いまのAIブームは本物か?

Masayuki Minato
9 min readJan 29, 2017

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Source: Infoworld, credit: Jeff Monahan, Proper Villains

ベンチャーキャピタルの仕事をしていると、起業家はもちろん、大企業や他の投資家の方々と、注目しているトレンドや投資領域の話をすることが多くある。最近は連日のように、人工知能(AI)に関するGoogleやトヨタ等の取り組みが報じられるようになって、特にAIをテーマとした話を聞かれることが多くなったように思う。その時に、

“いまのAIブームって、またブームで終わるのでは?”

と聞かれることがちらほらある。

個人的には、今のAIブームは本物で、トレンドとして継続していくものだと、思っている。

技術的に突っ込んだ話はさておき、ここでは一歩引いた、VC視点でこのAIブームが本物かどうか、説明したい。

そもそも、ここで言ってる人工知能(AI)とは何か?

まず、ここではAIの定義について説明したい。

GREE Venturesにて独自作成

上記の通り、一般的な人工知能の定義はわかりにくいので、これをもう少し分解して、UC Berkeleyの ジョン・サール教授が提唱した「強いAI・弱いAI」という概念で説明したい。

簡単に言うと、「強いAI」は、ウィルスミス主演の映画「アイ・ロボット」のイメージで、まだまだ研究段階でほぼ商用化されていない。一方、「弱いAI」はIBMのWatsonのように、主に機械学習やディープラーニング(後述)を活用して、大企業、スタートアップ問わず、サービスが出てきている。つまり「AIの技術はまだまだ大したことない」と言う人は「強いAI」をイメージしていることが多いが、「弱いAI」に目を向けると既に商用化されている革新的なサービスはたくさんあるのだ。

ウィル・スミス主演の映画「i Robot」より

過去のAIブームと何が違うのか?
AIという言葉ができた1950年代から、現在を含め、3回のAIブームがあったとされている。(以下の図参照)

「人工知能は人間を超えるか」(東大 松尾先生著)をベースにGVにて作成

過去、2回のAIブームは、迷路のような簡単な問題は解けたが、現実の複雑な問題が解けなかったり(主にアルゴリズムの問題)や現実の問題を解こうとしても、データの管理方法が煩雑、かつ容量の制限などによって使えなかったり(主にインフラの問題)、して沈静化してしまった。

それでは、2000年代前半から始まったこの第3次AIブームはどうか?
色々な専門家の方の話を伺って、私個人は以下の4つ変化によって、このブームはブームで終わらないと思っている。

【今回のAIブームがブームで終わらない理由】
コンピュータの処理能力が劇的に向上した
(70年で100兆倍に高速化!)
・実装可能な機械学習アルゴリズム技術の進化/商用化
(ディープラーニング(後述)の出現、商用可能な機械学習のクラウドサービスWatson, Azure, Amazon ML等)
・インターネットの普及・高速化
(
大量のリアルタイムデータが取得可能)
・デジタルなBig dataの取得の容易化/ビジネスでの利用増加
(スマホ、IoTの普及や、SaaS等の普及によるデジタルデータの取得容易化)

つまり今回のブームは、「AI側の頭の回転が速くなって、学習方法がより人間に近く、賢く/安く使えるようになった」∔「AIが処理するdata側が大量かつ、瞬時にとれるようになった」ことに起因しており、このトレンドは不可避と考えられる。

ディープラーニングとは何か?

ここで、今回のAIブームで商用可能なサービスが急激に増えてきている理由の一つである、ディープラーニングについて簡単に説明しよう。
・ 機械学習は、1980年代頃に出てきた、「データから繰り返し学習して、潜むパターン(特徴量)を発見し、判断・予測」ができるアルゴリズム
・ 一方、ディープラーニングは、2012年頃に、ヒトの脳の仕組みからヒントを得た「ニューラル・ネットワーク」を活用した機械学習アルゴリズム
・ このディープラーニングにより、特徴量の設定を「ヒト」ではなく、「機械」ができるようになったこと、またBig Dataを取り込めることが大きな革新のポイントである

ディープラーニングにより取り込めるデータ量が増え、特徴量の設定も機械化できることで、”予測精度が(実用に耐えうるくらい)圧倒的に向上”した。これにより、自然言語処理、画像認識、音声認識を中心に、既存サービスが改善してきたり、新しいスタートアップが出てきた。

身近な例では、以下のようなサービスは、お馴染みかもしれない。
・GoogleのRankBrainでの、検索ランキング予測の精度向上
(例えば、”オバマの奥さん”と検索すれば、”ミシェル・オバマ”が出てくるとか)
・Google翻訳アプリの「リアルタイム翻訳」
(手書き文字でも、画像認識をして、リアルタイムで多言語翻訳できる)

※もっと詳しく知りたい方は、こちらを読むのをお勧めする。

海外と日本のAI系スタートアップの動向は?

「僕らが本当に作っているのは、AIなんだよ。(ただの検索エンジンではなく)」

上の言葉は、2002年(!)の上場前にGoogle創業者のラリー・ペイジ氏が、WIRED編集長のケビン・ケリー氏に対して言った言葉だ。

その言葉通り、GoogleはDeep Mindの買収や、自動運転の開発、前出のRankBrain、画像のGoogle翻訳等、様々なサービスでのAI活用を積極的に行ってきた。Googleをはじめ、海外のテクノロジー企業(Amazon、Facebook、Baidu等)はこぞってAIを戦略、開発の柱に据えている。

結果、このAI系スタートアップの買収も近年活発化している。特に面白いのが、ディープラーニングが出てきた2012年以降に、ディール数が激増していることだ。このことからも、ディープラーニングの出現がいかにビジネスへの影響が大きかったか、がわかると思う。

目を転じて、スタートアップ業界を見てみると、16年までのVC投資動向は以下の通り。

グローバルでのAI関連スタートアップへの投資概況(CB Insightsより)

2013年以降、年率+50-100%でAI系スタートアップへの投資が激増しており、2016年には約5,000億円(ディール数 658件)にまで達している。US全体でのベンチャー投資が約7兆円、年率+20%弱であることを踏まえると、AI系スタートアップがいかに注目されているかがわかる。

特に100億円以上調達する、大型ディールが4件と多いのも2016年の特長だ。
・ ライフサイエンス×AIのZymergen社:130億円調達(シリーズB)
・ コンピュータビジョンのSenseTime社:120億円調達(シリーズB)
・顔認識技術のFace++社:100億円調達(シリーズC)
・イスラエル発のAIスタートアップ Voyager Labs.社:100億円調達

ちなみに、これを国別で見てみると、

AI系スタートアップへのVC投資の国別構成比(CB Insightsより)

1位はUS(62%)が圧倒的で、2位イギリス(7%)、3位 イスラエル(4%)、4位インド(4%)と先進的な研究機関やITに強い国が圧倒的に多いのが、現状だ。私の試算だと、日本のAI系への投資は約50億円程度で、US全体の100分の1、グローバル全体では1%未満にしか満たない。

これからわかる通り、国内のAI系スタートアップ市場は、まだまだ小さく、時間がかかりそうかな、というのが、個人的に思うところだ。この背景には、大きく2つの理由があると、私は考える。

【日本でAIの立ち上がりに時間がかかる理由】
・ Data Scientistが圧倒的に不足している
・(大企業を中心に)SaaS等のクラウドサービスの普及が遅く、進んでいない

1つ目は、海外ではData Scientistが社会的なステータスとして認識され、高額の給与(一説では、初任給で1200万円!)が提示され、Data Scientistを育成する教育機関も整備が進んでいる。一方日本では、まだまだ社会的な認知も広がっておらず、統計学を教えるような、教育機関もまだまだ少ないのが実態。
2つ目は企業側では、SIer主体のシステム開発が多く、会社によって入力データもぐちゃぐちゃで、異なるパターンも多いのが現状。そういう意味では、データクレンジング等のAIが処理するデータの前処理コストが低い、SaaS等のクラウドサービスの普及が必要になってくると思う。

そのため日本の場合、AIブームと並行して、SaaS系スタートアップの立上りが来るのでは、と個人的には期待をしている。

次回は、海外、国内で、どのようなAI系スタートアップがあるのか、深掘りしたい。

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Masayuki Minato

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA