いま起こっているSaaSの5つの進化トレンド

Masayuki Minato
12 min readMay 12, 2017

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Georgia Tech記事より

グローバルのSaaS市場は2018年までに約6兆円、年率19%で成長し続け、オンプレのシェアを奪っていくと予測されている。日本は欧米よりオンプレが強い市場性とはいえ、SaaS系のスタートアップの方と会う機会が増えている中で、日本でもこの流れは不可逆な潮流にあると感じる。

Gartner、IDC資料より作成

(ミクロな話だが、)一投資家として、ありがたいことに様々なSaaS系のスタートアップの方と日々議論させて頂く機会が多くある。その中で、SaaS市場が拡大する一方、どのようにSaaSが進化を遂げていくのか、日々思いを巡らせることが多い。そこで今回は、SaaS市場でいま起こっている主要な5つのトレンドについて、Bessemer VenturesPointNine等の記事をベースに紐解といてみたい。

SaaSビジネスの5つのトレンド

1. エコシステム化するHorizontal SaaS

2. SaaSのアンバンドリングとリバンドリング

3. 群雄割拠するVertical SaaS

4. Mobile-First SaaSの拡大。そしてIoT-First SaaSへ

5. SaaS+αによる“Solution as a Service”への転換

1. エコシステム化するHorizontal SaaS

まず、Horizontal SaaSとはマーケティング、営業、HR、開発のような企業内の特定部門や機能に特化したソフトウェアサービスを意味する。SalesforceやWorkday、Github等がこれに当たる。Horizontal SaaSは、SaaSの歴史を紐解くとSAPやMicrosoftが提供していたオンプレからの転換から始まっており、部門特化でオンプレが広がっていたことを考えると、SaaSの成長の中で自然な流れだったと言える。

PointNineブログより作成

いまのHorizontal SaaSのトレンドについて一言で言うと、Salesforceに代表されるような”カテゴリーの勝者”が決まり、成熟期の様相を呈している(詳細は以下)

主なトレンド/特徴

教育されたユーザー基盤:成長期に多数のプレイヤーがユーザー企業を教育してきたおかげで、ユーザーはHorizontal SaaSを十分使いこなせる

過酷な競争環境:群雄割拠する中でプロダクトは既に成熟してきており、プレイヤーも多く、プロダクトでの差別化が難しくなっている

”カテゴリーの勝者”の出現:Salesforce, Zendesk, HubSpot, Github,Slackのように特定領域での勝敗が見えてきた。CRMで言うと、SalesforceはCRM SaaSの中でSAPやIBM等の巨大企業を抑え、シェア16%でNo 1の地位を確立している

”カテゴリーの勝者のプラットフォーム化”:カテゴリーの勝者が決まっている中で、勝者のサービス上に乗っかるプラグイン型のmicro SaaS等のアプローチが増えつつある

まとめると、カテゴリーの勝者自体がプラットフォーム化してきており、次に話をするSaaSのアンバンドル・リバンドルのような新たなアプローチや、バリューチェーンの先にあるプレイヤーとプラットフォーム上でつながる例が多く出てきている。(但し、日本では勝者と言えるSaaSは、SalesforceとGithub位の印象なので、まだまだ余地はあると感じる。)

2. SaaSのアンバンドリングとリバンドリング

Horizontal SaaSがプラットフォーム化する中で、起こってきたトレンドがSaaSの”アンバンドリング”と”リバドンリング”の潮流だ。

SaaSのアンバンドリングのトレンド

まず起こったのが”アンバンドリングの潮流だ。具体的には、以下にあるMicro SaaSとUnbundling APIの出現がある。

MicroSaaSの出現:Horizontal SaaSの競合が激しくなり、カテゴリーでの態勢が決まってくる中で、SaaSとしてフルの機能を持たず、「寄らば大樹の陰」的にニッチ領域に向けたプラグインを提供したり、既存のSaaSを使いやすくするSaaSを提供するプレイヤーが無数に出現した。Shopify上で、より良いビジュアルツールを提供するStoremapper社が好例だ。

Unbundling APIの出現:APIをパッケージ化してSaaSとして提供し、ユーザー自体が好みのUXに改善できるようなSaaSが出てきた。マーケティングでのCleabits社やカスタマーサポートでのsupportive.io社が良い例だ。(競争が激しくなる中で自然な流れだが、ユーザー側に開発力が求められるため、ユーザー数が限定される等、スケールのしにくさが課題だ。)

SaaSのリバドリングのトレンド

この様なSaaSのアンバンドリングが起こった結果、ユーザー視点では複数のSaaSを運用する煩雑さが出てきてしまった。結果、次に起こった潮流がSaaSのリバンドリングの潮流だ。具体的には、SaaS Hubやデータ統合プラットフォームの出現、メッセージングAppからの染み出しがある。

SaaS Hubの出現:まずはカテゴリーのSaaS同士を一括管理する”SaaSのためのSaaS”というニーズが高くなってきた。例で言うと、マーケティング領域でのLytics社等がある。

データ統合プラットフォームの出現:また、マーケティング、カスタマーサポート、CRMといった別々のSaaS領域のデータを中央集権的に統合・分析したい、というユーザーニーズが出てきた。その代表企業は、segment.io社がある。彼らは「顧客に関する全てのデータを収集・統合・分析できる単一プラットフォーム(ハブ)機能」を提供している。

メッセージングAppからの染み出し:同様に、ちょっと情報を知りたいけど、複数のSaaSにいちいちログインするのが面倒というユーザー課題も出てきた。それと並行して、SlackやAttlassianが提供するHipchat等のビジネスチャットも普及が進んだ。結果、これらのサービスからの染み出しとして、SaaSの情報をユーザーに簡単に”お知らせ”するインターフェース機能を拡張する動きが出てきた。

