量をかき集めることで、流通を産み出し、そこから顧客セグメントを定め、質を追うことができる。
また、買い手が幅広いカテゴリの商品を求めるマーケットプレイスにおいても、量重視の戦略は重要になる。B2Cでは食品系、B2Bでは工具などの消耗品系などが好例だ。


#3 マーケットプレイスでのユニットエコノミクス

SaaS等では良く語られるユニットエコノミクスだが、マーケットプレイスにおいても重要な考え方の1つだ。このユニットエコノミクスの検証・健全化は、一般にはProduct/Market fitと同様に、seed期で投資家から求められることが多い。
※ユニットエコノミクスの詳細はこちら

しかし、ことマーケットプレイスの場合では、私見ながらearly期に入った段階で検証・健全化に持っていくのが妥当かな、というのが個人的な考えだ。私の考える理由は以下の2つだ。

  1. 売り手・買い手双方を温める必要があり、SaaSのようなone-side platformよりそもそも検証に時間がかかる
  2. マーケットプレイスは、一般にSaaSのようなサブスクリプション型が採りずらいため、リピートを積み上げにくい。初期では、リピート顧客の積み上げにCACが非常にかさむ上、季節変動等でLTVもぶれやすい。

この点を理解する上で、一般的なマーケットプレイスの市場普及率に対するCAC/LTVの変化を下図に示す。以下で判る通り、アーリー期のマーケットプレイスでは、健全なユニットエコノミクスを作ることは困難であり、暫く時間がかかってしまう。

marketplace academyより抜粋
フェーズ①:立上げ期
買い手/売り手双方の顧客を根付かせるために、CAC>LTVの状態が続く
フェーズ②:拡大期
ある一定の市場シェアまで広がると、口コミを含めたネットワーク効果によりCACが下がると共に、Take rate(手数料)を上げることができ、LTV/CAC > 3を大幅に超えてくる
フェーズ③:成熟期
市場シェアを大きく広げ、GMVを拡大するタイミングに入ると、ロングテールの顧客獲得が求められる。ロングテールはCACが必然的に上がってくるので、ユニットエコノミクスは若干悪化していく

【注記】マーケットプレイスのLTV/CACの試算方法
上記にあるユニットエコノミクス(LTVとCAC)を理解する上で、まずは簡単な一般例を以下で説明したい。

GV独自作成

ここでのLTVの考え方は、サブスクリプションをベースとしたMRRや顧客churn rateをベースにしており、LTV/CAC 3倍以上、Payback Period(CACの回収期間)=6–12カ月が健全なユニットエコノミクスと考えられている。

しかしながら、マーケットプレイスでは、サブスクリプション型を除いて、上記での評価が難しい。それは、1)MRRやchurn rateのような自動更新を前提としたビジネスモデルに合わない、2)顧客が売り手と買い手のTwo-sideで実態が見えなくなるためだ。

そのため、マーケットプレイスのユニットエコノミクスを考える上では、下記の算出方法を使うのが、一般的な手法として考えられている。

GV独自作成

上記のモデルは、マーケットプレイスのユニットエコノミクスを見る上で、大きく2つメリットが存在する。
・売り手/買い手に分けて計算できる
・どのパラメータがLTV/CACへ影響してるか、モニタリングできるため
 マーケットプレイスの改善の打ち手が考えやすい

実際には、特にマーケットプレイスの成長のカギを握る、売り手(サプライ)側がより重要なため、多くのマーケットプレイス型ビジネスにおいて重要指標として、モニタリングされている。(例. Uber, Lending Club, OpenTable 等)

ただ1点注意が必要なのが、健全性を測る指標についてだ。一般にはSaaS同様に設定されているが、そもそも限界利益率が低いマーケットプレイスではLTV/CAC>3倍はかなりチャレンジングな数値になると予想する。なので、自社のモデルを精査しつつ、補正した目標値の設定、ないしはユニットエコノミクスの各ドライバーの変動から、改善の打ち手を打つツールとして利用することが妥当だ、と想定される。


#4 マーケティング施策の考え方

マーケットプレイスのマーケティングを考える上では、3つのステップで施策をを打つのが一般的だ。

Step 1: SEOにフォーカスし、一定量の自然流入のトラフィックを作る
Step2:SEM、口コミ、ソーシャルマーケティング等に投資し、トラフィックを増加させる
Step3: 流通が伸び悩んできたら、TV CM、ラジオCM、チラシ、オンラインの広告キャンペーン等で流通の増加を図る

最近では、大型調達するマーケットプレイス系スタートアップも少なくない。その中で、いきなり多額のマーケ費用をStep 3につぎ込み、ブランド強化をしようとするケースが散見されるが、漏れなく失敗に終わっている。Step 3をやる前に、SEOでの自然流入のトラフィック基盤を作り切ること、マーケの効果測定をできるだけのデータベースを作りきることが最も重要だ。

ブランドは、流通を創造する手段ではない。あくまで加速させる手段にしか過ぎない。


#5 SaaS提供型マーケットプレイスの出現

最近のマーケットプレイスの進化において、特に注目すべきトレンドは、SaaS提供型マーケットプレイス-SaaS enabled marketplace(SEM)-の出現だ。従来のマーケットプレイスは、取引に関わるプロダクトのみを提供していたが、競争が激化する中で、顧客の要求水準も上がってきた。そこで、マーケットプレイスも、取引にまつわる様々な機能やサービスを提供するように進化してきた。

この好例がAirbnbだ。特に、貸し手(サプライ)側がより使いやすいように、種々の機能を提供している:借り手から良く出る質問への回答文集機能の提供や、Check-in/outの見える化ツールの提供している。今では、マーケットプレイス事業者が、非常に機能性の高い、リアルなSaaSを提供するを提供するのも珍しくなくなった。今やSaaSとマーケットプレイスの事業領域の境目があいまいになってきているように思う。

※参考までにSaaS提供型のマーケットプレイスの例を以下に示す。

Point Nine Capital資料から抜粋

今後、日本からもB2Bマーケットプレイス×SaaS提供するようなプレイヤーが増えてくることを期待したい。

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