3. 群雄割拠するVertical SaaS

Horizontal SaaSが上記の進化を遂げるのと並行して、特定の業界の課題に根ざしたVertical SaaSも増えているのも大きなトレンドだ。個人的な見解として、①マーケットが数兆円規模で大きく、②IT化が立ち遅れている、かつ③人手不足の課題感のある、ヘルスケア、物流、農業、建設、リーガル、ホテルなどの業界で特に色々なSaaSビジネスが広がっている。物流ではFlexport社や建設ではPlanGrid社が好例だ。

TechCrunch記事より

しかしながら、Vertical SaaS領域は、プレイヤーが多く出てきている一方、Horizontal SaaSとは2巡ほど遅れており、カテゴリーの勝者がまだ出てきていないのが特徴だ。具体的には以下に記す。

主なトレンド/特徴

ユーザーの教育コストの高止まり:そもそもIT化が遅れている業界のため、ユーザーのITリテラシーも高くない傾向が強い。そのため、SaaSビジネスが立ち上がるためには、ユーザーへの教育コストが非常に高いまま

カテゴリーの勝者不在=市場機会の広がり:上記の理由のため、Vertical SaaSは小さなプレイヤーが集まる分散市場で、Horizontalのような勝者と言える存在は出てきていない。チャンスはまだ広がっているが、よりやり切る力とそのスピードが勝負の分かれ目になる。(全てに言えるが)

4. Mobile-First SaaSの拡大。そしてIoT-First SaaSへ

業界特化型のVertical SaaSや、メッセージングAppに代表されるHorizontal SaaS(例. Slack)が広がりをみせる中で、出てきた潮流がモバイル-ファーストSaaSの流れだ。特にVertical SaaSの場合、業界の課題に根差したUXを求められ、モバイル活用による現場の生産性向上が競合優位性になるケースがある。例えば、建設業向けのPROCORE社はPMや作業員は屋外におり、PC環境だと作業効率が悪いため、モバイル-ファーストのアプローチをとっている。他スタートアップの例としては以下のとおりである。

Bessemer VP State of the Cloud Report 2017資料より抜粋

これに続いて、FitbitのようなB2C、農業や製造業のようなB2B領域でIoTの活用の動きが広がっている。その中で、IoT-ファーストSaaSも広がっていくことが予想される。(日本でも、IoTとソフトウェアを使って養殖の効率化を行うUMITRON社のようなスタートアップも出てきており、今後広がりをみせてくると想定される)

Bessemer VP State of the Cloud Report 2017資料より抜粋

5. SaaS+αによる“Solution as a Service”への転換

SaaSビジネスの基本として、初期のSaaS単体である程度までは順調に拡大するが、オンプレ/競合SaaSとの闘いで、顧客獲得コストは次第に上がり、高い利益率を維持することが難しくなる。従って、自然な流れとして、SaaS+αにより、積極的な顧客課題の解決策 -Solution- 提供をし、売上拡大のupsellや利益率向上の動きが活発になっている。例えば、ソフトウェアからソリューションへの軸足転換を謳っているIBM社もその好例の1つとして考えられる。

IBM社IR資料より

主な+αとしては、2つの大きな潮流が活発になっていると考える。

  1. SaaS+マーケットプレイス (SaaS-Enabled Marketplace/SEM)
  2. SaaS+AI/自動化

SaaS+マーケットプレイス (SaaS-Enabled Marketplace)

SaaS-Enabled-Marketplaceについては、以前記事で書かせて頂いたが、SaaSがバリューチェーンの前後にいるユーザーの顧客やサプライヤーとつなぐことで、顧客課題に踏み込んだソリューションを提供するサービスである。これにより、ユーザーをロックインするだけではなく、事業でアクセスできる市場(Total Accessible Market)自体を広げ、事業拡大させることができる。(SaaS単体の場合、国内では市場規模が100億円以下というケースもざらなので、TAMを広げる必要性が出てくる)1つの例はZenefits社だ。 ZenefitsはユーザーであるHRに、給与計算/勤怠管理/従業員情報管理のSaaSを無料で提供して、他方、保険会社の保険商品を、Zenefits上で企業/従業員が購入できるマーケットプレイスを展開している。(SEMについての詳細はこちら

SaaS+AI/自動化

もう一つの潮流としては、人工知能(AI)やBot活用による自動化によるソリューション提供の広がりだ。ご存知の通り、CPUやストレージの進化と共に、機械学習の技術革新が起こる中で、誰でも簡単にAIやBotに手を伸ばせるインフラが整ってきた。(直近では、Amazon社のAxela/Echoの音声認識が市場の注目を集めている。)

Bessemer VP State of the Cloud Report 2017資料より抜粋

その中で、SaaS単体のサービス提供から一歩踏み込んで、機械学習を使った面倒な情報入力補助(音声入力)やSaaSにたまった情報からの将来予測等のソリューション提供によりupsellし、事業拡大を狙うスタートアップも多く出てきている。今年IPOを予定しているCRM SaaS+ 営業行動予測/レコメンドを行うInsidesales.com社もこの1つの例だと思う。

Bessemer VP State of the Cloud Report 2017資料より抜粋

以上のように、欧米を中心にSaaSを取り巻く進化は日々絶え間なく起こっている。一方、日本はオンプレのシェアが高く、まだまだHorizontal SaaSも含めて周回遅れで、まだまだやれることが多い。しかし、このようなSaaS全体の進化トレンドを踏まえつつ、SaaSのサービス設計をどう進化させていくか、は国内のスタートアップにおいても重要な論点になる。

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Masayuki Minato

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA